13.The STANDARD
「…っあっぶねぇ…」
思い切り脱力して、運転席の背もたれに体重を預ける。
掌で顔を覆って目を瞑ると、鮮明に彼女の表情が蘇った。
街頭に照らされた潤んだ瞳。
ほんのりと上気した頬。
必死に動く唇、とか。
あぁこの子は俺のことが好きなんだと、思いが透けて見えるようなそんな姿を見たのは、いつぶりだろう。
あまりに真っ直ぐぶつけられるものだから、自分の方が錯覚してしまいそうだった。
ー俺は大人、あの子は子供。
きっと俺が同じ10代だったら、迷わず彼女を受け入れていたと思う。
恋をすることも、されることも、簡単だったあの頃なら。
今や20代も半ば。
どんなことも簡単にはいかないものだ。
ーまぁ、
ポケットから出した煙草に火を点けて、窓を開けた。
空になった煙草の箱をクシャりと潰す。
ー相手にしなきゃ、すぐに飽きるだろ。
サイドミラーに映る自分の疲れた顔に、ふっと煙を吐きかける。
エンジンをかけて、ゆっくり車を前進させると涼しい夜風が吹き込んできた。
「なんであんなこと言っちまったかなぁ」
独り言を溢して唸る。
受け止める、なんて。
無責任じゃないか、と今になって理性が言う。
受け止めることすらしないと、突っぱねるべきだっただろうと。
限りある青春の時間を奪ってはならないと分かっているのに、それができなかったのはー。
「うわっち!!!!」
取り止めもない思考は、落ちてきた煙草の灰を払い除けるのと同時に消えていった。
◇
「ただいまぁ」
「おかえりー!ご飯できてるよー」
「はーい…」
部屋に入って、ベットに倒れ込む。
まだ制服や髪に残る烏養さんの匂いを吸い込んだ。
もう後戻りはできない。
でもそれでいいと思ってる。
昨日まで足踏みしていた自分とは思えない、気持ちの変わりようだけど。
ー確かに、キャラ変わったかもね。
烏養さんの言葉を思い出して、ふと笑った。
先輩に告白されて思ったのだ。
始まりはどうであれ、この恋が何かの代わりの恋じゃないと思うなら、ちゃんと向き合いたいと。
やれるだけのことをやってみたいと。
そう思える程の恋なんだって。
続