意気地なしヒーロー。

入学早々の試練


「うわあ………でか………」

 私は教室の扉の目の前でうんざりとそう呟いた。ありえねーだろなんのためだよ………まあでもこの扉じゃなきゃ通れない人もいるんだろうな……バリアフリーってやつか………うん………でもなんかもう雄英高校の全てにケチを付けたい………私ここのヒーロー科以外ならどこでも良かったんだよ………いやほんと………勉強なら出来るしこのご時世でもいい大学入れるしテレポートの個性なら職業よりどりみどりだし………

「………何で私雄英来たんだろ……」
「ねえそこ邪魔なんだけど」
「、え、あ、ごめん」

 扉の前で項垂れていれば、ふと優男風の男の子が声をかけてきた。どうやら教室に入りたいようで、邪魔だと言われたので慌てて退く。もしかして同じクラスだろうか………
 その子は退いた私をジッと見て、「君もB組?」と問うてきた。ん?と首を傾げる。いや、確か私はA組……そう呟くように答えながら、扉をちらりと見る。��1‐B�≠ニ大きく書かれたそれを見て、あ。と声を上げた。

「……………間違えました」
「…………」

 可哀想なものを見る目でこちらを見てくるその子にいたたまれなさを感じて、私はガバッと頭を下げて走った。なんだこれクソ恥ずかしいぞ!! やっぱり雄英なんか来るんじゃなかった!!

 今度こそA組の教室にやってきた私は、大きな扉を開けて今度こそ教室に入る。もうすでにほぼ人数がそろっていて、とりあえずあの爆豪とかいう奴と同じクラスではありませんように、と願いを込めて教室を見渡す。

「…ん? あ゛ッ!? テメエクソナード!!」
「ぎゃあいたぁあ!!」

 しかしそんな願いも虚しく、机に脚を掛けて席に座る爆豪勝己がいらっしゃって、私は絶望の淵に落とされた。最近絶望の淵に落とされてばっかなんだけど………いい加減死ぬよ…?
 私の高校生活終わった……と遠い目をしていれば、不意に爆豪を注意する男の子が現れた。机に足をかけて座るな、雄英の先輩方に申し訳ないと思わないのか…うんたらとお堅いことを言い始めたその子を半ば救世主と崇めつつ、自分の席に行った。相変わらず怖いよー爆豪…何あれほんとにヒーロー志望なのか……というかカタギなのか……泣きそう………怖い……
 項垂れながら席に行くと隣の席の子に声をかけられた。耳郎響香、と名乗ったその子に私も名乗り宜しくと笑う。人間関係は拗れると面倒なので仲良くしておくに限る。ただし爆豪のようにそんなの関係なしに絡んでくる奴もいるので世の中うまく行かない。

「ねー瞬の個性ってなに?」
「ん? テレポート。細かい制限はあるけど、一キロ以内ならどこでも行ける。耳郎さんは?」
「へー、いいなテレポート。救助で大活躍だね。ウチはこれ。イヤホンジャック。プラグを指して心音をダイレクトに聞かせたりできる」

 へーすごいと笑いながら、救助か…とぼんやり思う。救助活動Pがなかったら今頃ここに居なかったのになあ私……うんまあもう何言ってもどうにもならないんだけどさ……
 耳郎さんと話していると、何やら寝袋に入った人が話し始めていたので思わず黙った。静かになるのに八秒かかったと咎められ、担任だというその人、相澤先生は早速体操服を着てグラウンドに集合だと言った。早速すぎるんだけど先生。っていうか担任? マジかこの人先生なんだ……

 グラウンドに出ると、先生は個人把握テストを行うと言った。ガイダンスも入学式もすっとばしてテストとは………なんというか、やっぱり雄英嫌だわ………そして体操服着て出てきたってことはあれじゃん体力テストじゃん。運動系じゃん。無理……勉強なら出来るのに……
 先生は爆豪に個性を使わせてソフトボール投げを行わせた。投げるときに「死ねえ!!!」とか言ってた爆豪はやっぱりカタギじゃないと思った。怖い。結果は705.2m。周りの子たちは個性を使っていい体力テストを��面白い�≠ニ言った。しかしそれにキレたというか何かの琴線に触れてしまったらしい相澤先生は、このテストでトータル最下位をとったやつを��除籍処分�≠ニする、なんて言い出した。一瞬、「マジでやった!」なんて思ってしまったがそれってうまり退学ってことで高校中退して上手く職につけるほどこの世界は甘くないわけでつまりこれは本気でやらねばまずいという事で。どうやってもここを卒業するしかないということを改めて強く認識して、深い溜息を吐き出した。

「除籍処分とか辛いよな………頑張んないと。ヒーローになるために来たのに早速躓くとか笑えない」
「へ!? あ、ああうんそうだね……」
「? どしたの?」
「な、なんでもない……ごめん……」
「?」

