この想いが掴むもの
07

あれから、時間帯や日にち――二日おきだったり、三日おきだったりバラバラだが山崎が頻繁に部屋にやって来るようになった。
天井裏から見張るのを止めて普通に見張ることにしたということだろう。
本人には内緒だが、山崎が忍者スタイルでは無くなってしまったのが残念だったりする。
体調はどうだ?とか、
必要なものはないか?とか、
何か変わったことは?とか……
毎回同じようなことを聞いて仕事へ戻って行く。
これも仕事の一環なのだろうが、俺のことは気にしないで他の仕事に専念してくれていいのにと思う。

さて、今日はどうやって時間を潰そうか。
部屋から出るのが許されているのは必要最低限のことだけ、最近は絵ばかり描いていた。
部屋にあるものとか、部屋から見えるものとか……
それにも飽きてきたし、身体も動かさないと鈍ってしまう。
今日は身体を動かそう。
部屋で出来ること……か、とりあえず、柔軟だな。
いち、に……と、ぶつぶつ呟きながら龍が身体を伸ばしていると、いきなり障子が開けられた。
部屋に入ってきた人物は土方だった。

「おめぇ何やってんだ?」

「何って柔軟だが……。そんなことより、どうしたんだ?」

そう言いながら龍が土方に向き直るとジッとこちらを見つめる瞳にぶつかる。
その目力に負けないぐらい龍が強く見つめ返すと土方はフッと目元を緩ませた。

「これをやる。ここにいる以上、なにがあるかわからねえからな」

そう言って差し出したのは、柄が紫がかった太刀だった。
その太刀から目が離せないまま引きつけられるように龍は手を伸ばす。
刀の柄と鞘に手が触れた瞬間、今まで無かった物が埋まった様な、
やっと返ってきたと嬉しくなるような気持ちが龍の中に溢れた。
懐かしい感触……
懐かしい重み……
俺はこの刀を知っている……?

「……どうして……」

龍が刀から目を離さないまま呟くと、それだけで土方は察してくれたようで、

「雪村も小太刀を持ってるんだ。問題ねえ。それに、ここの連中がお前みたいなガキに何かされるとは思えねえしな」

その言葉に、龍は部屋で幹部達に詮議された日を思い出した。

*****

「おまえ達の身柄は、新選組預かりとする」

土方が代表する形で告げる。

「が、女として屯所に置くわけにゃいかねえ。だから、おまえ達には男装を続けてもらう。……面倒だろうが辛抱してくれ」

「わかった」
「……はい」

はっきりと頷く龍と神妙に頷く千鶴に山南が続けた。

「あなた達の存在を知られるわけにはいきませんから、私たち幹部の他、隊士たちへも君たちの事情は話しません」

「じゃあ、私は……」

「何もしなくていい。部屋をひとつずつやるから、おまえらは引きこもってろ」

うるさそうに顎をしゃくった土方に話しはここまでかと、龍と千鶴は立ち上がる。

「あれ、おかしいなあ」

沖田がとぼけた口調で口を挟む。

「この子、誰かさんのお小姓になるんじゃなかったですか?」

「……てめえは少し黙ってろ」

土方は沖田をひと睨みすると、井上に連れられて部屋を出て行こうとする龍達に

「待て」

と引き止めてから、千鶴に小太刀を手渡した。

「これは!」

ひと目見るなり、千鶴はあわてて受け取る。

「大切なものなんだろう。男子たる者、何も提げずにうろつくわけにはいかねぇからな」

「ありがとうございます!」

「良かったな。千鶴」

「うん!」

龍が千鶴と微笑み合っていると、ふと視線を感じ龍は、そちらに顔を向ける。
パチリとその人――土方と目が合う。
何か言われるのかと龍は構えるが、ただジッと見るだけ。

「……?」

困惑気味に、龍が見返すと何か考え込むように土方は視線を反らした。

*****

そうか。
あのとき、自分の事も考えてくれたのか。
龍は少し心温まるような気持ちになりながら、やっと刀から目を離し、土方を見る。

「……礼を言う。ありがとな」

はにかむ様に笑う龍に土方は、少し驚いた様な顔をした後、口角を上げた。

「(……土方さんでも笑うんだ)」

意外な顔をしていたのか「なんだよ」とすぐに不機嫌そうな顔に戻ってしまった。
笑っていた方が、ずっといいのに。
龍が何でもないと首を振る。

「明日から俺は大坂に出張するが、俺がいないからって変なことするなよ」

最後は釘をさすことを忘れずに部屋を出て行った。
そうか、明日から出張……。

「(土方さんも山南さんも出張中、大きなケガをしませんように)」

強くそう願った。
もしかしたら、また叶わないかもしれない。
だけど、変わっていく山南さんは見たくない。
叶えば、未来は変わってしまう。
それは、許されることなのだろうか。
俺が居ることで、願うことで歪みが出来てしまう……いや、もう出来ている。
今さら、元には戻れない。

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