彼は誰時

あれから、数日経った頃
私は朝日を浴びながら玄関の掃き掃除をしていた。
先ほど、数十人の隊士達と芹沢さん、新見さんが八木邸の中へ入って行ったばかり。
広間で何か話をしてるのかな?
内容は気になるけど、私は隊士では無いため、広間に行く事も内容を知る必要もない。
山南さんに会うたびに、あの事――隊士にならないかという誘い――の催促をされるかと思ったけど、してこない。
気まぐれで言ってたのかな……?
いや、でも会うたびに催促されたら困るか……。
私は、まだ決めかねてるんだから。
今は私が芹沢派という立場にいるというのは、想像に難くない。
隊士になったら、問答無用で腹を詰めさせられるかもしれない。
いや、そうなってもいいようにしたいのかも……。
そんな事を考えながら庭を菷で履いていると、集まりが終わったのか、隊士達がわいわいと出て来た。
いつもよりイキイキと張り切っているような気がする。

「……なんだか、えらく張り切ってるみたいだな」

「ようやく巡ってきた晴れ舞台だからな」

一人言で終わるはずだった言葉は、誰かによって繋がる。

「原田!」

振り返ると後から出て来たらしい原田が手を上げながら私に近づくと上覧試合のことを教えてくれた。
原田と雑談をしていると、近藤さんがこちらへやってくる。

「いやはや、予想以上の反応だな。皆、やる気を出してくれたみたいで嬉しいよ」

本当に嬉しいというように破顔する近藤さんに原田は応えた。

「そりゃ、せっかく京に来たってのに腕を振るう機会もなくて、腐ってたところだったからな」

「俺も、局長という立場でなければ試合に出たかったんだがな……」

近藤さんは本当に残念だというように顔を歪ませる。

「近藤さんの強さを見て、会津藩のお偉いさん方が度肝を抜かれるところも見てみたかったけどな」

自分のことを誇るような口振りで原田は言う。

「近藤さんって、そんなに強いのか」

感心したように私が言うと原田が笑顔で続ける。

「強い、強い。俺、試衛館に来てから、近藤さんが木刀の試合で負けたところなんて見たことねえぜ。あの総司が、一目置くぐらいだからな」

「へえ。本当に凄いんだなー」

私が尊敬の目を向けると近藤さんが、肩をすくめて照れたような表情を浮かべる。

「い、いや、そこまでは……。あまり持ち上げ過ぎると実際に見た時、井吹君をがっかりさせてしまうぞ」

「謙遜すんなって。実際、近藤さんは強いじゃねえか」

「そ、そうか……?」

近藤さんは頭をガリガリ掻きながら、身の置き所がない様子で視線をさまよわせていたが

「そうだ!せっかくの機会だし、井吹君も剣術の稽古を始めてみたらどうかね?」

近藤さんは人のいい笑顔を向けながらそんな事を言う。

「……ありがとう。だけど、実はこの間から剣術は原田や斎藤、沖田に教えて貰ってるんだ。だから気持ちだけもらっとくよ」

「そうなのか!なら、何か分からない事があったら何でも聞いてくれ!」

「ありがとう」

笑顔の近藤さんに、私も笑顔を返すと、近藤さんは頷いて踵を返して立ち去った。
多分、皆の稽古を見に行ったのだろう。

「さて、俺は新八の稽古でも覗きに行ってくるかな。じゃあな、龍之介!」

「ああ」

私も仕事頑張ろうっ!
箒を握りしめて、掃除を再開させた。


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