彼は誰時


……。
ここ、どこだ?
沖田を追って外に飛び出したのはいいけど、私はまた道に迷っていた。
お使いで京を歩き回ったりしたお陰で京の道は分かるようになっていたはずだった。
だけど、今は夜。
暗い夜道は、昼間と違って目印が分からない。
沖田は見付からないし、屯所に戻る道が分からないしどうしたらいいんだ。
半泣きになりながら、キョロキョロと周りを見渡しながら歩く。
今日が満月で助かった。月明かりで周りが多少見えるし。
その時ふと、見知った後ろ姿を発見した。
その人物は足早にどこかに向かって歩いていた。
この後ろ姿は多分……

「近藤さんっ!」

私は走って追い付くと呼び掛けた。

「おお、井吹君!総司は見付かったかい?」

立ち止まった近藤さんは振り返り、私を認めるとそう尋ねた。

「いや、まだ……」

「そうか……」

私の言葉に残念そうに項垂れる。
沖田も見つけられなくて私は道に迷ってた……なんて言えない……。

「近藤さんも探してる途中なんだろ?俺も一緒に行くよ」

「ああ、すまんな」

「い、いや……いいって」

近藤さんは顔を上げて丁寧に私に頭を下げるので、慌てて制し近藤さんと並んで歩きだした。

「……近藤さんって沖田に少し甘過ぎだよな」

「ハハハ……。トシにもよく言われる」

近藤さんは私の言葉に笑顔でそう応えた。

「あんた達三人を見ていると仲が良いのか、悪いのか、わからないよな」

「そうか?トシも総司のことを心配してるんだが……不器用なんだ」

私の言葉に近藤さんは首を傾げ、前を見据える。

「不器用……」

確かに不器用だ。
先ほどの「江戸へ帰れ」は心配して言ってたのだろう。
言い方っていうもんがあるだろうに、きっとあの人は、そういう言い方しか出来ないのだ。

「……確かにな。けど沖田の性格にも問題があるんじゃないか」

そう私が聞くと近藤さんは苦笑した。

「手厳しいな……。だが総司は苦労しているんだ」

そこから聞いた沖田の幼少時の話には驚いた。
沖田は武家の生まれで、幼い頃に両親を亡くし、姉であるミツさんが親代わりに育てていたが生活が苦しくなり、九つの沖田を試衛館に預けに来た。
名目上は内弟子という形で預けられたが、沖田は雑巾掛けはもちろん洗濯や庭の草むしりまでひとりでやらされていたという。
そして兄弟子からの稽古という名目での折檻。
もちろん近藤さんは、それを知った後、今後そんな真似をしないようにきつく言い聞かせたらしい。
だけど、それで終わることなく折檻は続いた。
だけど、ある日試合形式の稽古をしたそうだ。
沖田を折檻していた兄弟子と沖田はぶつかり、額を怪我をしても尚、引くことをせず兄弟子から一本を取る事が出来た。

私は、それを聞いて自分の事のように嬉しくなった。
屈しないで、諦めないで、小さな身体で最後まで頑張ったのだ。
私も、それを見ていたら近藤さんのように『よく頑張ったね』って抱きしめたと思う。


「総司!」

橋の欄干に肘を付き、眼下に流れる鴨川をぼんやりと見つめている沖田を見付けた。
私と近藤さんは沖田に駆け寄る。
沖田は近藤さんの声に振り返り

「近藤さん……」

と呟いた様だった。
良かった。ちゃんと見付けられて。
近藤さんも心底安心したように、笑った。
近藤さんが沖田に二言、三言声を掛け促すように肩に触れると沖田は素直に歩き出した。
そのまま二人は並んで歩き出したのを、私は後ろからついて行く。

「近藤さんはいいとして、なんで井吹君もいるのさ?」

沖田が、私をチラリと振り返り聞く。

「井吹君もお前のこと心配して一緒に探してくれたんだよ」

近藤さんがにっこりしてそう言うと、沖田は面白くないというように顔を歪める。

「……僕は、そんなこと頼んでないけどね」

「総司!……すまんなぁ井吹君……総司は悪気があって言ってる訳じゃないんだ」

フイッと顔をそっぽに向けて言う沖田にとがめるように近藤さんは声を上げると、私を振り返り申し訳無さそうな顔をした。

「……気にしてない」

私がそう言うと安心した様に近藤さんは笑った。
多分、沖田は素直じゃないだけだ……と思う。
そう言われるだろうって事はわかってたし。
先を歩く沖田の背を見ながら、とりあえずは大丈夫そうかなと安心するのだった。


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