彼は誰時

「すげえ!格好いい!」

平助が興奮したように歓声を上げた。
行季(こうり)という名前の、竹で編んだ籠のような入れ物から出てきたのは浅葱色羽織だった。
袖の部分には、白い山形の染め抜き模様があしらってある。
平助は喜び全開という感じで、それを掴み広げると、高く掲げる。

「これが俺達の隊服か!」

「ああ!」

同じく嬉しそうに声を上げる永倉に、近藤さんが大きく頷く。

「浪士組の名を京で知らしめる為に、芹沢先生が大坂で調達した金で作られたのだ」

芹沢さんの隣に立っている新見さんが、自分がやったというように得意満面で言う。

「なあ、せっかくだから、袖通してみようぜ!」

聞いてない様子でキラキラと子供のように平助が近藤さんにねだる。

「良いですか?芹沢さん」

「構わん、着せてやれ」

近藤さんに訊かれ、珍しく機嫌がいいらしい芹沢さんは、こだわる様子もなく試着を許した。

「やった〜!源さん、ハサミ!ハサミ!しつけ糸取るから」

「ちょっと待ちなさい。切ってあげるから、じっとしてなさい」

井上さんは、焦れる平助を優しくたしなめながら、持っていたハサミでしつけ糸を切る。

「俺のもな!」

行季から自分の隊服を引っ張りだした永倉も井上さんを呼ぶ。

「はいはい」

その声に、井上さんは返事をしながら向かって行った。

「龍之介!どうだ!?似合う?似合う?」

私に駆け寄ってきた平助は、私に見えるように腕を開いたり、後ろを見せたりした。

「ああ。似合ってる」

そう言えば、嬉しそうに平助は笑う。
永倉は永倉で鏡、鏡!と騒ぎ、少し離れたところでは、沖田、原田、斎藤達も同じように隊服を広げてはいるが、なんだか難しい顔をしている。

「左之さんは、この服どう思う?」

「……ちょっと目立ち過ぎな気もするが。なあ斎藤?」

「一理ある」

言いづらそうに声を落とす原田に、斎藤が頷く。
その言葉を聞きながら私は芹沢さんに歩み寄る。

「なあ、芹沢さん。あの羽織ってなにか込められた意味みたいなのあるのか?」

今日はかなり機嫌がいい芹沢さんだから、聞いたら答えてくれる気がして気になった事を聞いてみた。
そしたら、芹沢さんは呆れたような冷めたような目で私を見下ろす。

「あるに決まっているだろう。……仕方あるまい、教えてやろう。よく覚えておけよ、犬」

私は頷きながら、芹沢さんを見つめる。
芹沢さんは行季の中から一着の羽織を出して説明を始める。

「この羽織の色を浅葱色というのだが……これは、武士が腹を詰める時に着る死装束の色だ」

「死装束って……」

私は驚いて目を見開く。
そんな様子の私を見ながら芹沢さんは話を続ける。

「我々は、命を賭して隊務に臨んでいるという意味を込めてあるのだ。そして、この袖口の山形の染め抜き――これは、蛇のウロコを表している」

「蛇の……?」

「さよう。脱皮を繰り返して生き延びる蛇は、古来より不老不死の象徴とされてきた。つまり、この図柄は、死した後も永久に続く信念を表しているのだ」

死した後も……。
そう言った後の芹沢さんの顔は、なんだか寂しさのような悲しみのような……
いや、何かを決意し直したような
本当に本当に一瞬だけ、瞬きをしてたら、きっと分からなかっただろう時間、そんな顔をした。

「さてと、そんじゃてめえら早速そいつを着て巡察に行くぞ」

「おう!」

仲間達の勇ましい返事に、白い鉢巻きをきりりと締めた土方さんは、隊服をバサリと羽織ると少し振り返り歩き出した。
私は、その後ろ姿を見送る。
全員がキラキラと輝いて、私にはとても眩しく見えた。


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