02.終わりから始まるものもある



まだ始まったばかりの夏休みの、とても空が青い日。
私の丸1年間と半年程秘めた恋はあっさり幕を閉じた。


美術部の1つ上の先輩で、優しくてカッコよくて、空の青さにも色々な青があると教えてくれた。
高校に入ってできた好きな人。


『明日、部活来ますか?』
『俺はいくよ。誰も来ないみたいだけどね』
『じゃあ私も行こうかなぁ』
『おいでよ!名前ちゃんと話すの好きなんだよ、俺』
『えへへ、嬉しい。じゃあまた明日学校で』

美術部は緩い部で、夏休みは好きな時間に来て、好きなだけ活動して帰るという方針だ。
だからもうすぐ卒業してしまう先輩と、2人でいられる今日は私にとってチャンスだったのだ。

足取り重く1人カラカラと回る車輪の音を聞きながら坂道をゆっくり歩く。

『これ、あげるよ。上手くできたからさ』

鞄の取手についた、もう随分前に照れた笑顔で先輩がくれたミサンガが、自転車の振動で跳ねた。

先輩に会うからと、朝早く起きて内側に巻いたボブの毛先が、しつこくない程度にナチュラルにしたメイクが、薄いピンクに塗った爪の先が、酷く虚しく、苦しい。

結構な決意だったのだ。
自分から告白するというのは。

全身が心臓になったみたいに煩くて、暑くて、声が震えた。

『先輩、好きです』

自分の声がまるで他人の声のように聞こえて、ふわふわと浮かんでしまいそうだった。

だけど返ってきたのは沈黙で、そっと顔を上げたら先輩が困ったような顔をして下を向いていた。
それで、私は全てを悟った。

ーあぁ、全部全部、私の勘違いだったんだ。

先輩が口を開く。
言わないで、そう言おうとしたのに声が出なかった。

『ごめん。俺、彼女いるから』

その後のことは、あんまりよく覚えてない。
あはは、ですよね!、気にしないでください!、とか、なんかそういうようなことを言って、部室を飛び出してそのまま帰ってきてしまった。

制服のポケットに入った携帯を取り出してみるけど誰からも連絡は入ってなくて、この期に及んで先輩からの連絡を期待している私はかっこ悪い。

ーあぁ、もうなんか、どうでもよくなっちゃったなぁ。
折角おしゃれしたんだし、このままどこか行っちゃおうか。
お買い物でもして、気を紛らわそう。

無理矢理気持ちを切り替えて、前を向く。


「君!落としたよ!」


いつの間にか下り坂は終わって、部活の帰りに何度か寄ったことのある商店の前を通り過ぎたところで声をかけられた。
振り向いたら金髪のお兄さんが立っていて、箒を持ったままその人が駆け寄ってきたところだった。