13



 トリオン兵を蹂躙し、正直新型とか関係なく来るもの拒まずで警戒区域内を駆け抜けていたが、俺が警戒区域の境界ギリギリに辿り着いた頃にはB級合同隊の交戦は終了して人型近界民一体の撃破が確認されていた。そして南西のC級の避難にはトリマルくんや三雲くんが対応し、二人の人型近界民には迅と遊真くんが応戦してるとのこと。
そうなると、戦力的にも避難が遅れてるのは南と東となる。今まで倒してきたトリオン兵の数から見て、俺が倒した分他に被害が行かないと考えると無駄ではない気がするが。

「孤児院のほうは、あまり被害がないんだな」

警戒区域を出ないにしても近くに来て確認したが、民家が壊れたような様子もないのでホッと息を吐く。中学校と小学校のある方には慶をぶん投げたので多少大丈夫だとは思うが、後で俺も向かうので被害はそんなに無いだろう。慶が着くまでの被害は分からないが。
そんなことを考えながら警戒区域に沿って敵を倒していると、不意に何処からか視線を寄越されて思わず立ち止まる。

「…………なんだ?」

ここら辺の避難はさすがに終わっているだろうから市民は考えにくい、しかもこの『敵視』の視線から考えると新手の人型近界民か、と思い臨戦体勢に入る。
けれど、何時まで経っても動きはなくその視線は怯えにも感じ取れたので、見当が外れたことを悟った俺は辺りを見回す。屋根の上の俺の姿が見える場所を考えると少し遠いところか、俺同じ目線にいるか。
そんなことを考えながらキョロキョロしていると、ふと、警戒区域内の住宅のバルコニーらしきところに赤いものが動いたのを視界に映す。その正体が何なのか理解した俺は屋根を飛んでそこまで行き、バルコニーのある部屋の奥に小さな男女の子供が二人、俺を睨んでいるのが見えて息を吐いた。
なんでこんなところに、と問い掛けたいところだけど、俺は自分の格好のせいで怯えられてるのが視線で分かるので、いつも通りにこにこ笑ってバルコニーに足をかけて部屋にはいる。

「こんにちは、ボーダーです。助けに来たよ」

目線を合わせるべくしゃがみながらそう言うと、女の子の方は「ほんと?」と嬉しそうにしたが、男の子の方は女の子を守るようにしながら俺を睨んで「うそだ! ボーダーそんなかっこじゃないもん!」と言い放った。

「よく知ってるね、ボーダーのことすきなの?」
「、おれのにいちゃんが、ボーダーだからしらべたんだ!」
「そっかー、じゃあおにいちゃんのことが好きなんだね」

五線仆の換装を解きたいが、解けない理由が一本だけあるのでにこにこ笑って緊張をほぐそうとする。

「俺は格好が違うけど、ボーダーなんだ。あの悪いやつら倒す人達だよ」
「うそだ!」
「んんー、どうやったら信じてくれるかなあ」

そもそも何でここにいるのか分からないけどここにいては危険だから置いていけないし、かといって乱暴に連れていくとなあ……とは思ったが、バルコニーの方からがさがさと音がしたのでちょっと危機迫った俺は普通のトリオン糸で二人の体を巻き付けて屋根をシャンアールでぶち抜いてから、二人と一緒に上から脱出する。
思っていた通りモールモッドが壁を登ってきた音だったので、左から出したシャンアールで壁に張り付いている足を払って落とさせた。すると結構遠い後方からバンダーの砲撃が打ち込まれるのが分かったので、左の親指と中指で出したシンクルーを空中展開させて大きめの傘を作る。

「そういえば、なんでこんなところにいるの」

砲撃の直撃を避けるように屋根を移動し、降りかかってくる瓦礫から守るのに傘を二人にかざしながら問いかけたが、二人はそれどころではないらしく、撃たれて崩壊した住宅の跡地を見たり俺の顔を見たり忙しそうだった。とりあえず、ここに辿り着いた理由は何であれこの二人を避難させなければいけない事実は変わらないので、東の方にある小学校へ行けばシェルターがあるから目的地に変更はない。
そんなことを考えて方角がちんぷんかんぷんになった俺が本部を見て行くべき方向を定めていると、耳元から『嵐山隊からの通信です、繋ぎます』との声が聞こえた。

