彼は誰時

男達から目を離さず酒を地面に置き腰に差した刀を鞘ごと抜いて構える。

「なんだぁ?刀を抜かんのか?」

馬鹿にしたように一人の男が言うと周りにいた男達も笑い出した。

「……人は殺したくないんでね」

これは本音。例え夢の中だとしても人は殺したくなどない。
虚勢とでも思ったのか一人の男はふんと鼻で笑うと斬りかかってきた。

「おりゃあっ!」

それを鞘で防ぎ、思い切り油断のしている男の大事な所を蹴り上げる。
痛みでもんどりうつ男の頭を重力に逆らわず鞘に入れたままの刀で殴り付けると、そのまま男は倒れピクリとも動かなくなった。
それを見た残りの二人は「おのれ!」と叫びながら同時に攻撃してきた。
一人を鞘で攻撃を受け止め、素早く腹に肘打ちを食らわすと、もう一人は腹に蹴りを食らわし、頭に踵落としをする。
肘打ちを食らわせた男はなんとか立ち上がると、また刀を構えて向かってきた。
――三人を地面に伸すと、その地面に巾着が落ちていた。
多分、商人が男達に差し出したお金だろう。
その巾着を拾い付いた土を払いながら商人に近づく。

「ほら。お前のだろ?」

商人は差し出された巾着を受け取るわけでもなく、返事をするでもなく、呆然と私を見上げている。

「ん?」

どうしたのだろうと顔を覗き込もうとすると近くにいた男の子が、それを受け取り私を見上げてにっこりした。

「お兄ちゃん。ありがとう!」

商人はそれにハッとしたように立ち上がると軽く頭を下げて、男の子の手を掴むと逃げるように駆けて行ってしまった。
なんだ?

「龍之介、大丈夫だったか?……って聞かなくても大丈夫そうだな」

その声に振り返ると平助、原田、永倉の三人がいた。

「お前、すっげえ強えのな!」

「感心したぜ?」

永倉も原田もニヤニヤして私を見ている。
一体いつからいたのだろう。

「……見てたなら、助けてくれよ」

目を居座らせて言う私にまあまあと平助は笑う。

「危なかったら助けたよ。でも、そんなの必要なかっただろ?」

「しかし、あんなのどこで習ったんだ?」

原田の言葉に私は固まった。
どこもなにも……。
ここに来る前……というか自分がいた世界で自分の身を守る為にいろんなことを学んで、それがやってみたら結構楽しくて自分の物になっていただけ。
龍之介の力でもなんでもない……と思う。
なにも答えない私に原田は不思議そうな顔をする。

「自己流なのか?」

「いや。習ったんだ……と思う」

そう聞いてきた原田に答えると「思うってなんだよ」と永倉が呆れたように言ってきた。

「……実を言うとさ、俺……芹沢さんに助けてもらう前の記憶が無いんだよな」

自分自身でビックリする。
こんなスラスラと嘘を付けるとは思ってなかった。

「……え?」

驚く平助を見、原田、永倉と目線を動かす。

「だから、よく分からないんだ。ごめんな」

そう言って私は目を伏せる。
嘘付いてごめん。
でも、龍之介の過去を私は知らないから。
聞かれても答えられないから。
自分が困らないように予防線を張る。

「……そっか。でも、龍之介は龍之介だろ!」

平助の明るい言葉に顔を上げると、原田も永倉も頷き笑ってくれた。
ああ、なんて優しい人達なんだろう。
後ろめたさを感じながらも、私の心はポカポカと温かった。

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