翌日
上覧試合は、京都守護職本陣が置かれている金戒光明寺の庭で行われることになった。
私は原田や他の隊士達と共に陣幕の裏から試合が行われる広場を見ていた。
あれが松平容保かぁ……。
歴史に疎い私でも知っている(といっても、大河ドラマで知った)人物が建物の中――上座の一段高くなった床机の上――に座っていた。
カメラがあったなら撮りたい。
だけど、この時代にあるカメラって確か撮るまで時間がかかるんだよね。
なら、目に焼き付けるしかなさそうだ。
それか絵にでも残すか……いや、でも私って絵下手じゃん……。
そんな事を思っていると、第一試合の土方さんと平助が庭の中央に出てきた。
どちらが勝つだろう。
なんだか平助は緊張しているのか表情が硬い。
逆に土方さんは、落ち着いている。
性格がこういう所でも現れるよねー
私は二人を見てそう思った。
「なあ龍之介、おまえはどっちが勝つと思う?」
突然、原田が私に問う。
原田を見れば視線は二人に向けられていた。
「ん?……そうだなぁ。土方さんは練習より本番に強そうだし、平助は動きが軽くて強いからなぁ……難しいな。まあ、どっちが勝っても怪我しなきゃいいなと思うよ」
私が言い終わり、原田がこちらを見て何かを言おうとした時、太鼓が鳴り、審判役の役人がさっと手を挙げた。
原田も私も、そちらに目を向け会話は中断された。
「それでは始め!」
対峙していた土方さんと平助が瞬時に身構える。
「なんだ、あれ……?」
平助が持っている木刀の切っ先がゆらゆらと鳥の尾っぽのように揺れている。
「あれは『鶺鴒の剣』っつうんだよ。ああやって常に動いて、溜めの動作を悟られないようにするんだ」
「へえ……」
原田に教えられて私は感心する。
「あれが北辰一刀流の流派なのか?」
「流派っつたら流派だな」
そんな話をしている間に土方さんと平助の試合は進む。
「やあああ!」
大上段から平助は斬り込むが、土方さんがそれを弾いてみせる。
見切られていた平助は背後に戻されつつも構え直しニヤリと笑った。
土方さんも応えるように笑う。
ヤバイ。二人共カッコいいっ!
木刀と木刀がぶつかり合う。
私は、どうなるのかワクワクしながら試合を眺めた。
「くっそー。もうちょっとだったのになあ」
最後に木刀を弾きとばされ、土方さんに切っ先を向けられ負けた平助が陣幕に入ってきた。
「なかなか、いい試合だったぜ」
「平助、お疲れ様」
原田の後に私は平助を労う。
「おう!」
笑顔で応える平助に
「負けたけど、平助すっげえ格好良かった!」
私が感想を言うと、平助は恥ずかしそうに顔を赤らめ頬を掻きながら「ありがと」と笑った。
「始め!」
そんな事を話してる内に斎藤と永倉の試合が始まった。
第二試合が始まった途端、再び殺気が満ちる。
私も気を引き締めて試合を見つめる。
二人は木刀を構え、お互いに相手を見据えたまま動かない。
どちらが先に仕掛けるのか、緊張で心臓が痛い。
そのとき、それまで微動だにしなかった永倉が動いた。
「でりゃあああ!」
木刀を振り上げ、渾身の力を込めて降り下ろす。
だが、斎藤は素早く応戦し強烈な打突を受け止めると、それを弾き返す。
「くっ……!」
「うおっ……!」
木刀ごと押し返される形で、永倉が大きく後退した。
体勢を整える暇を与えず、斎藤が迫った。
続けざまに木刀を振るうが永倉はその全てを受け止めてしのぎ切った。
凄い……。
私は、ただただ試合に見入っていた。
お互い好戦的な笑みを浮かべながら互いの力をぶつけ合う。
激しく地を蹴り、木刀がぶつかり合う音が高らかにこだまする。
「あ……!?」
永倉が声を上げる。
木刀を降り下ろした先に斎藤の身体はなく、彼は永倉の左に入り、木刀が永倉の脇腹に当たっていた。
「それまで!」
審判の声に私は我に返った。
容保さんも重役達もあまりの激しさの試合に呆然としているようだった。
「くそ!負けちまった!」
「お疲れ〜」
戻って来た永倉を、平助が労う。
庭の中央では、最後の試合が始まっていた。
山南さんと沖田が対峙している。
「おい、龍之介ぇ〜、俺に『負けたけど格好いい』とかないのかぁ?」
「へへ〜ん。新八っつぁん、俺は言われたもんねぇ〜!」
「なにぃ?なんで、平助には言って俺には何もないんだ!?」
ぎゃーぎゃーと後ろで騒ぐ平助と永倉に、私は振り返り睨み付ける。
「うるさい。静かに見てろ」
「「はいっ」」
ぴしっと二人が返事をしたのを見届けてから、再度庭へ目を向ける。
山南さんは平助と同じように木刀の切っ先を揺らしていたので私は近くにいる原田に訊ねた。
「あれも鶺鴒の剣か?」
「ああ」
「でも山南さん、総司相手に通用するかな……」
同じように中を覗き込んだ平助が心配げに呟いた。
山南さんは切っ先を揺るがせながら距離を詰め、斬り込んだ。
その木刀を沖田は受け止め、二度、三度と続けて山南さんは打ち込むが全て沖田は止める。
「読めてますよ、山南さん」
そう言った後、沖田は確実に三度の突きを山南へ見舞う。
「くっ……!」
山南さんは何とか、その攻撃を木刀でさばくと、大きく距離を置いた。
「……総司の太刀筋、やっぱりちょっと変わったな」
誰に言うともなく永倉が呟いた。
ああ。そうか。
彼は人を……殿内を斬ったから……。
急に重たくなる空気。
その間にも試合は続く。
「決めさせてもらいますよ。山南さんっ!」
沖田は低く構えると、地面を蹴り、鋭い突きを繰り出した。
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