『名字、今どの辺だ!?』
「俺は、んー、警戒区域南東くらい」
『そうか、遠いな……わかった!』
「まてまて、どした?」
『いや、俺達は警戒区域内の掃討しつつ市街地に向かっているんだが、C級が散らばってるのとウチの隊員が減ったのもあって手が回らなくてな』
「近くにC級が逃げ込めるようなとこないのな」
『もう平面と同じようなものだ』

その焦り気味の声を聞いた俺は二人を空中展開した糸で浮かせつつ即席の弓矢でバンダーを打ち抜いてから、ここまでずっと繋いできた右手の薬指の一本を見て眉を寄せる。
『手を貸してやってくれ、指だけでもいいから』ってそういう意味かよ。
赤い屋根に下り立ち、一旦二人を下ろしてから集中するように目を伏せると、俺を見上げる女の子と目が合ったので微笑む。男の子はキョロキョロと周りを見てるようだ。

「嵐山、申し訳ないけど俺が嵐山に出来る手助けは一つしかない、それに初めてやることだから多少"歪"でも許してくれ」
『………何をする気だ?』
「とりあえず、シェルターを作るから、作って欲しいところに行ってくれ」
『シェルターを!? わ、わかった』

俺は嵐山と会ったときからここに来るまでずっと、細いシンクルーを邪魔にならないように空中展開させていた。正直移動する度に使われていくトリオンが勿体ないと感じたことは無くもないが、結果的に使われるのなら良かった。
ここまでシャンアールを使う際に手から切り離さなかったので、トリオンの温存は出来ている筈だからまだこれからやることに支障はない。耳元から『移動した』と聞こえた俺は嵐山の腰のベルトに結んでいた糸を取るのを、感覚だけでほどく。見ないでなにかを作ることはしたことがあるけれど、ここまで距離が離れていると気持ちの問題だけど……感覚が違う気がして戸惑う。けど、やらなきゃいけない。
前に玉狛支部の訓練室でトリマルくんと一緒に作ったような半円ではなく、人が入るのだから四角がいいだろ。それに強度も必要だから格子じゃ足りない、何度も繰り返し縫って……でも素早くやる。
頭のなかで出来上がっている物と今現在嵐山の前で出来ているものにどのくらいの差異があるのか不明だが『すごいな……』と嵐山が驚く声は聞こえたので、ここまま作り上げる。
強度だけを考えた正方形だしシンクルーしか残せなかったので大したアレもないが、二十秒ほどで出来上がったその即席シェルターを見れない残念さを飲み込んで「どう?」と尋ねる。

『スゴいぞ! あっという間に……おっと、』
「ん?」
『いや、見とれててつい、敵に気がつかなくてな』
「あーはは、まあ、こんなんでよけりゃ、俺のトリオンがあるかぎり作れるよ」
『………俺と出会ったときからずっと繋いでるのか、これ』
「うんまた腰に繋いどいて、ああでも五線仆オフにしたら消えちゃうから、そんときはゴメンね」

若干疲れたがそんなこと言ってる暇もないので二人をまた抱えて謝ると、爽やかに嵐山が『助かった、お礼は今度する!』と言って通信を切ったので、息を吐く。そんな俺を見た女の子の方は「あらしやまって、あのあらしやま隊?」と聞いてくるので短く返事をしたが、怒濤の展開が過ぎて我に返った俺は周り見てはそわそわしている男の子に気づいて声をかける。

「どうしたの?」
「………さっき、ここに逃げてくるときお兄さんとお姉さんが見えたんだ」
「、え?」

逃げてくるとき、ということは近界民に追われて彼処に隠れていたのか。
というか、えっと、お兄さんとお姉さん?

