この想いが掴むもの
05
二度目の広間に集められたのは、先ほどと同じ面子。
座る位置も一緒だ。
まずは千鶴がここまでの経緯を話した。
近藤なんかは話を聞きながら目を潤ませてうんうんと聞いている。
その場の空気が変わったのは千鶴の性別がバレて、ついでに俺の性別も暴露された時だった。
「は!?女ぁ!?」
「どう見ても男にしか見えねえ」
「な、なにかの間違いだろ!?」
永倉、原田、平助がこれでもかと驚いている。
失礼な奴らだ。自分自身も女には見えないとは思うが。
「なんだよ、それ。……なんなら脱いで証明してやろうか?」
龍は目を居座らせながら、手を襟元にかける。
「なっ!ならんぞ!衆目の中、おなごが肌をさらせるなど!」
近藤が顔を真っ赤にさせながら却下したので、仕方がなく手を下ろす。
「それが、一番手っ取り早いと思ったんだが……」
「見てなくても、そういうことにしといてあげるよ」
沖田が龍をニヤニヤと見ながら言う。
「そういうことにしといてあげるってなんだよ。こんなことで嘘ついてどうすんだ!」
沖田の言いぐさにカチンときたので、つい噛みついてしまった。
すると驚いたような顔をし、面白いものを見るような目に変わる。
「だって、どう見ても男にしか見えないし。ね、一君?」
「ああ……、女に見えなくもないが……」
沖田に話を振られた斎藤は困惑するように答えたが、最後は言葉を濁す。
それは見えないと言ってるようなもんだ。
だんだんイライラしてきた龍は勢いよく、襟元を引き肌蹴けさせる。
両手が縛られているため、右側が少し肌蹴るだけだったが、サラシとそれに潰されている胸が見えているので、まあいいだろう。
「これでもか」
ふんっと息をつきながら言う。
「キャー!龍さん!何やってるの!?」
千鶴は顔を真っ赤にさせながら、慌てたように自身の体で彼らの視線から庇う。
「なにって、手っ取り早い方法だ!」
不機嫌に言いながら見渡すと幹部連中は一様に固まっている。
「そんなこと言ってないで、早く戻して!」
狼狽する千鶴に促されるまま、身なりを整えると土方がワザとらしく咳払いをした。
「あー、なんだ……。男だろうが女だろうが、性別の違いで生かす理由にはならねぇな」
「……女性に限らず、そもそも人を殺すのは忍びないことです。京の治安を守るために組織された私たちが無益な殺生をするわけにはいけません」
なんとか復活した山南も言葉を繋げる。
目は俺から反らしたままだが。
「でも、結局、女の子だろうが男の子だろうが、京の治安を乱しかねないなら話は別ですよね」
眼を細めて沖田が言った。
さも、斬りたくてしょうがないという感じだ。
「……ごほん。は、話が途中だったな」
まだ動揺したように視線を泳がせながら近藤が口を開く。
「……父上を探しに京まで来たとのことだったが、そのお父上は何をしに京へ?」
「あ、はい。父様は雪村綱道という蘭方医で――」
「なんだと!?」
その名を口にした途端、その場の空気が一瞬で変わった。
皆、驚きと困惑を浮かべている。
なにが彼らをそんなに驚かせたのか俺は知っている。だが千鶴は知らない。
不思議そうにキョロキョロとしている。
しばらくの沈黙の後、最初に口を開いたのは斎藤だった。
「……綱道氏の行方は、現在新選組で調査している」
「新選組が、父様のことを……!?」
「あ、勘違いをしないでね。僕たちは綱道さんを狙ってるわけじゃないから」
「あ……」
胸を撫で下ろした千鶴に沖田と斎藤が説明していく、綱道は同じ幕府側の協力者だったが、少し前から行方知らずで新選組が探していること、反幕府勢力に捕まってるかもしれないこと、けど蘭方医は利用価値があるため無事でいるかもしれないことを要点を纏めて言った。
「父様……」
不安で胸が押し潰されそうになっているのか、小さく呟く千鶴。
「ですが、綱道氏が見つかる可能性は君のおかげで格段に上昇しましたよ」
と、にこやかに言う山南
「実は綱道氏がここを訪れたのはほんの数回でしてね。面識の薄い人間を探し出すのはなかなか困難なことです。ですが、綱道氏の娘である君ならば、身なりが変わっていようと看破できますね?」
そう聞く山南に「はい」としっかり頷く千鶴。
その様子に山南は満足そうに微笑む。
