彼は誰時
仲良くなった酒屋の亭主によく魚が釣れると教えてもらった川まで行くと、ちらほらと釣り人がいた。
そういえば、餌を用意してなかった。
その辺の土を掘り返せばミミズ出てくるかな。
と私は思いながらいい場所はないかと歩いた。
「お、龍ちゃんやないかい?」
その声に振り向くと、この場所を教えてくれた酒屋の亭主がいた。
「あれ?山さん?今日は休みなのか?」
「いや、今日は息子に店番をお願いしてるんや。龍ちゃんは釣りかい?」
「うん。俺が働いてるところは、金がないくせに皆よく食べるからな。少しでも足しになれるように魚でも釣れたらと思って」
なるほど、と山さんは頷くとこっちに来いというように手を招く。
近くまで行くと隣に座るよう促された。
「龍ちゃんは偉いなぁ」
隣に座ると頭をポンポンと撫でられる。
「いや、別に」
なんだか恥ずかしくて、ついついぶっきらぼうになってしまう。
その私の性格をよく知ってる山さんは、クツクツ肩で笑う。
「龍ちゃんは浪士組で働いとんよね?大変なんやないか?」
そういえば、と山さんは途端に心配顔になる。
それに私は苦笑しながら口を開いた。
「そりゃあ色々大変だ。けど、京の人達はみんなよくしてくれるからな」
「そうかい。……何かあったらなんでも言ってな」
「ああ、ありがとう。酒は俺が世話になってる人の必需品だからな。これからも迷惑をかけるが宜しく頼む」
にっこりと微笑む山さんに釣られたように私も笑い、最後は誠心誠意お願いする。
「迷惑やなんて。いつでも頼ってや」
山さんは、そう言うとあれ?という顔になった。
「龍ちゃん餌はどないしたん?」
「ああ、忘れたんだ。その辺の土を掘ってミミズを取ろうと思って」
私の言葉に山さんは頷く。
「なら、これやるわ」
「え?」
差し出されたのは、まだ沢山入った釣り用の餌。
「いや、駄目だ!まだそんなに入ってるじゃないか」
私は、ぶんぶんと顔の前で手を振りいらないと主張する。
「もう釣りは止めようと思ってた所さかい使ってくれや」
「いや、でも……」
なお、受け取ろうとしない私に山さんは押し付けるように餌を渡すと立ち上がる。
「それじゃ、龍ちゃん。またな」
「あ……ありがとう!山さん!」
歩き出していた山さんの背中に向かって言うと、山さんは振り返りもせず手だけを振った。
山さんの気持ちがありがたくて、心の中でも感謝する。
よし、頑張って魚を釣るぞ!
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