「何すんだよ近藤さん」
不意に上座から聞こえてきた声に、私は顔を上げた。
「足りないだろう。遠慮はいらん」
近藤さんはそう言いながら、自分の分のおかずを土方さんの皿へ載せていた。
「あんたこそ全然食ってねえじゃねえか」
土方さんは困惑しながら固辞するが、近藤さんは従おうとしない。
「試衛館にいた頃はトシによく飯を分けてもらってたからな。恩返しのつもりだ」
「恩返しって……水くせえこと言うなよ。俺達はそんなこと気にするような間柄じゃねえだろうが」
「お?そりゃそうだな、ははは!」
フイと目を反らしながら言う土方さんに近藤さんは明るい笑い声を響かせた。
「……ったくあんたって人は……どんなときでも自分より他人なんだな」
土方さんはつられたように笑みを漏らし、瞳には柔らかい色が灯っていた。
きっと、その試衛館にいた頃から二人はこんなやり取りを繰り返してたのだろう。
再び自分の膳へ視線を戻そうとした時、沖田が眉間を寄せながら二人を凝視しているのが目に入った。
私をからかっている時の表情とは明らかに違う。
苛立ち、嫉妬、焦り、寂しさ……。
色々な感情をない交ぜになったような表情をしている。
再度、私も二人を見る。
二人は昔話に花を咲かせてるようだった。
沖田は、近藤さんが大好きなんだと思う。
きっと、近藤さんに一番頼られる、そんな人になりたいのだろう。
その自分が欲しい場所には土方さんがいる。
その土方さんが羨ましくて、妬ましいのだろうな……。
再度、沖田に顔を向けると目が合った。
「……何?」
「いや……」
不快そうに顔をしかめる沖田に私は首を振る。
きっと、私が今何を言ってもダメだと思ったから。
「ようやく会津藩のお預かりになったんだし夕飯はもっと豪華になってもいいよな。な、土方さん」
永倉は茶碗を持ったまま、土方さんに顔を向ける。
平助も期待に満ちた顔を土方さんに向けた。
「……そいつは給金の話が出てからだな」
静かに箸を置きながら土方さんは応えた。
「えっ!?」
「まあ先方も、我々が信頼に値する存在なのかどうか量りかねているのだろう」
驚く面々に近藤さんは困惑げな笑みを浮かべながら漏らした。
「そうなんだ……」
ぽつりと平助が呟いたのを最後にシンと広間が静まり返る。
「ご馳走様でした」
箸を置き、手を合わせた沖田は、井上さんが盛ってくれたおかわりにもほとんど手をつけないまま席を立った。
「おい、総司、それだけでいいのかよ?全然食ってねえじゃん」
「そうだよ。俺みてえに、しっかり食っとかねえと持たねえぞ」
平助、永倉と言葉を続ける。
心配そうに近藤さんも沖田を見ている。
「剣術の稽古をしないと……。今は一時でも時間が惜しいんです」
「食事のすぐ後に稽古をするのは体によくねえぞ」
部屋を出て行こうとする沖田を気遣うように永倉は言うと、沖田は背を向けたまま
「……新八さんと一君はずるいよねえ。僕も早いとこ、不逞浪士をたくさん斬ってみたいよ」
「お、おいおい……」
ちょっと、なんでそうなる……。と思いながら私は呟く。
「物騒なこと言いやがる……」
「総司、お前最近変じゃねえか?」
原田が眉を潜めながら言うと、平助も心配するように言うが沖田は応えなかった。
「総司、おまえは江戸に帰れ」
土方さんのこの容赦のない言葉から二人の言い合いが始まった。
その折りで近藤さんは土方さんの考えに考え込み何かを決心した様子で顔を上げ重々しい口調で言いかけた。
「総司……」
「嫌です!」
近藤さんの言葉を待たず、沖田は叫んで遮った。
「僕は絶対に帰りませんよ!ここに残って、近藤さんの役に立ってみせますから!」
再び叫ぶや、沖田は広間を飛び出して行った。
「総司!?」
近藤さんは腰を浮かしかけたが、また座りこんでしまう。
私が行ったら嫌味言われるんだろうな……でも心配だし。
私は素早く立ち上がると沖田の後を追って部屋を出た。
後ろで土方さんが何か言ってたけど、気にしない。
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