翌日、私は平助に誘われて八木邸で夕食を取っていた。
膳の上にはご飯、豆腐の味噌汁、おひたし、香の物、高野豆腐という、質素な献立が並べられていた。
今日は一日私が屯所から出れなかったから材料が足りなくなってしまったのだろう。
「なんだよ。今日はこれだけかよ」
永倉が不満そうな声を上げる。
なんだか、申し訳ないと思いながらも、いつもの如く始まったおかず取り合い合戦を眺めていた。
永倉と平助がギャーギャーと騒ぎ、さりげなく斎藤がおかずを奪い、それを原田が笑いながら応援している。
「お、龍之介全然食ってないじゃんかっ!」
不意に平助が私の膳を見て声を上げた。
物欲しそうな目線に、私はおひたしを差し出した。
「食べるか?」
「いいのか!?」
ぱあぁ!
効果音で表現するならきっとこんな感じだろう。
とても嬉しそうに平助は破顔した。
尻尾があるならパタパタと物凄い勢いで振っているに違いない。
「あ、ずりぃ!」
それを目ざとく見つけた永倉は声をあげる。
永倉は平助からおひたしを奪おうと箸を伸ばす。
「やめろよ。新八っつぁん!オレが龍之介から貰ったんだぞ!」
「そんなの知るかっ!寄越せ!」
私があげたおひたしを巡って奪い合いが始まってしまった。
「…はあ。……ほら永倉にはこれやるから」
仕方ないと私が香の物を永倉に差し出すと「やりぃ!」と永倉は喜び食べ、平助はその間におひたしを腹に入れたようだった。
「おいおい、龍之介……。お前のおかずが無くなっちまったじゃねぇか」
隣に座っている原田が心配そうにそう声を掛けてきたので、苦笑しながら口を開く。
「俺はご飯と味噌汁があれば大丈夫だから」
「……そうか?ならいいけどよ……無理だけはするなよ」
ガシガシと私の頭をかき回す原田。
「や、やめてくれ」
髪の毛がぐしゃぐしゃになるからっ!
もうこの子、かなりくせっ毛で大変なんだからね。
っていうか、馴れ馴れしく触れないで欲しい。
男同士なんだし、しょうがないのかもしれないけど…どうしても慣れなくて……。
それに、上半身裸の様な格好はどうなのかとっ!
目のやり場に困るっ!
そんな事を思いながら髪の毛を整えているとなんだか視線を感じた。
ジッと見ている斎藤。
私を見てるというより……視線を辿ると膳。
……高野豆腐が欲しいのかな?
ちらりと斎藤を見ると相変わらず、視線は膳に向けられたまま。
高野豆腐を取って斎藤に差し出すとハッとした斎藤と目が合った。
「これ欲しいんだろ?やるよ」
「いや、しかし……」
斎藤は困惑ぎみに、しかし視線は素直に高野豆腐を凝視しているが受け取ろうとしない。
「ほら」
私は素直じゃないなと斎藤に無理矢理渡す。
「……すまない、ありがとう」
高野豆腐を受け取って斎藤は口角を上げた。
……斎藤が、笑った!?
嬉しそうに高野豆腐を頬張る斎藤をまじまじと見てしまう。
うわぁ…。
不意打ち過ぎるよ斎藤さん…!
ドキドキ高鳴る心臓を落ち着かせるとやっと、私もご飯に手を付ける。
ご飯と味噌汁だけなので、あっという間に食べ終わった。
咀嚼は40回とゆっくり食べてるにも関わらずだ。
「あれ、お代わりしないの?」
沖田が茶碗を置いた私に尋ねてくる。
「え、いや食欲ないんだ」
正直言って、もう少し食べたい。
龍之介が成長期……なのか知らないが、すぐにお腹が空く。
でも、いろいろ考えると遠慮をしてしまうのだ。
「へえ、食欲ないんだ?さっき、あんなに物欲しそうな目でおひつを見てたのに?」
見られてた!
沖田に見られてた!
びっくりして、沖田を凝視するとにっこりと笑って
「いいんだよ、別に遠慮なんてしなくたって。君は隊士じゃないんだから、僕達の事情なんて関係ないし」
沖田の意外に優しい言葉に私はジーンと感動する。
「っていうかそもそも、君って芹沢さんに『犬』って呼ばれてるんだしね。人間の僕達に遠慮する必要なんてないんだよ」
…おい。
私の感動を返せーっ!
「犬って呼ばないでくれよ」
げんなり私が言うと、沖田は嫌味嫌味嫌味。
ムカッとして言い返してたけど、もう疲れた。
沖田は絶対、私の反応楽しんでるだけだ。
「……二人共、その辺にしておきなさい」
その時、井上さんが助け船を出してくれた。
私の茶碗と取り上げご飯をよそうと、沖田の茶碗にもご飯をよそう。
「ほら、これでいいだろう。子供は遠慮などせずに、お腹いっぱい食べなくてはいかんよ」
「子供って……でも、まあ、ありがとな」
私は、ご飯が乗った茶碗を受け取りながら言うと
「井吹君って井上さんには素直だよね」
なんだか、面白くないというような表情をした沖田が言った。
「そりゃあ、井上さんには好意持ってるからな。好意持ってない人にはそれなりの態度になる」
「へぇ?」
にっこりとした笑顔を私に向ける沖田。
ん?なんだか沖田の目が笑ってない……ような。
「ほら、総司も」
井上さんが沖田に茶碗を渡す。
「僕は要りませんよ。もうお腹いっぱいですから」
「何を言ってるんだ。たくさん食べないと、大きくなれないよ」
そう言って、井上さんはご飯を盛った茶碗を沖田の膳へ載せた。
「……これ以上大きくなっても、困るんですけどね。今でも鴨居に頭をぶつけることがあるのに」
そう言いながらも沖田は、よそってもらったご飯に箸を付け始めた。
あんただって、井上さんには素直に従うじゃないか。
心の中で突っ込みながら、私もご飯に箸を付けた。
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