「そのふたりって、君の?」
「ちがう。一緒に逃げてきたんだ」
「…………何処に行ったかわかる?」
「わたし、わかるよ。さっきのおっきい家のところからこっち見てたもん」

警戒区域内に逃げてきた市民、そう気付いた俺は二人を抱えたまま来た道を戻る。ちっとも目的地にたどり着けない現状に焦る俺は、その大きい家とやらが分からないまま足を動かす。

「おっきい家って、どれかわかる?」
「うん、あれ」

指を指した方向には家というよりちょっとした商社ビルだったので、俺は二人を抱えているため乱暴な事が出来ないので仕方なく地面に下り立ち、正面玄関から入る。
こっちを見ていた、ということは多分窓から見ていたということ、七階ほどしかないし、屋根を渡っていた俺の方からも相手の方からも見えたということは下の階はまずない、そもそも逃げてきたのなら下にいる意味がない。だったら四階からくらいだろう。そう見当をつけた俺はエレベーターが壊れて一階に落ちてきているのを見つけ、二階に上がってからそのエレベーターの扉をこじ開けて上を確認する。暗いけど、何階かの扉が開いてるので光が入っている。

「よし、ちょっと暗いけど、我慢してね」

そう言って二人の頭を撫で、粘着性のあるイルーをエレベーターの通る道の一番上に貼り付け、前に本部でやったときのように巻き取る力で上に上がる。
三、四、と上がると丁度扉が開いていたので「誰かいませんかー! ボーダーです!」と叫ぶ。すると微かに声が聞こえたので耳を澄ますと、どうやらこの上の階かららしく、五階のエレベーターの扉がドンドンと叩かれた。

「たすけてください! 誰か!」

その声に導かれるように俺は上昇し「離れてください!」と声をかけてからシャンアールを扉の隙間に通して四角に切り取る。
そしてそこから五階に降り立つと、嗅いだことのある匂いが充満していたので腕の中にいる二人を思い出して一旦背を向けと、すぐ近くに居た男性が俺の腕をつかんだ。

「たすけてください! ウチの嫁が!」
「、わかりました、少し落ち着いてください。とりあえずこの二人をまかせていいですか?」
「は、はい」

俺は二人を眼鏡の男性に任せ、俺は血の匂いの濃い方へと足を動かし、そこに居た床の倒れてる女性の姿を見て眉を寄せる。
近くに寄ってみると意識があるらしく、荒い呼吸を繰り返しながら薄目で俺を見つめたので「ボーダーです、安心してください」と言葉を放つと安心した視線を向けられた、よかった。
見たところ足と頭から血が出ていて、足の怪我は簡単に止血されているため問題はなさそうだけど頭からの血が止まっていない、どうやら止めようとはしているらしくハンカチで傷口は押さえられていた。俺はトリオン糸を出し、そのハンカチと共に頭に糸を巻き付けて固定しておく。けれどこの傷よりももっと重要視すべきは、この女性の腹部の膨らみだ。

「破水してます?」
「っ、ええ……つ、いさっき」

怪我だけならまだしも、これがあるか。
俺はさっきまで焦っていたはずだったが、この場面に立たされて変に頭が冴えて悟る。

俺の死ぬ未来に、近付いてる。

妊婦さんの脈を計り、遅すぎることに気付いた俺は立ち上がって自分の頭を叩いた。しっかりしろ、俺。早く東に行くには早くここをどうにかして全員で生き延びろ。
そう思った俺は窓からトリオン兵がここらをうろうろしてるのを見つめて、ここに居るのがバレるのも時間の問題だと察して本部へ連絡をとる。

「名字ですが、一度戦線離脱します」
『、何故ですか』
「警戒区域内で四名の市民を確認し内一名は妊婦で且つ破水しているため、ここから一番近い安全地帯が警戒区域外に移動する他ない為です」
『別の隊員が南東に向かっています、待機していてください』
「…………それはどの程度かか、」


ガシャンッ!


この建物内の何処かの窓が割られた音がした。
その音に怯えた男性が二人を連れてこちらに寄って来たのを見つつ、舌打ちをかます。無理だろ、こんなの待ってられないだろ。
この状況下で応戦することもできない俺は素早く右手の中指と親指から出したシンクルーで板を編み、そこにゆっくり妊婦さんを寝かせてその上からトリオン糸でぐるぐるに巻いて出来るだけ振動を与えないように宙に浮かす。
そして他の三人も残りの人指しから出したグールで纏めて巻き付けようと糸を伸ばした瞬間、三人の居た付近の床が崩れた。

「くそっ、」

体勢を崩しながらも三人をキャッチし、その崩れた穴から出てきたのがまさかの新型である不幸へ更に舌打ちを鳴らす。近くの窓を割った俺は左手の指から出したトリオン糸を屋上の柵にくくりつけて巻き取る力で上昇し、割った窓から全員を傷付けないように脱出させてそのまま屋上に上がった。

