8、落ち着く居場所


酷く暗い場所に井吹はいた。
奥も何も見通せない不思議な空間だ。
きょろきょろと周りを見渡し、足元を見たとき、自分の足が見えた。
そこから胴体、腕、手と、何故か自分自身だけが淡い光を出すように見え出した――その時、

「あの駄犬め、どこをほっつき歩いている!」
「旦那様、落ち着いて下さいませ」
「落ち着いておるわ!」

突然、目の前に明るい光が指し、丸い空間から二人の声と姿が見えた。

「芹沢さん……平間さん……」

その声の主は、ここではない世界――元の世界にいる親代わりである芹沢と使用人の平間だった。
イラついた様子の芹沢を宥める平間。
井吹はその二人に手を伸ばすが、見えない壁に阻まれた。

「井吹を返しやがれっ!!」

後ろからの怒鳴り声に井吹は振り返ると、土方が此方に向けて剣を振るうところだった。

「うわっ!」

井吹は咄嗟に腕で身を守るように交差させ、ぎゅっと目を瞑った。
だが、いつまで待っても痛みがなく、恐る恐る目を開ける。
先ほどと同じように目の前に丸い空間があった。
その場所は先ほどまで井吹がいた所。
土方や沖田達が剣で何かと戦っていた。
土方は井吹ではなく、その先にいた者を斬ろうとしていたのだろう。
新手を相手にしながらも、此方を射ぬかんばかりに睨み付け、駆け寄ろうとしているのが見てとれた。

「土方さん!」

井吹は、そちらに駆け寄ると先ほどと同じように見えない壁に阻まれた。

「龍之介!こっちに来いよ!」

ハッとした。後ろから響いたその声は、学校で仲良くしてくれている友人のもので、振り返れば笑顔で此方に手を差し出していた。

「帰ろう」

きっと、この手を取れば元の世界に帰れる。
井吹の直感がそう訴える。
だけどもそれは

「井吹!」
「龍之介を返せ!」

あちらで戦っている彼らを捨てるということ。
がむしゃらになって井吹を助けようとしてくれている彼らを…。

「大丈夫だから、こっちに帰って来いって」

そんな井吹の心を読んだかのように友人は、ほらと再度手を差し出した。
友人の手、土方達へと視線を動かす。
友人の顔を見ると、井吹の答えを待つと言うように微笑んだ。

「俺は……」

井吹は呟きながら俯いた。

「くそっ!こいつらどうなってんだっ!」

藤堂が敵を討ち取るが、数は一向に減る様子がない。
焦ったように叫ぶ。

「龍之介!無事か!?無事なら返事しろっ!……くそっ!」

原田も敵を斬り倒しながら、此方に叫ぶ。

「俺は……っ」

友人は聖母のように優しい笑みを浮かべて、井吹の答えを待っている。
バッと井吹は顔を上げた。

「俺は、皆を見捨てるなんてできない!」

ぎゅうっと手に力が入る。友人はその答えを聞いても微笑んだままだった。

「帰りたい!けど、俺はあいつらに助けてもらった!優しくしてもらった!だけど、俺はまだ何も返せてない……。だから、だから俺はっ!」
「……そっか。なら仕方ないね」

友人は、眉をハの字に下げ、寂しそうに淡く微笑むとゆっくりと差し出していた手を下げた。

「ごめん」

井吹は、そんな様子の友人に謝ると、ぎゅっと目を瞑る。
そして、目を開いた井吹の瞳は、もう迷いはなく覚悟が決まった力強いものだった。

「土方さん!原田!沖田!平助!永倉!」

彼らがいる場所へ戻るべく、井吹は見えない壁に向かって行った。

くそっ!
井吹はいくら叩いても体当たりしてもビクともしない壁に向かって悪態をついた。
どうしたらいいんだ!

「己の心を強く持て」
「俺達が時空をねじ曲げる。なんとかして出てこい!」

知らない二人の声が響く。

「誰だ!?」
「そんな話をしてる場合ではない!いいから早くしろ!!」
「くそっ!わかったよ!」

井吹は言われた通りに、強く強く皆のもとへ帰れるように祈る。
すると自分の体から光が溢れだした。
驚いている暇もなく

「今だ!」

その声に従って井吹は、壁に向かって駆け出した。

****

ぱあぁ!
突然、井吹が吸い込まれてしまった鏡から眩いほどの光が溢れ出した。

「な!?」

鏡を持った男が、激しく動揺する。
その光は、土方達が相手にしていた敵も、糸の切れた操り人形のように崩れさせたからだ。
パキッ
不穏な音が鏡から響く。
小さなヒビが鏡に入っていた。
そして、連動したようにパキパキと音をたてながら全体にヒビが入り、ついには激しい音をたてながら割れた。

「井吹!」
「龍之介!」

最悪の事態を予想して誰もが顔を青ざめた。

「大丈夫だ」
「あいつは今、出てくるはずです」

突然現れた男二人、その内一人に土方と沖田は見覚えがあった。

「斎藤か?」

瞠目しながら土方が問い掛けると、斎藤は「久しぶりです」と頭を下げた。
沖田はもう一人の男をジッと睨み付ける。
そんな視線など気にも止めないように、その男は光の方向を凝視していた。

「おりゃぁぁああああ!!」

雄叫びを上げながら、その人は光から飛び出し、井吹を鏡に閉じ込めた男を蹴りあげた。


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これは前の話で入る予定でした。
そして、すでに皆(土方さん達)がいる所が、井吹にとって居場所になってたよ。という話になる予定だったのに(;´д`)

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