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 俺は目の前に出された湯気がたった焼きそばを瞬きしながら見つめる。美味しそうだけどさ…………と考え込むように眉間を掻き、説明を求めるべく目の前で焼きそばを啜る迅を見るが、事情を知る当人の迅は焼きそばに夢中なのか俺を見ようともしない。新手の放置プレイと言っても過言ではないレベルで俺の視線を無視している。
それからしばらくして迅を頼ることを諦めた俺はどうしてこうなった、と改めて自分に問い掛けながら焼けた芳ばしいソースの香り漂う焼きそばを見下ろす。けれど、ゆらゆらと天井に向かって伸びていく湯気と比例するように冷めていく焼きそばと、隣で俺の様子を窺っている人物からの視線になんとなく追い込まれた気分になった俺は、無理矢理自分の行動を正当化するように手元にある箸を持って「いただきます」と呟いた。

「味はどうだ?」

俺は隣で仁王立ちしている人物の質問に一口焼きそばを頬張りながら、口の中に広がるソースの香りと玉ねぎの甘みとどう見ても多い肉の味を噛み締め、その旨さの感動を伝えるように声の主を見上げる。すると、そのフライパンを持って出てきた木崎さんという方は俺の言葉を聞く前に「そうか」と無表情で俺を見つめると多分キッチンへ戻っていった。
そんなに分かりやすい目をしていたんだろうか、なんて思いながら焼きそばを噛み締め、このよく分からない空間に流されている自覚を持ちつつも、空いていたお腹を満たすように上に乗った肉を食べ進める。すると、目の前で座る迅がくつくつと笑って箸を置き俺を見てようやく話し出した。

「さっきも言ったけど、この人は木崎レイジさん。玉狛に属しててオールラウンダーのスゴい人」
「…………スゴい人って、料理も美味しいんだな」
「そっ、料理も上手いオールラウンダー」

玉狛支部に足を踏み入れて初めて会った人の説明をその初めて会った人の手料理を食べながら聞くってどういうことなんだろう、と思いながらも結局焼きそばを食べる手は止まらない自分に、俺はこの異様な空間に流されつつあることを自覚する。そしてチラリと腕時計を見ると丁度午後十二時になっていて、技術開発室に二時間半近くいたんだなあという事実と共にお昼時だから昼飯として焼きそばが出てきたのか、と今更理解した。
いや、初対面でなにも言わず昼飯が出てくるのもおかしいよな。
すると、俺達の会話をカウンター越しに聞いていた木崎さんがキッチンから出てくると俺たちのもとにまたやって来て、迅の座る席の一つとなりの空席に座ると無表情のまま口を開く。

「悪いな、こんなものしか出せなくて」
「、スゴく美味しいですよ? え? もうめっちゃ美味しいですよ?」

焼きそばを食べる手を止めてから口を手で覆ってそう言えば、木崎さんは「そうか」と少し笑ってくれたので俺の思いが届いたと勝手に判断して食べ進める。実際ホントに美味しいし。

なんて俺が黙々と食べているとたまにその様子を楽しそうに見つめてくる迅の視線が向けられてきたので、俺は「保護者か!」とつっこみたい気持ちを抑えて焼きそばに入っていた人参を箸で摘まむ。

「なにさ」
「ん? いや昨日、結局クッキー作ったんでしょ?」

焼きそばを食べているというのに誤魔化して他の食べ物の話、しかも甘いものの話を出してくる迅を一瞥してから俺はコップに入った水で口の中の物を流し込んで口を開く。

「何でしってんの?」
「ボスに聞いた」
「……はー、なるほど、」

迅の言葉で自分が林藤支部長にクッキーをあげたのを思い出していると、木崎さんが不思議そうに「ボスで通じるのか」と呟いてから手元にあるコップに口をつけた。
どうせ昨日の時点で迅の中では俺が怒られながらお菓子作りにこきつかわれていた未来を知っていて、更に林藤支部長に渡したクッキーのことも知って言っているんだろう。

「いる?」
「いる」

俺の問いに即答する迅に俺は一瞬呆けそうになりながらも、迅はこういう奴なんだと自分の中で納得させ、椅子の下に置いていたリュックから二つクッキーの袋を取り出す。そして形のいい方を木崎さんに、なんか普通の方を迅に手渡した。

