その頃の私はというと、部屋でゴロゴロしていた。
あー。お腹空いた……。
意地張ってご飯食べないなんて言わなければ良かった。
でも、ここの事情を知ってしまうと、タダ飯を食べるのはなんだか申し訳なくて……。
しかし、あの酒屋亭主の態度は酷かった。
始終しかめっ面で対応もぞんざい。
客に対してその態度はいかがなものか。
店に入る前は、いいおじさんという感じだったのに私の言葉や身なりを見た途端に冷たくなった。
もしかしたら、京の人は江戸の人に偏見を持っているのやもしれない。
恩返しが終わるまでは、ここで厄介になるんだし、少しは役に立てるようにしなくちゃね。
多分、酒屋のおじさん以外も冷たい人が多いはず。
絶対めちゃくちゃ仲良くなって、値引きして貰えるぐらい頑張ろう。
あとは……そうだな。
釣りなんかもいいかもしれない。
前に勝手場で見た材料の少なさに、相当お金に困ってることが伺えたし。
いつか、井上さんに釣竿を借りれないか、聞いてみよう。
よし、と気合いを入れる。
私は翌日から率先して、芹沢さんから頼まれた買い物ついでに八木邸で必要な物も買いに行くようにした。
初めの頃は、やはり店の人に冷たくされたが、何回か声をかける内に向こうも砕けて話してくれるようになり、今では私を見掛けると、龍ちゃんと呼び話しかけてくれるようになった。
買い物に行けば、龍ちゃんにだけだよ。とこっそりオマケしてくれることもある。
井上はある日、お金は減らさずに余計に材料を買ってくる井吹を不思議に思った。
「井吹君、これはどうしたんだね?」
まさか、盗んで来てるわけではないと思うが。と井上は思いながら聞く。
「ん?……ああ、それはオマケしてもらったんだ」
八百屋のおばちゃんが……と話しだした井吹。
店の人と仲良くなってオマケしてもらったことが分かり井上は驚いた。
「すごいな。私も良く買いに行ったが、そんなことになったことないよ」
「俺も少しは役に立ちたいからな。結構頑張ったんだ」
そう言って井吹は笑う。
「あ、そうだ。今日、一人で釣りに行ってみようと思うんだ。道具って借りることできるか?」
「一人で釣りに行くのかい?私も付き合おうか?」
「いや、大丈夫だ。井上さんも色々と仕事があるだろ?それに、釣れないかもしれないしな」
首を降り断る井吹に井上は少し残念そうな顔をする。
だが、井吹の言ったことも、もっともだと思ったのか頷くと井上は考えるように顎に手をのせた。
「八木さんに聞かないと分からないが、借りれるはずだよ。ちょっと待っててくれるかい?」
「ああ」
しばらく井吹が待っていると、竿と魚籠を井上は持って戻ってきた。
「ありがとう。釣れるか分からないから期待しないで待っててくれ」
井吹は井上にそう言うと竿と魚籠を持って、踵を返した。
「気をつけて行っておいで」
後ろから、井上の言葉が聞こえ井吹は振り返り手を振る。
井上も手を振り返すと井吹はニッと笑って、前を見て歩き出した。
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