意気地なしヒーロー。

意気地なしなりの謝罪


 物間に会えない。昼休み、響香ちゃんと八百万さんとお昼を食べながら私は頭を抱えた。
 朝、相澤先生から体育祭の日が近付いているという話を聞き、皆が浮足立つ中、私はずっと物間に謝ることばかりを考えていた。物間は嫌味しか言えない嫌なやつだけど、まあ可愛いところもあるし、何より雄英に来て初めて出来たちゃんとした?友達、だし。だからずっと喧嘩したまま話せないでいるのは嫌だ。そう思って、ホームルームが終わり、すぐにB組の教室の前に行ってみた。中を覗くまでは出来なかった。そんなんだから当然物間に会えるはずもなく、それから今、昼休みになるまで物間を探してはみたのだが、会えない。見つからない。まあそりゃあクラスを覗くことすら出来ないのだから見つかるわけもないのだが。しかし、今まで割と自然に毎日会えていたのでここまで見当たらないとちょっと心が折れてくる。そういえば物間と会う時って大体向こうから声掛けてきた気がする……ああ私物間に興味がなさすぎた……というか声掛けてくれるのが当たり前みたいになってた……うわあ……
 と、自己嫌悪に陥っていれば、横から響香ちゃんが「どしたん?」と顔を覗き込んできた。若干泣きそうな顔で頭を上げた。

「うわっ、ほんとにどうした?」
「悩みごとですか?」

 目の前の席に座る八百万さんも心配そうに聞いてきた。うわあ、何この二人めちゃくちゃ優しい……うんやっぱり友達ってこんな感じだよね……物間はちょっと私に厳しすぎたよね…?

「うん……ちょっとね…」
「なに? なんかあるならウチらが聞くけど」
「ええ、任せてください!」

 どん、と胸を張る八百万さんがめちゃくちゃ可愛い。しかしこんなこと相談するのもなあ、と首をひねっていれば、「あ、もしかして体育祭のこと?」と響香ちゃんに聞かれた。あ、いや違う。これは勘違いされる前に言わないといけないやつだ。

「ううん、それは違うんだけど」
「ふーん? じゃあなに?」
「その……暫くお昼をB組の子と食べてた…のは、知ってるよね?」
「ああ、うん。知ってる」
「そうなんですの?」
「うん、そうなんだ」

 八百万さん知らなかったのか。知ってる体で話しちゃったからちょっと恥ずかしい。

「それで……なんか、その子と喧嘩、しちゃって」
「喧嘩?」
「うん。それがあのUSJでのことの前の話で、昨日休校になっちゃって更に話す機会なくなっちゃって……完全に謝るタイミング逃したというか。会えないというか」
「ふーん…? 女の子?」
「いや男……性別関係ある?」
「あるでしょ。え、男なの? へえ」

 おっと、響香ちゃん割と楽しんでないか? あれ? なにニヤニヤしてるの八百万さんまで。

「入学してすぐなのにやるねえ瞬」
「えっと? 響香ちゃん?」
「青春ですわね、石動さん!」
「なんの話かな八百万さん!?」

 なんか二人とも勘違いしてない? あれ? 冷や汗を流しながら必死に否定するが、聞き入れては貰えそうにない。それどころか響香ちゃんに「どうなの? イケメン?」と問われてつい物間の顔を思い浮かべ、「優男風のイケメンかな…」見た目は、と心の中で付け足しつつ答えてしまい、更に油を注ぐことになってしまった。

「物間はそういうんじゃないんだってほんと……っていうか喧嘩中だし……」
「まあまあ、喧嘩するほど仲が良いって言うしさ。っていうかそれどっちが悪いの? 謝ろうとしてたし、瞬?」

 問われて、考える。どっちが……と言われれば、そりゃあこっちが謝ろうとしているわけだし、私が悪いのかもしれないが、あれはそもそも普段の物間の態度も悪かったわけで、一概にどっちが悪いとは言えないのだ。

「まあでもとりあえず私も悪いし、謝りたいんだけど」

 どうにもうまくいかない。まず会えない。やっぱり食堂をぐるりと見渡しても物間の姿は見当たらないし、溜息が出そうになる。本当にどうしよう。

「B組行ってみれば?」

 至極当然のことを言われて、グッと言葉に詰まる。行けたら行ってるんですけどね……ほら、知らないクラスに入るのって勇気がいるじゃないですか…? そう言ったら首を傾げられた。おっと。あれ?

「まあ、頑張りなよ」

 響香ちゃんにポンと背中を叩かれて、力なくうんと笑った。


 ▽


 そうして、放課後。教室から出てくる物間を狙おうと、ホームルームを終えてすぐに教室を出ようとして、固まる。出られない。物見遊山の如くA組の教室の前に集まった人だかりが壁になり、外に出ることが出来ない。早く行って待ち伏せしたいのに、と扉の前で足踏みする。うーん、この前の敵襲撃事件のことでかなりA組話題になってるからなあ……どうしよう……

「物間帰っちゃうじゃん…」
「急いでんのか?」

 ぼそりと呟いてため息を吐いていれば、近くにいた轟くんに声を掛けられた。驚いて「うわっ」と声をあげてしまい、慌てて口を抑える。しかし轟くんはさして気にした風もなく、首を傾げた。

