やはり、帰りも舟に乗るらしく、皆は船着場の近くの茶屋で舟が出るのを待っていた。
先ほどの一件を引きずったままだからか、店の中は重苦しい空気が流れている。
近藤さんも、沖田も永倉も黙っている。
その中で芹沢さんと新見さんは、店の奥で黙々と酒を交わしていた。
よく、この空気でお酒を飲めるものだ。と妙な感心をしていると
「土方さん、遅えな……」
この空気に耐えられなくなった永倉が呟いた。
土方さんは舟の様子を見に行くと言って出て行ったきりまだ戻って来ていない。
「……ここは空気が悪いし、僕はその辺をちょっと散歩してこようかな」
それまで沈黙していた沖田が、いつもの気まぐれな口調でそう言い残しそのまま店の外へ出て行った。
「永倉君、ここは頼んだよ」
「え?」
さり気ない口調で言うと永倉に応えないまま近藤さんも店の外へ出て行った。
多分、沖田を追い掛けたのだろう。
なら、沖田の方は大丈夫かな。
「一体いつになったら舟が出るのだ?犬、様子を見に行って来い」
苛ついた口調で、盃を持った芹沢さんが言った。
「わ、分かった、今聞いてくる」
私は慌てて踵を返し店を出る。
その時、チラリと見えたのは永倉のお前も俺を置いてくのか?というような表情だった。
永倉、ごめん!
茶屋を出て船着場へとかかる橋の上に土方さんの姿を見つけた。
欄外にもたれ掛かり川面を見つめて動かない。
土方さんの周りだけ、時が止まっているようだった。
月明かりに照らされた土方さんの姿は、まるで絵画を見ているような……。
土方さんの整った顔、浮かぶ月、流れる川。
こんな絵があったら欲しいな……。
しばらく見惚れていると、自分が何をしに来たのかハタと思い出す。
舟はどうなったのか聞きに来たんだった!
このまま、声をかけない訳にも行かない。
「……土方さん」
「……お前か。どうした?」
私が呼び掛けると、ちょっと土方さんは振り返った。
「芹沢さんが、舟はいつ出るのかって」
「手違いがあったとかで、もう少し時間がかかるみてえだ」
「そうか」
私は頷いて茶屋に戻ろうとすると
「おい、ちょっと待て」
土方さんに呼び止められた。
「……近藤さんの様子はどうだった?俺がいない間、芹沢さんの相手をさせられてたのか」
「いや……途中で沖田の様子を見に行ったから。芹沢さんの相手は今頃、永倉がしてると思うぞ」
「……そうか」
私の言葉を聞き、土方さんはなんだか複雑そうな声音で呟き、川面を再度見つめる。
「……なんでだろうな……やることも物言いも、とことん気に入らねえのに、あの人の言葉は、なぜかグサッと胸に突き刺さる。今の俺達が、どれだけ甘かったのか思い知らされちまう……」
考えるまでもなく、「あの人」というのは芹沢さん。
あの人は目的の為ならなんでもする。
それは、今の土方さんや近藤さんにはできないことだ。
「……あのさ、ずっと気になってたんだけど……あれから沖田とは話したのか?」
私は聞いてもいいだろうかと思いながら、ずっと心に引っ掛かっていた事を聞いてみる。
「……」
何も答えない土方さんに、私は歩み寄る。
「沖田と土方さんは、江戸の道場に居た頃からの仲間なんだろ?」
このまま、話さないなんてよくないと思う。
土方さんの顔を見ようと覗き込むと、土方さんはちらと私を見るが直ぐに視線を反らした。
「総司のことは、近藤さんに任せておけば心配ねえんだよ」
「……」
この人は……
心配してる癖に……。
「お節介かもしれないけど……今すぐじゃなくてもいいから、沖田に一言言葉をかけた方がいいと思う……」
真剣な顔と声を出す私に、土方さんは、ふうとため息をつき私に顔を向ける。
「……行くか。いつまでも立ち止まってるわけにゃいかねえからな」
欄干から身体を離すと、私から背を向け、そのまま歩きだした。
本当に不器用な人……。
きっと沖田も昔から一緒に居たならなおのこと、土方さんの不器用なりの優しさに気づいてるんだろうけど……。
沖田も素直じゃないからなぁ……。
私は、この時にはすっかり舟の事を忘れていて芹沢さんに怒鳴られるわ、帰りの舟の中でも舟酔いで潰れ、新見さんには嫌味を言われるわ……散々な舟旅……
いや、永倉だけは「なんで、俺だけ置いてくんだ」と言いつつも、優しく介抱してくれた。
その優しさに、ありがとう。と伝えると彼は頬を赤らめてガシガシと頭を掻いた。
照れてるのかな?
可愛い
私は酔いを少し忘れてくすりと笑った。
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