「考えろ、」

今使える指は左手四本だ。
ここから四人を助けるには警戒区域外しか選択肢はない。
俺が五線仆を使えるのは警戒区域内のみ。
五線仆を解いたらこの妊婦さんは運べない。
早く東部に行かないと役割が果たせたことにならない。

「っだああああ! わかったよ!!! 俺のトリオンがんばれ!」

右手の親指と人指し指を妊婦さん、中指を三人に、薬指を嵐山に使っている俺は後ろを振り返ってビルの屋上から警戒区域外を眺める。確か、孤児院の二本先の道に診療所があったはず……良かったビルが高いから、若干見える! 今はどうせ避難していて誰もいないけど何もないところよりはマシだろうし、運ぶ目的地があった方が俺も楽だ。
新型が咆哮と共に俺たちのいるところとは見当違いの場所に砲撃をしたらしく、地面に穴が空いたのが見えた。
もう無理だ、わかったよもう考えてる暇ない。

「すいません、診療所へ運ぶから、ついたら糸を思いっきり引っ張って」

男の人にそれだけ伝え、悪いが妊婦さん以外は一纏めにするため三人をグール一本で巻き付け、それぞれの返事を聞く前に勢いよく四人をのせた二本の糸を伸ばす。妊婦さんの方はただのトリオン糸だからいいとしてもグールの方はトリオン消費がすごい。こんなこと初体験過ぎてくらくらしそうだが、誰も死なせない為にはこれしかないので早くたどり着くのを祈ってトリオンを消費し続ける。ここから孤児院まで大体徒歩五十分ほどかかるくらいだから診療所までは四キロ程度、しかも空中を移動してるから遮蔽物もないしもっと短い距離で届けられる可能性があるし、大丈夫、信じていけ。自分がいままでやってきたことを。

「あ…………トリオンごりごり減るって、こういう感覚ですか」

また新たな感覚を知ってしまった俺は驚きや焦りより、冷静さの方が上回っていた。
このままいくと、俺はやばい、それがわかる。だからどうにかしてやろうと思える。
そんな自分への鼓舞を忘れずにまだ無傷の自分の体を確認していると、さっき空けられた砲撃の穴ではなく、両肩の推進器のようなもので建物の外から新型が上昇してきたかと思いきやキラリと目が光ったので思わず横に跳ぶ。すると俺が今立っていたところに鋭い砲撃を打ってきたので見てきた白色と黄色とは違うことを察した。
荒々しく屋上に降り立った新型は俺と向き合う。
ここから立ち去れない俺はしっかりと向き合い、残りのトリオンが間に合わない気がしたので仕方なく嵐山に伸ばしていた糸を消す。消したからといってトリオンがもどるわけじゃないけど、これ以上嵐山が離れていくとトリオンは消費されていくから……ごめんな嵐山。

「けど、生きるためなんだ」

肩の推進器の力を利用して勢いよく突っ込んできた新型に一本のシャンアールで迎えうつ。
ここから動かないことを前提にしているため、切りつけようとか捻切ってやろうとかいういつもの手法は効かない。いなしたり避けたり、押して距離を保つ。
本部からの通信を聞きながらドンドン右手から消費されていくトリオンに気を配り、目の前にいる少し気性の荒い感じのする新型の相手をする。
白色よりはパワーが劣るし目の砲撃も短い予備動作があるので大したことはないが、推進器っていうかジェットみたいのがこの狭い足場だとムカつく。一定の動きじゃないので読みにくい。