「う、うん………その、ちょっとB組の子に用があって」
「B組? B組に知り合いいんのか」
「うん……えっと」

 轟くんの問いに頷き、少し考えて、ちょっとだけ照れながら、笑った。

「と、友達……なんだ」

 轟くんは少し驚いたような顔をして、黙った。言ってから更に恥ずかしくなって、一人で照れた。あははと照れ隠しに笑って、顔を背ける。喧嘩中で、もしかしたら嫌われてるかもしれないのに、何言ってんだ私。

「………B組なら」

 一人で照れていれば、轟くんが口を開いた。え?とそちらを見れば、人混みの中を指差して、轟くんが言った。

「あん中にいたりするんじゃねえか?」
「…え、あ」

 言われて、確かにそうかもと思い、慌てて目を凝らす。…と、いた。かなり後ろの方に、判別するのも難しい程度に見えるくらいだけど、多分、物間だ。しかし物間は人の多さに諦めたのか、踵を返してしまう。あ、やばい、待って。

「あ、えっと、轟くんありがとう! じゃあね!」
「え、あ、おう」

 慌てて教室を出て、人混みを掻き分けて前に進む。うわ、全然進まない。ちょっと、通して、物間行っちゃうんですけど! 通行妨害! 雄英の生徒がこんなことしてていいんですか!
 あまりの進まなさに苛つきながらも、少しずつ、前に進んでいく。うわあ、人口密度高すぎる……そんな物珍しいものなんてないけどね! いやほんと! 力を入れて前に進んでいると、突然人がいない所に出た。力んでいたのに急に圧力がなくなって、え、と、重力に従って、前へと倒れていく。

「ぅ、わっ、」

 転ける――と、思わず目を瞑った時、誰かに抱き留められる感覚。え、と目を開けると、赤髪の、ツンツンと髪の毛の立った男の子が私を支えてくれていた。

「……え、あ、」
「大丈夫?」
「あ、は、はい! すみません、ありがとうございます!」

 慌てて離れて、お礼を言う。赤髪の男の子は軽く笑って、「いいよ、気を付けて」と言って、人混みの中に入っていった。人混みの奥で爆豪の声が微かに聞こえた。うわあ、またなんかやってんだろうなあ……出てきて良かった。

「って、そうじゃない、物間!」

 思い出して、急いで走った。まだそんなに遠くには行ってないはず。廊下は走っちゃいけないものだけど、まあ今回は大目に見てほしい。急いでるから!

「もの、まっ」

 後ろ姿が見えて、名前を呼んだ。物間が振り向くと同時に追いついて、腕を掴む。走ったので疲れて、ほとんどすがりつくように掴んだ。頭上から「え、は!? 石動!?」と物間の驚いたような声が聞こえた。あ、というかこれってテレポートすれば早かったんじゃないか…? そもそもあの人混みもテレポートすればすぐに抜けられた気がする……うわあ……馬鹿だ私……

「はあ、はあっ、」
「な、なんだよ」

 逃がさないようにぎゅうっと腕を握って、息を整える。完全なる運動不足……うわあ……
 段々と整ってきた息を最後に大きく吐き出して、物間を見上げた。ジッと真っ直ぐに見ると、物間が少したじろいだように見えた。

「あ、あのさ!」
「っ」
「その! この前のこと、ごめん! 友達だと思ってなくて!」
「ぐっ…!」

 言った瞬間、物間に矢印状の何かが刺さるのが見えた。あ、やべ、間違えた。

「おっまえ、謝る気あんの…?」
「ヒィ!? あるある! あります!!」

 更に怒らせてしまったらしい物間に睨まれて、慌てて首を縦に振る。謝る気は物凄いあるんだけどねほんとに!! 間違えたごめん!

「えっと、だから! その……悪かったと、ほんとに思ってて、その……ええと」

 言いたいことが纏まらず、頭を掻く。腕を掴んでいる手が震えた。そういえば、私って友達と喧嘩したことないんだ。

「だからっ……その、」
「………」
「友達にっ! なってください!!」

 言って、頭を下げた。やってしまってからまたすぐに「…あれ? ちがくね?」と思ったがもう遅い。謝りに来たはずが友達申請をしてしまい、かなり間抜けな形で私は固まった。

「…むり」

 頭上から、物間の声が降ってきた。その二文字に泣きそうになって、ぐ、と唇を噛んだ。駄目だった、と、顔をゆっくり上げて、腕を掴んでいた手の力を緩めていく。腕から手が離れそうになったところで、ガシ、とその手を握られた。

「……え」
「石動全然、何にも分かってない」
「え、?」
「僕は最初から、友達だと思ってるって言ってるだろ。もう友達だから、今からなるのは無理」

 掴まれた手と、その言葉の意味をしばらく理解できず、固まっていた。しかしすぐにその意味を理解して、目を見開いた。ボロッと涙が溢れた。

「もっ、う゛っ…」
「は!? 泣…!?」
「良かったあああ゛…」
「わ、分かったから泣くなよ!? おいってば!!」

 ボロボロと泣く私に慌てる物間はキョロキョロと周りを見て、誰かに助けを求めていたようだけど、生憎周りには誰もいなくて、しばらく一人で慌てていた。

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