「悪いな、俺まで」
「いえいえ、お口に合えばいいんですけど」

木崎さんの言葉に俺がそう言えば、迅は「おれと態度変わりすぎじゃない?」と呆れたように小さく呟いてからクッキーを受け取った。
いやいや、目上の人には礼儀正しくしないとダメっていうかただ歳上の方が苦手で好きなだけで、別に悪意的に態度分けてるわけじゃない。
なんてそんな思いを焼きそばと一緒に飲み込んでいると、不意に足元にゴワッともフワッとも感じる感覚が足に触れて思わず焼きそばを食べる手を止める。

「それより迅くん迅くん」
「なんだい名字くん」

クッキーを片手に焼きそばを頬張る迅に、俺も焼きそばを頬張りながら言葉をかけ互いに咀嚼し飲み込んでまた見つめ合ってから俺は机の下を覗き込んでその正体を探る。

「なんか変なのここにいるけど」
「変なの?」
「…………雷神丸のことか?」

俺の言葉に迅は机を覗き込み、木崎さんはそんな俺達を見ながらなんかスゴく強そうな名前を口にする。え、雷神なの? 雷神丸ってこの茶色いカピバラみたいなやつ? え、オスなの? まず何でカピバラ飼ってんの?
足元にすり寄ってきた雷神丸に恐る恐る手を出してみると、雷神丸は俺をじっとつぶらな瞳で見つめながら相対し、何秒かのタイムラグがあって初めて俺の手の平に擦り寄ってきた。
なんて頭のいいカピバラだ、俺のことを観察していたぞ。

「てかまず、カピバラなの?」

のしのし、と俺のそばに近付いてきた雷神丸を視界の端に捉えながら焼きそばに向かって問い掛けると、焼きそばではなく迅が「そうなんじゃないかね」と曖昧に返事をしてきたので俺もそういうことにしておいた。

「名字、だったか?」
「あ、はい」

皿についた焼きそばの玉ねぎをかき集めていると、思ってもいなかったタイミングで木崎さんに名前を呼ばれてまた心臓がきゅんと高鳴るのを感じながら返事をすると、木崎さんは至極真面目な顔で俺の顔を見つめる。

「迅からおまえのことを色々聞いていて、気になったことがあってな」
「…………何でしょう?」

その真面目な視線を受けて俺が箸を止め、迅が俺の焼きそばから肉を奪い取っていったのも見なかったことにしながら木崎さんの言葉を待つ。何だろう、迅は俺のことをどう話したんだろう、ブラックトリガーのことか永続的C級隊員のことか。

「洞島のこと、なんだが」
「…………アキちゃん?」

木崎さんの口から出たアキちゃんの名前に俺は危うく箸を床に落としそうになる。まさか、木崎さんの口から……孤児院の人間以外の口からアキちゃんの名前を聞く日が来るなんて。

「フルネームは洞島紀晶で合ってるか?」
「そ、うです」

驚きで木崎さんから目を離せないでいると、迅も知らなかったようで「あれ、何でレイジさん知ってんの?」と俺から奪い取っていった肉を口に運んでから尋ねた。

「俺の一つ下の後輩だ。学校でも色々まあ……有名だったからな」
「そうなんですか…………」

一つ後輩ということは、俺とアキちゃんが一つ差だから、木崎さんは今二十歳の大学生か。ていうか、有名だったからっていうのは多分不良でだと思うけど、そんなに、一つ先輩のひとにまで伝わるレベルだったのか。
木崎さんは俺がこのアキちゃんのブラックトリガーを得た理由知ってるのかなあ、なんてことを考えながら残り少ない焼きそばに手をつけていると、早く食べ終わったらしい迅がクッキーの袋を開けてポリポリ食べ出したので、木崎さんも倣うようにクッキーを頬張ると「旨いな」と少し笑ってくれた。俺はまた少しきゅん、となりながらお礼を言う。話題が変わったみたいだな。

「昨日これ、孤児院の子と作ったんだ?」
「そうそう」
「……孤児院?」
「あぁ、俺孤児院に住んでて、そこで一緒に暮らしてる子供と作ったんですよソレ」
「そうか」

クッキーを一口で平らげながら俺の話に頷く木崎さんに視線を向けていると、迅がボリボリとクッキーを食べながら俺をじっと見つめなにか言いたげな視線を惜しげもなく向けてくるので、俺はしゃきしゃきと玉ねぎを咀嚼しながら目を伏せてサイドエフェクトを意識する。

『もう一個』

それくらい口で言えよ! 
と叫びたい衝動にかられるが木崎さんがいる手前そんなことは出来ないので、雷神丸の側にある自分のリュックに手を突っ込んで新しい袋を一つ掴んで迅に突き出すと、迅は棒読みで「さすがー」と言うとソレを受け取って即刻袋を開封する。

