14.据え膳食わぬは何とやら



「お前さぁ…」
「はい?」
「毎日毎日ここに来てないで、ちゃんと青春しろよ。勿体ねぇ」
「これが私の青春だから、いいんです」

あの日から私は、毎日放課後も休みの日も隙あらば坂ノ下商店に通っている。

最初のうちは烏養さんは素っ気ない態度(諦めさせようとしているのが見え見えの)だったけど、あまりにしつこい私に折れたのか、私が素っ気ない態度に慣れたのか、どちらにせよ普通に会話ができるようになった。

「でも良い話し相手にはなってるのでは?」
「なってねぇよ」
「またまた。素直じゃないなぁ」
「お前は素直過ぎるだろ」
「褒めてます?」
「ポジティブが行きすぎてこえーよ」

週刊誌に視線を落としたまま苦笑する烏養さんを見て、今日はここまでかな、と察知して立ち上がった。

私がいる間は煙草を吸わずに我慢してくれてるのも、見てわかるから。
嫌われたいわけじゃない。

「気ぃつけてな」

ぶっきらぼうだけど、ボソリと優しいことを言ってくれるところが嬉しい。

「そういうこと、他の子に言っちゃダメですよ、絶対!惚れちゃうから!」
「惚れねぇよ、アホか。いいから、暗くなる前に早く帰れって」

私は諦めて、制服のポケットに手を突っ込んで扉に向かって歩く。
手に当たる乾いた紙の感触を確かめて、思い直して踵を返した。

「烏養さん!」
「なんだ、まだなんか…」
「これ!」

カウンターにポケットから出したメモを置いた。
ポケットの中でずっと握ってたから、皺が寄っている。
それを見たら堪らなくなって、急いで出口に向かって引き返した。

「おい、」
「私の連絡先です」

扉を開けて外に出て振り向く。

「連絡、くれなくてもいいです。ただ渡しただけなので!
じゃあまた、明日!!」

それだけ言って、ピシャッと扉を閉めた。

季節はもう冬の初め。
走りながら顔に当たる冷気が、熱くなった頬に気持ちがいい。



       ◇


「…っつ〜…!!…あぁー!くそっ…」

抱えた頭を掻きむしる。

ーなんっ…なんだよ、マジで。あんなの、反則だろ。

真正面からぶつけられる好意にはもう慣れて、免疫がつき始めた頃だったのに。
不意にあんな、初々しいことをされると。

「…いかん。ダメダメ」

口に出して歯止めをかける。

ー相手はいっときの感情と勢いで動いているだけ。惑わされるな。

そう言い聞かせて、煙草を取り出した。