05.夏とアイスと恋心



「こんにちは」
「おう」

ブゥンと機械音のするアイスボックスを開けて、いつものアイスを取り出す。
レジ前に座る烏養さんに近づいて、少しお釣りがくるお金を払った。

「まいど」

ニカっとどこか人懐っこい顔で笑って、私の掌にお釣りを落としてくれる。
私はいつもどう返していいのか迷って、曖昧に笑うので精一杯だ。
そして店内にある椅子に座ってアイスを齧る。
たまに足をぶらぶらさせたり、前髪を触ったりしながら、烏養さんをこっそり見る。

ここのところ私の日課になったことたち。
今でもお店に入るのはドキドキするし、烏養さんがいるとそれだけで嬉しい。

アイスを食べ終わる短い時間でも、ほぼ毎日見ていれば烏養さんについて沢山のことがわかる。

私が来るのが見えると慌てて煙草を消してくれる烏養さんなりの気遣いとか、毎週の週刊漫画雑誌を楽しみにしていること、近所のお年寄りに可愛がられていることとか。

フミちゃんには「はぁ?何それ。何が面白いの?」と呆れられてしまったが、この束の間の時間が今の私には楽しい。

たまにうっかりして新聞越しに(週刊誌の発売日じゃない日は新聞を読んでいることが多い)視線が合ってしまった時に、気まずそうに咳払いをして新聞で顔を隠してしまう烏養さんなんて、こんなことでもしてなきゃ見られないと思う。

最近たまに思う。
烏養さんのあのゴツゴツした指が、手が、私に触れたら。
暑くて溶けてしまうかも、アイスみたいに。

ーなんてね。

ありもしない妄想をしていたら、本当にアイスが溶け出していた。
雫が滴らないように、アイスを持ち上げて舌で掬う。
できるだけ時間をかけてアイスを食べるなんて無理があるなぁ、と思いながらそのまま一気に食べ終えた。

「ごちそーさまでしたぁ」

ゴミ箱にアイスの棒を捨ててお店を出る。
むっとした熱風が吹いて、制服のスカートの裾を揺らした。

自分でも不思議に思う。
最初は本当に、“憧れにするにはちょうど良い”という程度だったのだ。
先輩を忘れるために、新たにきゃあきゃあ言うためだけの対象だったんだと思う。
いや、今でも別に烏養さんとどうこうなりたいと思っているわけではないし、どうこうなれるとも思えない。
でも確実に惹かれていっているのは事実で、このままじゃ引き返せなくなりそうだからもうやめようと思ったこともあった。
だけど結局また今日もここに来てしまった。

ーこれって先輩の時よりしんどいんじゃないの…?

自転車を漕ぎながらぼんやりそんなことを思う。