「、こりゃ今倒せねえわ」

諦めた俺がシャンアールを気付かれないよう仕舞ってからすぐにイルーを出して屋上にある扉と柵の間にイルーを幾つか仕掛けると、見事に引っ掛かったのでその隙をついて新型の目にイルーを巻き付けてやる。
それを取ろうと暴れだし、手で取ろうとした片方の手にもイルーがくっついたのを目の前で見ていると、中指が何度か引っ張られた。
俺はその感覚に神経を研ぎ澄ませ、ゆっくりゆっくり下ろしていくイメージを浮かべて糸の力を抜いていく。糸を長くするのにも浮かべるのにも別々にトリオン消費するのはなかなかだな、と思いつつ余裕を持って力を抜いていくともう一度引っ張られた。感覚で人指し指の糸を交差させバツを作り、中指で円を作ると、中指の方が再度引っ張られたので俺は思わず微笑む。
よし! 着いた!! あとの避難は任せよう!
そして直ぐにその二本を消して目の前の新型に集中しようとそちらに目を向けた矢先、知らない内に開いていたらしい口から砲撃が放たれようとしていた。
それを避ける間もなかった俺は反射的に柵に飛ばしたままのイルーを巻き取って、移動の力だけで砲撃を避けようとする。
が、間に合わず左の膝から下が吹き飛ぶ。

「っやば、」

あと少し、あと少し頑張ればここを凌げる。
俺はシンクルーで靴下のようなものを生成しトリオンの漏れている左の足に着けて応急処置したが、推進器の勢いでイルーから足を剥がしたらしい新型が俺に突っ込んできたので、右手と左手にシャンアールを二本ずつ生成しようした。
けれど、結果的に現れたのは右手と左手に一本ずつだったので、そろそろ限界を感じた俺は屋上の柵を飛び越えようと足をかける。

「おわっと、」

目を潰されてるくせに構わず突っ込んで振りかぶってきた耳の良いらしい新型の手を避けたが、今作った方の足で瓦礫に躓き後ろから倒れた。
そして唸り声のうるさい新型が上に覆い被さるようにして俺の両手をイルーにくっついてない片方の腕で床に押さえつける。そして腹を開けて変な機械の触手みたいのを出してきたのを見て寒気を覚えた俺は、新型の顎をシャンアールで砕いて顔を半壊させた。きもい。
それでも止まらない新型に苦笑いを浮かべ、"邪魔"な屋上の出入り口をシャンアールで切り刻むと、砂ぼこりをたててそれが崩壊する。
そして耳がいいらしいソイツが一瞬そちらに気を取られたのを察した俺は、引き寄せた自分の足で新型の半壊した顔を蹴って横を向かせた。






『いい角度だ』



その声と共に新型のモノアイらしきものが目の前で撃ち抜かれ、機能を停止した新型が俺の上に完全に覆い被さった。
ようやく、来てくれた。
達成感を邪魔する重さを乱暴に退かして息を吐くと、落ち着いた声で『お疲れ、よく耐えた』と褒められたので本当に泣きそうになる。

「うええん、東さんんんん、来てくれたあああ」
『来るって聞いてたんだろ』
「それでも、俺レーダーとかないし……一瞬視線で来てくれたの分かりましたけど」

新型と距離を保ちながら攻防していたときに本部の通信で東さんやらがこちらの避難誘導やトリオン兵撃破のためもうすぐ着く、と聞いたのでトリオンの残り少ない俺は自分が手を下すのを早々に諦めた。
誰かに頼るのは本当はすごく申し訳なかったが、けど、死にたくなかったから自分の命を自分じゃない誰かに託した。俺の役割は俺以外の命を俺が守り抜くことだから。

『お前、物凄い量のトリオン兵撃破したんだな……あの天羽に次いで二番目だとさ』
「あもう? よくわかりませんけど、俺は東部にいくので! 今度なんか恩返しさせてくださいね!」

俺は残り少ないトリオンを悟りつつ、東さんにもう一度お礼を言ってから屋上を飛び降りる。
これで俺は死ぬ未来から免れたんだろうか。
俺の今持ってるものはほんの少しのトリオンだけど、これから警戒区域外に出るつもりの俺は一度訓練生トリガーへ換装しなければならない。持つだろうか。
そんな自分の現状把握を終えた俺は、本部の人に今の状況を聞き出す。
初めの頃に東部に現れた人型近界民は俺の知らない内に本部へと侵入したらしいが、風間隊と諏訪隊が協力して撃破したらしい。風間隊……狙った獲物は逃さないよね。
そして南西のほうは遊真くんと迅が人型近界民と一対一でやり合ってる最中で、三雲くんたちは敵の狙いとなった千佳ちゃんを守るべく本部へと邁進しているとのこと。
皆戦ってる、自分や誰かのために。俺も負けられない。
そう強く感じた俺は、東部へと走った。

TOP