彼は誰時

「くっそぉおお!油断しちまった!見てろよてめえら!次こそは、地獄に落としてやるからな!」

私が、前川邸の門前で掃き掃除をしていると、突然聞こえてきた永倉のだと思われる叫び声

「うぉりゃあああ!まずはおまえだぁああっ!」

「うわぁあああん!永倉に、永倉に捕まったぁ!永倉が手加減してくれないよぉ!」

バタバタと駆け回るような音と共に、かん高い子供特有の声が聞こえた。
この声は八木さん家の子供、勇之助かな?
ぎゃいぎゃいと八木邸で永倉、原田、平助が騒いでいるようだ。
その時、芹沢さんが不機嫌そうな顔して現れた。
ヤバイ。
反射的にそう思ったが既に遅く、芹沢さんは鉄扇で私の頭を殴り付けた。

「いっ!っぅ……!」

こうして芹沢さんに殴られるのは、慣れてきたつもりだけど……やっぱり慣れない……。
いつもは、殴られないように回避(お酒渡したり)するんだけど、今日は回避する前に殴られた。

「何なんだ、あのやかましい声は!お蔭で、おちおち昼寝もできん。文句を言って来い!」

「わ、わかったよ…!」

機嫌が最高に悪い芹沢さんには、素直に従っておいた方がいいというのは身に持って知っていたので、急いで八木邸を向かう。
八木邸の敷地へ足を踏み入れると、庭を走り回る永倉達の姿が目に入った。

「あれ、龍之介じゃん」

私が声をかける前に、私に気付いた平助が嬉しそうに駆け寄ってきた。
パタパタと振る尾っぽが見える気がする。
撫でたい衝動にかられたけど…我慢。

「あんた達の声、隣まで筒抜けだ。芹沢さんが相当腹を立ててるから、もう少し静かにしてくれないか」

「えっ?それってまさか……龍之介、芹沢さんに殴られちまったりしたのか?」

驚きと心配を浮かべた表情で見つめる平助に、私は呆れたように返した。

「……そんなの、聞かなくてもわかるだろ」

「わ、悪い、オレ達のせいで!」

全くだ。と思いつつ庭を走り回っている永倉と原田へ視線を向ける。
永倉が鬼で逃げてるのが、原田か。
永倉に捕まらないよう、ひらりひらりと原田は交わしている。

「よっしゃああ!とうとう捕まえたぜ、左之!」

「あ〜、くそっ!」

やっと原田は永倉に捕まったらしい。
永倉は嬉しそうに原田は悔しそうな顔をしている。
でっかい子供が二人……か。

「ぷっ」

その光景に、知らず知らず私は笑ってしまった。

「それじゃ次は勇之助が鬼だな」

「えっ……!?」

原田が何気なく発した言葉に勇之助は顔を引きつらせて固まった。
あんだけ本気出してれば、そういう反応になるよね。
でも……勇之助があの時の……血まみれの斎藤や永倉を見た時の恐怖心を引きずってないみたいで良かった。
そのまま残ってたら嫌だもの。
結局、鬼は勇之助がやることになったようで、目を塞いで十を数え出した。
だけど、十を数え終わらない内に、おまささんが現れ勉強があるからと言って、勇之助を連れてさっさと建物の中へ戻ってしまった。

「……やれやれ、随分嫌われちまったもんだな。ま、仕方ねえか」

「おまささんからすると、息子が悪い影響を受けちまわねえか気が気じゃねえんだろうよ」

永倉と原田は諦めに似たあっさりとした声音で言うが、平助は一人沈んだ表情で俯いている。
自分達は何も悪い事はしていない。
だけど、そういった態度は耐えられないのだろう。

「……いつか、分かってもらえるさ。勇之助もあんた達が優しいって事は知ってる。だから大丈夫だよ」

全然、根拠なんてない私の言葉に平助は顔を上げた。
ジッと私の顔を見つめた後

「……うん。そうだよな。……元気付けてくれてありがとな龍之介!」

彼らしい、太陽のような笑顔を向けてくれた。
その事にホッとしていると急に永倉からのし掛かる様に肩に腕を回されバランスを崩した。
驚いて顔を上げようとすると、ぐしゃぐしゃと原田に頭をかき回された。
なんだよ、やめろよと私が不機嫌に返すと二人は顔を見合せて笑い合い、永倉も原田もポンポンと私の頭を叩くと離れていった。
一体なんだよ。
私はぶー。と不機嫌にぐしゃぐしゃになった髪の毛を直していたが、しょうがない奴らだと結局頬が緩むのだった。


prev next
back