「あの蘭方医の娘となりゃあ、殺しちまうわけにもいかねぇよな。……余計なことを忘れるって言うんなら父親が見つかるまで保護してやる」
面倒そうに土方が言うと近藤も頷きながら言った。
「君の父上を見つけるためならば、我ら新選組は協力を惜しまんとも!」
「あ……、ありがとうごさいます!」
嬉しそうに頭を下げる千鶴に沖田がちらりとこちらを見やりながら
「殺されずに済んでよかったね。……とりあえず、君は、だけど」
明らか"君は"を強調して言った言葉に千鶴は勢いよく龍を振り返り慌てたように近藤を見る。
「……とりあえず、自己紹介を願えるか」
近藤の言葉に頷きながら、龍は口を開く。
「……俺は、井吹龍。……なんか知らんが、あんたらは俺のこと知ってるんだろ?」
そう問うと少しばかり動揺したような気まずい空気が流れる。
「そこにいる土方さんは、名前も名乗ってないのに、俺のこと井吹って呼んだし、近藤さんも言ってたな。"こんなに似てるとは"って……一体誰にだ?」
ずっと疑問に思っていたことを聞くと沈黙が辺りを支配する。
「犬だよ」
「……は?」
そう言ったのは沖田で、つい間抜けな声が出てしまった。
「聞こえなかった?犬だって言ったんだよ」
「いや、え?犬?」
間抜け面でもしていたのか、プッと龍の顔を見て笑う沖田。
「そう。すごーく生意気なね、しかも井吹龍之介って人間みたいな名前だったんだ」
「……名前までその犬に似てるんだな俺は……」
ここにいる奴らが驚くほど似てるって……
なんだか悲しくなってきたな。
「その犬はどうしたんだ?」
「……死んだよ」
その問に沖田は、龍から視線を反らすとポツリと呟いた。
周りも暗くうつ向いている、そんなに大事な犬だったのだろうか……悪いことを聞いてしまった。
「なんか……悪い」
「……まあ、昔のことです」
暗くなってしまったその場を取り直すように山南が言う。
「……仕方ありませんが、君はしばらく監視させてもらうことにします。もし、不審な行動を取るようなら処分をするということでどうでしょう?」
「それしかねぇか」
苦い表情で言う土方。
龍は思い付いたことをそのまま口にする。
「俺としては隊士になっても構わないが」
「なに言ってんだよ!?」
驚いたような声を出した平助を見ながら龍は言う。
「隊士になってれば、何かあれば隊規違反って理由で斬れるだろうし、俺はどう見たって男にしか見えないんだろ?何の問題もないじゃないか」
「……そうかもしれないけどさ」
まだ何か言いたそうにする平助だったが、結局何も言わず口を閉じる。
「……君、武士になりたかったの?」
にこやかな笑みを消し訪ねてくる沖田。
「別に。武士になりたいなんて一度も思ったことない」
「っ!……そんなことを言う君が隊士?ふざけてるの?」
沖田のその声は冷たい。
けれど、
「(声が震えている……?)」
「……総司」
沖田をたしなめるように土方は名前を呼ぶと、ため息をつきながら眉を寄せる。
「……それも含めて、これから考える。敵かも知れねぇ奴を隊士に入れるわけにはいかねぇからな。今は大人しく監視されてろ」
「……わかった」
龍が頷くと山南が千鶴を見ながら口を開いた。
「彼女たちの処遇ですが、彼女も隊士として扱うのも問題ですし、少し考えなければなりませんね」
「なら、誰かの小姓にすればいいだろ?近藤さんとか山南さんとか――」
土方が眉を寄せ面倒そうに顔を歪めると、先ほど表情はどこへやら…沖田は笑顔で口を挟んだ。
「やだなぁ。土方さん。そういう時は、言い出しっぺが責任取らなきゃ」
「ああ、トシの傍なら安心だ!」
その言葉に近藤が即座に笑顔で賛同する。
「そういうことで土方君。お願いしますね」
だめ押しするように笑顔で山南が言うと
「……てめぇらな……」
土方は怒りを震わせる。
「……わかったよ。だが、小姓なんざ一人で十分だ。二人もいらねぇ」
不機嫌そのものでそう土方が言い捨てると、山南が苦笑をにじませながら口を開く。
「仕方ないですね。では、もう一人は私の小姓ということにしときましょう」
こうして、話し合いの末、千鶴は土方の小姓、龍は山南の小姓ということになった。
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