6、優しい手


「龍之介……お前、お偉いさんだったのか……?」

永倉が近藤の豪邸を見上げながら呟いた。
藤堂は口を開いて驚き、原田は口は開いていないが、目を見開いている。

「俺は、そんなんじゃないさ。ここは……俺がお世話になってる所だ」

井吹は、なんて説明したら良いものか、考えながらそう言う。

「なぁ〜んだ!そうだよな!」

永倉は、それを聞いて安心した様に笑うと、藤堂は戸惑うように口を開く。

「けどさ、ここって……」

「平助。それは追々説明してくれんだろ?」

今は何も聞くなというように、原田が首を振ると井吹に目を向けた。

「ああ」

井吹は頷くと、見張りがいる門へ向かう。

「「井吹様!!」」
「私は土方様に連絡してきます!」

井吹の姿を見ると、慌てたように駆け寄ってくる門番と、中へ駆けて行くもう一人の門番。

「井吹様!どこへ行かれてたんですか!?急にいなくなられて、心配していたんですよ!?」

井吹に駆け寄って来た門番は、凄い剣幕で責め立てる。

「わ、悪かったよ。町へ行くなら一人でも大丈夫だと思ったんだ」

「それでしたら、誰かしらに声を掛けて下さい!」

「あ、ああ、すまない」

井吹は気圧されながら謝ると、門番は原田たちに目を向ける。

「そちらの方々は?」

「ああ、ちょっと町で世話になって……」

井吹が事情を説明する。

「それはそれは。井吹様を助けて頂きましてありがとうございました」

「いいってことよ!」

頭を下げる門番に永倉がニカッと笑って応える。
すると、建物の中に駆けて行った門番が誰かを連れて戻ってきた。
おそらく、この人が"土方様"なのだろう。

「てめえ……なに考えてやがる!」

土方は、井吹に駆け寄ると、胸ぐらを掴み上げる。
井吹は突然の事にびっくりして言葉も出ない。

「どれだけ心配したと思ってんだ!分かってんのか!?」

「まあまあ、落ち着けって……」

原田がそう言葉をかけるが、ギンッとその人に睨み付けられ、近くにいた二人も縮こまる。
深い紫色の瞳にサラサラと揺れる髪。
一見、女性のように綺麗な容姿をしているが、今は物凄く怖い。

「もうしない。心配かけて悪かった……」

心からの謝罪。
この人や門番たちを見れば分かる。
本当に心配かけたこと、迷惑をかけたこと。

異世界から来た、よくわからないこんな男を心配してくれるなんて思わなかった。

しばらく睨み付けるように見ていた土方だったが、舌打ちをすると井吹の胸ぐらを掴んでいた手を離した。
そして、三人組へ視線を向ける。
こいつらは、何だ?
そんな顔つきになる。
今まで、傍観していた門番の一人が、事情を説明した。

「フン、なるほどな……皇帝陛下が心配されてるからな行くぞ。お前らも一緒に来い」

納得したように頷くと、顎をしゃくって建物の中に案内するのだった。



皇帝陛下の元へ井吹が行った途端、ものすごい殺気というのか怒気に近いのかもしれない。そんなのをひしひしと感じた。
その主はその部屋にいた沖田だった。
その殺気で人を殺せるんじゃないか。
沖田に目をやらないようにしながら井吹はそんな事を思ってると、バタバタと皇帝陛下が井吹に駆け寄ってくる。

「井吹様!ご無事でしたか!良かった!良かったぁ!」

泣きそうに顔を歪めながら言う近藤に申し訳ない気持ちが溢れる。

「本当、心配かけたみたいで悪かった……すまない!」

バッと頭を下げると、近藤の暖かい手が井吹の顔を掴み、顔を上げさせる。

「あなた様が御無事なら、それで良いのです」

暖かい笑みを浮かべる近藤。

「うん……ありがとう。あ、この人達は町で俺の事を助けてくれたんだ」

「そうですか!」

「しかも、こいつら七星士だ」

「えっ!?」

「トシ、それは本当か!?」

土方の言葉に井吹も近藤も驚く。

「ああ」

「それならば、井吹様とあなた方の出会いも必然なのでしょう。井吹様を助けて頂きましたし、七星士ということですから、歓迎と御礼を兼ねて食事を用意致します。さあ、井吹様お疲れでしょう?食事が出来上がるまでお休みになっていて下さい」

ニッコリと暖かい笑みを浮かべる近藤に、井吹はありがとう。と心から感謝した。


近藤の暖かい手の感触を思い出し、もう二度と勝手な事はしないと井吹は心に誓った。


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