彼は誰時
餌がよかったのか、日が暮れる頃には大量に魚が釣れた。
山さんにも今度会ったらお礼を言おう。
ほくほくとした気分で重くなった魚籠を抱えて八木邸まで帰る。
井上さんに魚籠を渡すと「沢山釣れたね。皆きっと喜ぶよ」と言って笑った。
そのまま、夕飯の手伝いをしていると、沖田と斎藤がやってきた。
「あれ、今日は魚料理なんだ?」
「まあな」
私は手早く魚をさばきながら、沖田に言葉を返す。
「……源さん、何か手伝う事はあるか」
「そうだね。……斎藤君は味噌汁を、沖田君は火加減を見てくれるかい?」
斎藤の言葉に井上さんが指示を出す。
昔から、こういった事をやってきたのか二人の動きは手慣れたものだった。
ああ、炊事する男子いいわぁ。
私は、襷を巻いて作業する斎藤と沖田に惚れ惚れとする。
斎藤もなかなか顔が整ってるしイケメンだよねぇ。
無表情で何考えてるか分からないけど。
「それにしても最近おかずが多くなったよね」
「ああ、それは……」
沖田の言葉に井上さんが私の方を見る。
「井吹君がね、安く買ったりおまけしてもらってるみたいなんだ。今日の魚も井吹君が釣ってきてくれたんだよ」
「へぇ。そうなんだ。ただでさえ、井吹君は役に立たないんだから、こういう所で役に立ってもらわないとね」
沖田はニヤニヤとしながら揶揄するように私を見る。
「そうだな。俺はこんな事しか出来ないから」
言い方にはイラッとしたけど、言ってる事は事実なので、私は素直に頷きながらそう沖田に答えた。
その事に面食らった様子の沖田。
「いい心掛けだな」
そう言った斎藤の表情が少しばかり柔らかいような気がする。
私は、なんだか気恥ずかしくなって、誤魔化すように出来た料理を膳に並べ始めた。
「そうだ…井吹君、僕と勝負しようよ」
「は?なんだよ急に」
料理を並べ終え、広間に膳を持って行こうとした所に沖田からそんな事を言われて驚く。
「だって君、浪士三人をあっという間に倒したんでしょ?」
「え、あれは……」
「君がどれだけ強いのか、知りたいんだよね……これで」
戸惑う私に沖田は目を細め手を刀へ持って行く。
剣術で勝負したいってことだと察した私だったけど
「……俺は、剣術なんて出来ない」
「え?」
その言葉に面食らったように沖田は目を丸くした。
「だから、剣術なんて出来ない」
「え、それ本気で言ってるの?」
「ああ」
信じられないと確認してくる沖田に私は頷く。
「手を見せろ」
いつの間にか斎藤が私の近くに立っていて驚く。
け、気配が全くしなかったんですけど……!
斎藤に言われた通りおずおずと手を見せる。
「……」
無言で手を凝視する斎藤になんだか居心地が悪くなる。
私は少しだけ剣道を習っていた、龍之介の手を見る限り豆が一切無くて龍之介は剣術なんてやった事なんてないことが分かった。
少し剣術をかじった事のある私が、この人達に勝てる訳もないし……。
身体は龍之介だし、私は剣術をやってないのと同じだ。
「総司……井吹が言う事は事実みたいだな」
「……そうみたいだね」
沖田も私の手を見ながら呟いた。
とりあえず、それで話は終わりホッとする。
おかずが多くなって、近藤さん、永倉、平助が主に喜んでいた。
私もそれを見て嬉しくなる。
お腹いっぱいは無理かもしれないけど、近いようにしたいから。
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