彼は誰時

私は浪士組の面々とは違う家、前川邸で寝起きする事になった。
理由ってのが、私が芹沢さんの世話をするために、呼び出されても直ぐに行けるようにするため。
前川邸には芹沢さんの他に新見さん、平間さん……まあ、芹沢さんの腰巾着だと思われる人が住んでる。

「はぁ」

痛む背中を擦りながら、私は手に洗濯物を持って歩いていた。
今朝は散々だった。
気持ちよく寝ていた所に思い切り芹沢さんに蹴られたのだ。
芹沢さん曰く、犬ごときが主人より遅くまで寝てるとは何事か、ということらしい。
そして襦袢を投げつけ平間――芹沢さんの世話役らしい――に持って行け、そして酒を買ってこいと命令された。
食って掛かったら殴られそうだったから黙って従う。
しかし、蹴ることはないと思うんだけどな。
私は体は男でも心は乙女なのに。
そこまで思ってふと、……なんか、おねぇみたいで嫌だとゲンナリした。
井戸に向かうと平間さんが山積みの洗濯物と格闘していた。

「平間さん」

声をかけると平間さんは手を止め振り返る。

「ああ、おはようございます。井吹さん」

平間さんは凄く優しい人だ。
前川邸で私が使う部屋まで案内してくれたのが平間さんだった。
にこりと微笑む姿は、優しいお父さん(かなり失礼かもしれないけど)という感がして好感が持てた。
襦袢を手渡し、今日中に洗って欲しいと芹沢さんが言っていたことを伝える。

「それにしても、随分量が多いな」

「はい。旦那様の物と……新見さんの物がありますから」

「おいおい、そんなの自分でやらせればいいのに」

私が呆れたように言うと平間さんは困ったように笑った。

「そういう訳にはいきませんから……」

この人にも色々あるのだろうか……。
洗濯をする手を再開する平間さんに悪いと思いつつ声をかける。

「平間さん。洗濯してるところ悪いが、芹沢さんに酒を買ってこいと言われたんだ……金はどうしたらいいんだ?」

「それでしたら……」

平間さんは私の言葉に懐を探るとお金が入ってるのだろう巾着を取り出す。

「よろしくお願いしますね」

平間さんは人のいい笑顔を向け、それを私に手渡した。

「わかった」

酒屋の場所とか…まあ、色々知りたかったけど忙しそうだし……平助辺りに聞いてみよう。
そんな事を思いながら、八木邸へ向かった。

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