彼は誰時
私は芹沢さんに呼ばれ、肩を揉まされていた。
いつものように座布団の上にどっかりと座った芹沢さんの肩は分厚く、鋼のように硬い。
四苦八苦しながら肩を揉んでいると、そこへ八木邸から近藤さんが訪ねてきた。
「芹沢殿、起きてらっしゃいますか?」
「起きているが……何か用でもあるのか?」
芹沢さんがそう答えると笑顔で入室してきた近藤さんは入った途端に本題を切り出した。
「本日は家茂公が入洛なさる日。警護に呼ばれている訳ではありませんが……我々は元々上様をお護りする為、参った身」
芹沢さんが鼻で笑うが近藤さんは気にせず続ける。
「昨今の京の治安を思えば、我らも自主的に警護に参りませんか?」
「何を言ってるですか、近藤君。何故我々がそんな真似を――」
「まあ、いいではないか。暇潰しには丁度よかろう」
新見さんが近藤さんに軽蔑を含むような視線を送りながら言うと、芹沢さんは口の端を持ち上げ途中で口を挟む。
近藤さんは芹沢さんの【暇潰し】という言葉に戸惑った様だったが、すぐに満面の笑みになる。
「ありがとうございます、芹沢殿!では支度が済んだらお声をかけて下さい!」
近藤さんは丁寧に一礼し、出て行った。
「……話は聞いていたな?犬、早速出かける準備をしろ」
「わかった」
犬って呼ばないで欲しいな。
そう思いながら素直に頷く。
「警護には貴様も参加しろ。いいな」
有無を言わせない声音にコクコクと私が頷くと満足したように芹沢さんは笑った。
*****
将軍が京を訪れるというのは、異例中の異例の事態らしい。
京の街は、まさにお祭り騒ぎだった。
大通りは、入洛してきた家茂公を一目見ようと野次馬でごった返していた。
……うわぁ。凄い人……。
今の日本でいうと、ものすごい有名人がやってきたって感じなのかな。
もしかしたら、私は歴史的瞬間に立ち合ってるのかもしれない。
……あれ?歴史……?
この間から何かが引っ掛かる。
浪士組……京を護る為の組織(平助情報)……近藤勇、斎藤一、土方、沖田……
私は、この名前をどこかで見たし聞いた事がある。
あるとすれば日本史なんだろうけど……。
浪士組……土方……確か近藤さんが、土方さんの事をトシって呼んでる所を聞いたことがあった。
土方トシ?
その時、近くで平助が誰かの名を小声で呼んだ。
「総司!」
「何?平助」
答えたのは沖田で。
……沖田、総司?
そこでやっと、何もかも理解した。
どこで聞いたのかも。
……新選組……!
今は浪士組って名前なのか……。
でも、それが分かった所で日本史に疎い……新選組の事を知らない私は、これから新選組がどうなっていくのか分からない。
……私は、これからどうなっちゃうんだろう……?
このまま、私は浪士組に居ていいのかな……。
私の心に不安が渦巻く。
きっと……これは夢だから……だから大丈夫。
そんな、夢なんだってなんの根拠もないのに……
むしろ夢じゃないと思う出来事ばかりなのに、私は夢以外あり得ないと認めたくなくて……。
そう無理矢理に自分に言い聞かせて、気持ちを落ち着かせ切り替えることだけを考えた。
私はそうやって逃げたのだ。
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