18.とりあえず生中!
ー送信。
来る途中で掛けてみた電話には出なくて、代わりにショートメールを送ってみる。
返信が来て、元気かどうかが分かればそれでいい。
「で、話を聞こうか」
席に着くと、嶋田がずいっと乗り出してきた。
その横で滝ノ上が2口目のビールを流し込んでいる。
「話つったって…」
勢いで嶋田に電話を掛けて、とりあえず飲みに行くぞという話になったのが2日前。
結局色々予定を合わせていたら今日になった。
「ほら、酒蔵の安本さんとこの職人さんに、苗字さんっているだろ。あの人の娘さん」
「おー。名前ちゃんな。それこそフミの幼馴染だよ。俺は子供の頃から知ってる」
「そう、その名前ちゃんな。その子に告白されました」
俺の言葉に一瞬場の空気が止まる。
「…はっ?!!?!!名前ちゃんに?!!?」
「ゲホッ!!ゴホッゴホッ!」
嶋田は叫び、滝ノ上はむせておしぼりで口を押さえた。
「しぃっ!!!!声でけーって、馬鹿!!」
俺は慌てて常連の親父さんが今日は来てないかいつもの席を確かめて、いないことに胸を撫で下ろす。
「ちょっと、待て。お前と名前ちゃんが全然繋がらないんだけど」
どういうこと?と急かされて、今までの事の顛末を掻い摘んで話していく。
自分で話しながら、すげぇ話だな、と思うけど、却ってこれは自分に起こった事なのだと自覚することになった。
「すげぇ」
「女子高生、怖ぇ」
「だよな…そういう反応になるよな」
男3人で肩を丸めて、暫しの無言がテーブルに広がった。
「で、どうなんだよ」
嶋田がビールを煽って言った言葉に顔を上げた。
「どうするも、こうするも。あの子が諦めるの待つよ」
俺は煙草に火をつけて、天井に向かって煙を吐き出して言う。
今のところ、それしか打つ手はないのだから。
「いや、そうじゃなくて、お前はどう思ってんの?ってことだろ」
滝ノ上が嶋田の言葉の後を引き継ぐ。
「どう…って…」
「はっきりしねぇなぁ。完全に断らなかったってことは、そういうことなんだろ?」
「…そうだったとして、俺が手ぇ出していいわけねぇだろ」
自分で言って、あ、と思う。
酒の力もあってか、つい本音が出た。
「じゃあ、もし、その名前ちゃんに彼氏ができても別にいいわけだ」
「それ…は…人による、だろ」
どんどん墓穴を掘っていっている気がする。
「いや、お前さぁ、それ」
「だぁー!!!言うな言うな!言葉にすんじゃねぇ!」
滝ノ上の言葉を遮る。
明確に言葉にされてしまうと、いよいよもう目を逸らせない事実になってしまいそうで。
「繋心、お前…」
嶋田が憐れむような視線を向けてくる。
「何だよ」
「いや不憫だなと」
「オイ、面白がってんだろ」
「悪い」
いや、しかしあの名前ちゃんがそんな大胆だったとはなぁ、と嶋田は腕を組む。
そしてパッと顔を上げた。
「え、ていうか、もう付き合えばいいじゃん」
「お前、今までの話聞いてた?」
何言ってんだと、呆れて溜息をつく。
「いや、だってさ、苗字さんも、“繋心みたいな奴が娘貰ってくれたら”みたいなこと言ってたし」
「は?まじで?」
「変なやつ連れてくるよりいいってさ」
「あのおっさん、娘なんだと思ってんだよ」
陽気な職人の親父さんの顔を思い浮かべた。
でもまぁ、みたいな奴、であって、俺そのものがきたら、親父さんぶったまげるだろうが。
「お前も、変な奴とくっつかれるのは心配なわけだろ?勿論俺だって心配だし」
「そりゃまぁ…」
「ほら」
「あ?」
「付き合えばいいじゃん、何も問題ないだろ?」
嶋田がにっこりと満面の笑みを向けてくる。
「いや、捕まるからね?年齢考えろよ」
他人事だと思って好き勝手言いやがる、と思いながら残りのビールを飲み干した。
ポケットの中で携帯が震えて、液晶を見て煙草を灰皿に押し付ける。
「わり、ちょい席外す」
急いで電話に出ながら、こんなのホントいつぶりだろうな、と思う。
電話がかかってくることに、こんなに緊張したり、嬉しかったり、気持ちが動くのは。
続