彼は誰時
山南さんの話からすると、相当偉い人らしい。
近藤勇…どこかで聞いたことのあるような……。
「誰かに聞いてるかもしれないけど、俺は井吹龍之介。あんたが口を利いてくれたお陰で俺は飢え死にしなくて済んだと聞いてな。出て行く前に礼を言いにきた」
「何、礼を言ってもらうほどのことじゃないさ」
ペコリと頭を下げる私に近藤さんは破顔するが、すぐに心配そうな表情になると
「……しかし君はここを出て行く当てでもあるのか?」
と顔を覗き込む。
平助にも同じことを聞かれたなぁ。
「それは……」
「どうだ。しばらくここに居たら……」
「近藤さん」
言い淀む私に近藤さんは提案をしてくれるが山南さんが口を挟むように近藤さんの名を呼び左隣にいる近藤さんの方を向く。
「お気持ちは分かりますが……今は上洛したばかりで、我々もこの屋敷の主である、八木さんのご好意に甘えている状態です。これ以上、人を増やす余裕などありません」
「しかし……」
なおも口を動かす近藤さんを遮るように私は口を開く。
「近藤さんの気持ちはありがたいが、これ以上世話になるつもりはない」
というか、迷惑をかけたくない…。
「では、夕飯だけでも一緒に食べて行ってはどうかね?」
近藤さんって……どこまでも人のいい人だ。
こういう所が沖田に好かれる理由なのかな。
「やれやれ、どうして試衛館が傾いてしまったのか……忘れてしまったようですね」
山南さんは困ったように笑った。
「えっ!?あっ、いや……!それはその……」
「まあ、そういうところが近藤さんなんでしょうが……」
慌ててバツが悪そうに頭を掻く近藤さんに山南さんはため息を吐いた。
「貴様、誰に物を言っているか分かっているのか!なんだ、その口の利き方は!」
その時、表から怒鳴り声が響いてきた。
あれ、この声ってもしかして。
「今の声は……?」
「芹沢さんの声ですね」
近藤さんに答える山南さんに私は、やはりそうかと密かに思う。
近藤さんが素早く立ち上がった。
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