08.大人と子供



ーいやいや気のせいだろ。

自分に自分で言い聞かせる。

華の女子高生が、こんなおっさん相手に。
有り得ないことだ。

そう思いながらも、さっきのやりとりを考えてしまったりする。

そして同時に、ここのところのあの子の、あの視線の意味も。

何か話したいことがあるのだろうかとか、そんなことを考えて他愛ない話を振ったりしているうちに、なんとなくそれが日課になってしまっていたが、本当は。

「こんちはー!」

頭を抱えていると、引き戸の開く音がしてガヤガヤと数人の男子高校生が入ってきた。

「お、おぅ、いらっしゃい」

顔を上げて高校生たちを眺める。
こいつらと同い年なんだよな、あの子、とぼんやり思って、ため息をついた。

ー変な勘違いさせるようなことしちまったかなぁ。

自分の行いを振り返りながら煙草を咥える。

「あの」
「んぁ?」

上の空で煙草に火もつけずに頬杖をついていたら、カウンターを挟んで真正面にあまり見ない男子高校生が立っていた。

「さっきここにいた、あの、ボブの子、」
「っゴホッ!ゲホッ!」
「大丈夫っすか?」
「だ、大丈夫。なんでもねぇ」

動揺して咳き込む俺を、見知らぬ男子高校生が吃驚した顔で見ている。

「で、あの子が何?」

息が整って聞き返すと、あ、いや、その、と口籠って頬を引っ掻いたあと、思い切ったように口を開いた。

「あの子、よく来てるんですか?」

あぁそういうことか、と思う。
きっとこの子は、あの子のことが好きなのだろう。

ーそうだよな、これが普通だよな。

あの子と、今目の前にいる男子が一緒にいることを想像して納得する。

「おぉ、大体毎日学校帰りに寄ってくよ」

明日も来るんじゃねぇか、多分、と付け加えた後で、さっきのことが脳裏に浮かんだ。

「学校一緒なんだろ。用があるんなら、学校で話しかければいいじゃねぇか」
「いや、そうなんですけど…なんか、避けられてて」

そう言って俯く。

ーなんだ?訳アリか。

そこでふと、あの子に最初に会った日のことを思い出す。

「お前、何部?」
「え、美術部ですけど」
「あー」

ーなるほどね。

1人合点がいく。
恐らく、あの子を夏休みに振った野郎が、今目の前にいるコイツなんだろう。

きっと好きだった奴にフラれて、その日に優しくされた大人にクラっときただけ。
幼さゆえの大人に対しての憧れ、きっとその恋は勘違いだ。
新しい相手が現れればすぐに忘れる。

「また、来いよ。放課後に」

俺は男子高校生に声をかける。
たかだか女子高生の恋愛対象に入ったことに動揺する自分に苦笑しながら。