「名字って便利なエスパーだよなー」

もごもごとクッキーをくわえながらへらっと笑う迅を一瞥してから俺は最後の一口の焼きそばを頬張り、木崎さんに向かって「ごちそうさまでした」と頭を下げると、木崎さんはなにも言わずに立ち上がって俺と迅の皿を手に取るとキッチンの方へさげにいってくれた。すみません。

「迅お前、俺のサイドエフェクト乱用すんな」
「おれ何も言ってないよ」
「分かっててやるなって言ってんの」
「だって、名字のサイドエフェクトの理屈分かりにくいし」

クッキーの食べかすをポロポロ落としながら俺を見つめる迅に俺はため息を吐きながら視線を逸らし、まだ足元にいる雷神丸の頭を撫でながら迅の言いたいことを察して言葉を紡ぐ。

「俺のサイドエフェクトは『視線を読み取る』ことだよ」
「それに色々条件あるんだろ」
「まあ」

目敏く見ているのか未来を視てそう思ったのか分からないが、その事実を隠しておく必要もないので洗いざらい話すことにする。俺も迅のサイドエフェクトについて少し教えてもらってるわけだし。

「確かに、俺が意識して迅に向けられている視線を読み取ろうとしたときに制限されることが幾つかあるよ」
「一つは『目を伏せること』?」
「? あーそれは癖、あとは意識してる場合なら『受け取れる情報は四つまで』、んで『選定はランダム』『誰からの情報か分からない』くらい」
「うわっ、無駄にめんどくさ」

俺ではなく何故か聞いているだけの迅が嫌な顔をするもんだから、俺は少し眉を寄せて雷神丸の頭を撫でながら続きを話すことしかできない。

「けど、意識せず日常的に俺に対して向けられた視線を読み取るときは『誰からの情報かは分からない』っていう制限はついてても、どんな視線かいつでも分かるし何個でも何処からでも読み取れる」

具体的に言えば、昨日の会議室での林藤支部長の視線がこれに当てはまる。けれどこの事は迅に伝えていなかったので心の奥底で例として挙げておくと、迅は理解してないのを誤魔化すように少し首を傾げるので、俺は解りやすく説明する為に鞄から使わない紙を出し、真ん中にペンで『俺』とかく。

「おっ、流石」
「ちゃんと聞いてなさい」
「はいはい」

俺の出した紙を覗き込むように机に乗り出してくる迅に紙の上でペン先をトントンとつついて集中させようとすれば、潔く迅が返事をしたのでクッキーのカスをポロポロと紙の上に落としていることはスルーしてあげることにした。

「まず、同じ空間に1さん〜5さんまでいるとする」
「ほうほう」

俺の周りに1から5までの数字を散布させ、その一人ずつに吹き出しを書き、その傍に1と2にはハート、3と4と5には三角マークを記す。

「ハートが好意、三角がその他な」

前提としてそのマークの説明をすると、タイミング良く木崎さんが戻ってきて俺の手元にある紙を上から覗き込んで「なんの話だ?」と俺を見つめるので、俺は苦笑いしながら「俺のサイドエフェクトの話です」と答える。

「、お前サイドエフェクトあるのか」
「えっと、はい」
「解りづらいから説明してもらってる」

俺の言葉を補うように迅が木崎さんを見上げれば、その視線を受けた木崎さんも迅の席の隣に座って俺の説明を聞くような体勢をとり出したので、俺は苦笑いしながら眉間を掻いて諦めて続きを敬語に直して話すことを決意する。

「まず”意識せず”サイドエフェクトを使ってる場合、俺はこのマークの表面的な印象だけを読み取れます」

そう言ってからハート側の1の吹き出しの中に『憧れ』2には『期待』3には『不満』4には『疑惑』5には『嫌悪』と書き入れ、紙の下の空いているスペースに意識していない場合のメリットとデメリットを箇条書きにしていく。

「この場合俺には『憧れ』『期待』『不満』『疑惑』『嫌悪』の、全ての感情を読み取ることができます」
「今の俺達のも分かるのか?」
「みられてれば……言葉に表せないのもありますが何となく分かりますよ。そしてここで重要なことが二つ。一つは『この五人全ての視線を読み取れるけど、誰が誰の視線かは分からない』ということです」
「ほー、なるほどなるほど」
「つまりお前は、この五つの感情の情報しか得られないわけか」
「その通りです、まあ表情とか雰囲気で見当くらいはつきますけど」