 まさか高校中退なんて経歴を消すために頑張るなんて言えるわけもなく、私は本気でヒーローになりたいみんなに今更ながらに申し訳なさで潰れそうになった。ごめんね………でもほんと、ヒーローになりたいわけではないんだ……! 私は平和に暮らしたいだけなんだ……! ごめんね……!
 耳郎さんは情緒不安定な私に首を傾げながらもソッとしておいてくれた。うんまあ放置されたとも言うのだけども。こんな情緒不安定な奴刺激とかしたらやべえぞ的な。うん……いいんだ別に……

 そうして行われた体力テスト。まず私は50mを走り、…というか行い、テレポートで0.02秒という驚異の記録を叩きだした。みんなに注目された。なんか恥ずかしかった。そして爆豪には睨まれた。怖かった。大して話したこともないのに恐怖が増していくんだけどまじ怖い……
 他に良い結果が出たのは立ち幅跳び、反復横飛び、そしてボール投げで限界の一キロまでテレポートさせて1000メートルを出した。爆豪の記録を超えたからか爆豪の視線がめっちゃ視線が痛かった。いや痛いっていうか、怖かった……
 しかしまあ、直ぐにええと……麗日?さん?の∞という記録に塗りかえられてしまったのだけど。∞とか凄すぎ。麗日さんやば。

 というか、テレポートって結構色々と役に立つ個性なんだな………中学の頃はあんまり使っちゃいけないって言われてて使ってなかったけど、この個性いいな………珍しいってだけのブランド品なのかと思ってた。凄い能力なんだ……ほー…

「瞬って凄いんだ………へー」
「あ、耳郎さん。ね、凄いねテレポート」
「凄いねって………テレポートの凄さ知らなかったの?」
「あんまり使ったことないや」
「ふーん………かわってんね」

 えっ、と若干のショックを受けながら、ちらりとボール投げの順番が来たらしいソバカスのもさもさ男子……緑谷出久を見た。彼が緑谷出久かあ。なんか見てる限りだと成績あんまりパッとしてないみたいだけど、やっぱり無個性だから凄い記録は出せないのだろうか………でもこのままだと除籍処分なんじゃ……

「あいつ凄い個性持ってんのになんで使わないんだろうな」
「……えっ?」
「? え? なに?」
「あ、いや………えーと、緑谷、くん?って無個性なんじゃないの……? 同じ中学なんだけど」
「…? は…? あいつ個性持ってるでしょ、それも、結構派手なの」
「………え? ええ?」

 私が聞いた話と全然違うのだけど………どういうこった………緑谷出久は無個性なんじゃないのか。いや先生も言っていたし間違っていないはず。近くで爆豪もそう言っているし。眼鏡の、先程爆豪を注意していた男子に否定されているけど。

 しかしそのままずっと見ていたら、相澤先生に諭されたあと、しっかりとヒーローらしい記録を出していた。個性を使ったらしい指はボキボキに折れている。…あれ? ホントだ個性ある………あれ?

「………まあいいか」


 ▽


 結局のところ、最下位が除籍処分というのは先生曰く��合理的虚偽�≠ニいう奴だったらしく、つまりは嘘だった。ヒーローが嘘吐いていいのかよ…と思ったが口には出さないでおいた。うん、なんか相澤先生怖いし………爆豪とは違う感じに……

「おいクソナード!! 女の方!!」
「ヒィ!?」

 教室の自分の席でボーッと先ほどのことについて考えていれば、突然大きな鋭い声で爆豪に声を掛けられた。丁度爆豪のことを考えていたので更にビビった。爆豪怖い。
 …というかクソナードって………ナードってオタクとかガリ勉とか………私オタクに見えるのか……いやね、見た目はちょっと暗めで地味かもしれないけど………オタクでないとは言わないけど。アニメも漫画も好きだし…………いやまあそれはさて置いて!

「な、なに声デカいよ……」
「あ゛!? なんか文句あんのか!!」
「ないですないです!! なんですか!!」

 怖いよーキレやすい人怖い………もう関わりたくないよ………むり………帰りたい………
 皆の同情の視線が痛かった。同情するくらいなら救いの手を差し伸べてくれよ………

「テメエ俺と同じ中学だったよなあ!?」
「はい! そうですそうです!! それが何か!」

 声を張り上げてくる爆豪に向かい、私も声を張り上げて答える。…何を私は対抗してるんだろう……みんなの私を見る目が同情からアホを見る目に……あああ……

「……デクは………無個性だろ!?」
「……え?」

 デク? と一瞬首を傾げたが、��無個性�≠ニいう単語で緑谷のことだと理解して、頷く。私は確かに中学のとき、緑谷は無個性だと聞いていた。

「私が聞いた限りだと………無個性だったと、」
「…………チッ!!」
「えっ」

 私から聞きたいことを聞いていくと満足したのか大きく舌打ちをして自分の席に帰っていった。何あれ怖い何で私舌打ちされたの…………怖いよ………

「……大丈夫?」
「あ、あはははは……」

 乾いた笑いをこぼして、がっくりと項垂れる。

 お父さんお母さん。私はこの学校でやっていける気がしません。

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