彼は誰時

警護といってもあくまで自主的なもので、浪士組の面々は野次馬の最前列に立って目を光らせているだけ。
たった数十名で何かあった時、対応なんて出来るのだろうか。
待つことしばし、ようやく将軍が通り過ぎていく。
周囲を警戒していた近藤さんもたまらず顔を上げる。

「い、家茂公が……いらっしゃったのだな。今、馬にお乗りになって、そこを……歩いて行かれたのだな……」

感極まった様子で呟く近藤さん。
近藤さんは、家茂公って人が物凄く好き……いや、尊敬しているんだな。
見ていればそうだと分かる顔つきに、私も自然と顔が綻んだ。

「良かったですね、近藤さん」

沖田も別人のような、にこやかな笑顔を近藤さんに向けている。
本当、沖田は近藤さんのことが大好きなんだな。
少しは、それを私に分けて欲しい。
少しでいいから。

「次はきっと家茂公の間近で警護できるようになるさ。野次馬連中に混じってじゃなく、な」

土方さんも優しい瞳で近藤さんを見ながら力強く言った。

「そうだな……そうだな……!」

近藤さんは、うんうんと何度も頷き、感激していた。
その時。

「いよう、征夷大将軍!」

その声は、家茂公が進んだ側の通りから響いてきた。

「な、何たる無礼な――!」

どう聞いても野次にしか聞こえない。
頭がおかしいんじゃないのか?

「どうやら俺達の出番らしいな!ちゃっちゃと捕まえようぜ!」

「あの二人組だ!追うぞ!」

永倉、原田の言葉に近藤さん達は、人垣を割って走り出す。
この人混みだと多分捕まえられないだろうな。
私はそう思いながらチラリと芹沢さんを見て見ると、やはりと言うべきか芹沢さんも新見さんも追う素振りもせず、悠々としていた。
私も追わない訳にはいかないし……とりあえず、後に続こう。
走り出した皆の背を私は追いかけた。


*****


結局、野次を飛ばした二人組は捕まえられなかった。
その事に仕方ないと口にはしていたが、山南さんも土方さんも悔しそうに顔を歪ませていた。

「それにしても……。上様にあのような物言いをするとは、何たる不届きな連中か」

憤るような近藤さんに向けて芹沢さんが言った言葉はかなり驚いた。

「ならず者共に小馬鹿にされるということは、それだけの理由があるということだろう。かような無礼を受けて平然としておるなど、将軍家の面汚しと言われても仕方あるまい」

芹沢さんだって近藤さんの喜ぶ顔を見てた筈なのにどうして?
どうして、そんな事を言えるのだろう…?
芹沢さんの考えている事が理解出来ない。
近藤さんは反論したが、芹沢さんは政治の話を持ち出し、せせら笑い突っぱねる。

「異国の連中が虎視眈々と日の本を狙っている今だからこそ、英明な将軍が必要だと思うのだが……近藤君は、そうは考えておらぬようだな」

近藤さんが何も言わず顔を上げないのを見て芹沢さんは踵を返す。

「……新見、平間、戻るぞ」

それだけ言い、人垣を掻き分けて芹沢さん達は歩いて行く。
どうしても、その後をついて行く気にはなれなくて、私はその場に立ち尽くす。

「……あの人達、オレ達のことがとことん気に食わねえみてえだな。
やっぱ、本庄宿での騒ぎがあったからかな……」

「本庄宿?」

ため息混じりの平助の言葉に私は首を傾げる。

「えっ?あ、えっと――」

ここで話すのはまずいのか、平助は困惑したように目を泳がせた。
しばらく、話そうかどうか悩んでいるようだったが周りの様子を伺うと声をひそませて耳打ちしてくる。

「……近藤さんとか、土方さんにはオレから聞いたってこと内緒にしてくれるか?」

「ああ、もちろん」

それから語った平助の話は、衝撃的だった。
芹沢さんの宿を取り忘れたのはマズイとは思うけど、だからといって、近くの建物を壊して火をつけるなんて……。

「……ああいう事があった後だから、わだかまりができちまってさ」

「……なるほどな」

そう頷きながら、芹沢さんが歩いて行った方向を見つめる。
何か理由があってそうやってるのかな……。
芹沢さんの考えなんて私が考えてもわかるはずもなく、ただわかったのは芹沢さんは土方さん達に良く思われていないって事だけだった。
私も、芹沢さんについてるようなもんだから、あまりいいように思ってないかもしれない……。
土方さんなんて、特にそんな気がする。

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