そして、その文章を書きながら「もう一つ」と言って言葉を続ける。

「『俺の目が届かないところでも、相手が俺を見ていれば読み取れる』」

そう言って俺は1と自分との間に矢印を引き、その下に『二十メートル(俺は気づいていない)』と記す。
すると目の前の迅がはい、と手を挙げて当ててほしそうにしたので迅の名前を短く呼ぶ。

「モニター越しで見られる時も読み取れるんデショーか?」
「はい迅くん、良いところに気がつきましたね」

そう言って俺は迅にグッドサインを向け、補足のようにそのことを箇条書きの欄に書き入れてから、2と俺の間に線を引いて窓の役割を果たさせる。

「『何かを通しての視線は分かりません』。それはモニターもそうですが窓越しも分かりません」
「つまり、肉眼で何も隔てず自分を視認された時のみということか」
「はい。だからこの状態で俺が得られるのは、2の『期待』以外となるわけです」
「なるほどなるほど」

俺が『期待』に斜線を引きながら、次に”意識している場合”の説明を始める。

「さっきと同じ状況にするとして、結論から言うと俺が得られるのは1と3と4と5の情報のみ」
「…………こりゃまた、殆ど嫌なところばっかり読み取っちゃうな」
「あれ、ホントだ」

迅の指摘に納得しながら、箇条書きの欄に書き記す。

「但し、この場合『疑惑』『嫌悪』とかのみではなく、なんと、具体的なものもわかってしまいます」
「…………この状態だと辛いものがあるぞ」

木崎さんの呟きに自分の言葉のチョイスを責めながら345それぞれに吹き出しを追加し、1は思い付かないのでシカトして3には『何でアイツがあの仕事を』と、4には『本当に優しいのか?』と、5には『顔がキモい』と具体的に記す。俺の心は別に痛くなんかない。

「こんな感じで今新たに吹き出しに書いたことが読み取れるわけですが、注意点として『誰が誰の情報かは分からない』というのがまた発生するわけです」
「はい先生」
「はい迅くん」
「ここにおれたち二人がいた場合はどうなるんでしょうか」

そう言って迅は俺の手からペンを抜き取ると、紙の上の『俺』の近くに『迅』『レイジさん』と追加させて俺にペンを押し返す。

「はあ、この場合迅が…………」
「『クッキー欲しい』」
「迅が…………『クッキー欲しい』だとして、レ、木崎さんが……」
「…………『名前で呼んでいい』」
「きざ、木崎さんが『名前で呼んでいい』だとします」

二人の意見を冷静を装って紙に記入しながら言葉を続ける。

「この時俺に視線を向ける人は五人居ます。けれど注意点として『四人までしか読み取れない』というのがあり、また『対象はランダム』というものもあります」
「…………つまりどういうことになるの?」

にやにや、と俺の顔を覗き込みながら尋ねてくる迅に俺は渋々3の『何でアイツがあの仕事を』を斜線で消し、仕方なく最後の一つであるクッキーの袋を鞄から取り出して手渡す。

「つまり俺はクッキー好きだと知っている迅にクッキーを渡して、下の名前で呼んでいない木崎さんをレイジさんと呼ぶようになり、3と4か5の誰かに極力優しくして、誰かに会わないようにします」
「ほほー」

クッキー欲しいなんて言うのはこの中で迅だけだし、名前で呼んでいいというのは…………まあ多分表情とか、話の流れで、こういう結果になるわけだな。すると、早速クッキーをかじる迅にレイジさんは呆れたような視線を向けてから、さっきの迅のように小さく手を挙げたので、どうぞ、と当てる。

「例えばだが、狙撃手はスコープ越しに名字を捉えることになるから、視線は読み取れないということか?」
「そうですね、でも…………もし俺がその狙撃手を何も通さず肉眼で捉えられるのなら、読み取れます」

そのレイジさんの質問で俺も初めてその事実を再確認でき、大きく紙に『俺の肉眼優先!』と書いてから思い出したように言葉を続ける。だから、俺の知らないところで眼鏡の人が俺を見ていても気付かないけど、俺がその人に気づけば視線も読み取れるということ。窓越しなんかじゃ、体そのものが遮られてるから無理だけど。

「因みにですが『得られる情報は一回で一人一つ』です」
「そのなかで強い感情の方が優先される、っていうことではないのか」
「…………それはちょっと、分からないですけど」

今までここまでサイドエフェクトを解説したことがなかったし、相手を巻き込んでの実験なんて出来なかったから、真意を問いただす機会もなく、何となくでここまで来ていた俺には分からない。
するとそれを聞いたレイジさんが俺をじっと見つめると「読んでみろ」と言うので俺はその真剣な眼差しにきゅん、となりながら誤魔化すように目を伏せサイドエフェクトを意識する。俺が年上に弱すぎとか気づかないで欲しい。

『黒』

その読み取った情報に俺がぱちぱちと瞬きを繰り返していると、気を使って紙をじっと見ていた迅が俺に視線を戻して「どうだったんだ?」と尋ねてくる。

「え、いや、黒って」
「なるほど…………迅、お前もやってみろ」
「そうだね」

迅はレイジさんに紙を手渡すと、目の前で俺を視線で射抜くように見つめる。俺は横目で紙を見つめるレイジさんを確認してから、言う通りに目を伏せてサイドエフェクトを意識すると『孤児院での名字が見たい』という何とも意味の分からない情報を読み取って思わず顔をしかめる。

「読み取ったな?」
「はい、えっ、いや」
「じゃあ次は俺達二人でだ」
「…………はい」

レイジさんの言葉の通りに二人の視線を受けながらサイドエフェクトを意識すると同じように『黒』『孤児院での名字がみたい』と情報が読み取れた。なるほど。

「一回目も二回目も、二人とも『黒』『孤児院での俺が見たい』だったんですけど」
「お前…………そんなこと思ってたのか」
「まあ、でもこれでハッキリしたね」
「…………?」
「俺は『白』と『黒』を思い浮かべながら特に『黒』を重点においていた」
「んで、おれは『孤児院での名字』と『学校での名字』を思い浮かべて、特に『孤児院での名字』に重きを置いてた」
「…………つまり、意思の強い方が俺のサイドエフェクトに反映されるわけですね」
「そういうことだな」

そう言ってレイジさんは紙を机の上に置くと俺を見つめてくるので、俺は逃げるようにして迅に視線を移す。
すると迅はへらへら笑いながら俺を見て「良かったなー」と言ってきたので少しいらっときたのは仕方ないと思う。







「…………というか今さらだけど、何で俺ここにいるの?」

いつのまにか始まった俺のサイドエフェクト会議が終わり焼きそばを食べるという使命を終えた俺は改めて我に返ると、自分がここに居る明確な理由が思い浮かばなくて迅に尋ねる。

「…………今更?」
「今だからだよ」

めんどくさそうに背もたれにもたれ掛かる迅に俺が汗のかいたコップを掴んで言葉を待っていると、隣のレイジさんが眉間を押さえながら迅の代わりに答えを告げる。

「玉狛の訓練室を貸すって話だから建物の説明をするためっていうのと、迅が名字の練習相手になるって話をするためだろ」
「そうそう」
「…………迅が?」

前半のレイジさんの言葉は概ね予想出来ていたけれど、後半の練習相手がどうのこうのという話は聞いていない。

「勿論、レイジさんもたまにしてくれるだろうけど」
「それは構わない」
「…………ありがとう、ございます」

俺の状況把握能力が火を噴いているレベルで勝手に進む話に、俺は内心ちょっと休憩が欲しかったが、それが伝わっていたらこんなことにはなっていないのであまり口をはさまないようにする。

「あと、今日一緒に防衛任務だから」
「…………え」
「午後九時からだから、仮眠でもする? 部屋はいくらでもあるし」
「こんな時間から寝るなら学校に行け」
「あ、それもそうだ」

口を挟まなければ挟まないで怒濤のように進む展開に俺は現実逃避したくなって、足元で転がって寝ている雷神丸を見て癒されることにした。

「じゃあ、おれたちは学校行くかな」
「そうしろ、行けるときに行っておけ」
「よし、そうと決まったら四限に遅刻して…………名字聞いてる?」
「…………聞いてる聞いてる」

顔を覗き込んできた迅の顔をじっと見てから反応を返せば、迅は「よしよし」とへらっと笑って俺のリュックを掴むと、自分の部屋があるという場所へ勝手に行ってしまった。
俺のリュックを持っていったということは着いてこい、ということなんだろうかと察して椅子から立ち上がるとレイジさんも一緒に立ち上がり「俺も本部行くか」と小さく呟いてから何処かへと行ってしまった。

「…………フリーダムだなー」

俺が一人と一匹だけになった空間でそう呟くと、足元に居る雷神丸が寝転がりながらなにか言いたげな視線を俺に寄越したので、俺は何となく目を伏せた。




「…………雷神丸、やっぱメスじゃん」


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