愛なんてないA






「それにしても…合コンっていうか、パーティーじゃん…」

小さめの会場とはいえ、ホテルの会場を貸し切っての立食。
流石今や飛ぶ鳥落とす勢いの、鶴見商事主催の合コンである。

「呼びたい女の子どんどん呼んでいいよって皆に言ったら、こんなことになっちゃった」

両頬に黒子が2つある、綺麗な顔立ちの男の人が、肩を抱いた女の人にそう言っているのが聞こえた。
女の人の顔が引き攣っていて可哀想だとは思ったけれど、助けようにも助けられないので、視線を逸らしてその場から逃げる。

もう既に、ある程度食事を済ませ飲み物も堪能した。
チラリと有坂さんを探すと、尾形さんにべったりくっついている。

もうお役御免ということでいいだろうか。

「大丈夫ですか?」

大きな瞳の可愛らしい顔をした男の子が、いつの間にか横に来ていた。
まだスーツに着られているといった感じの、初々しさがある。

「あの…?」

暗に名を名乗って欲しいことを含ませて微笑むと、あっすいません、と慌てて名刺入れを取り出し、名刺を差し出してきた。

「鶴見商事の三島といいます」
「ありがとうございます。
私、二七ホールディングス、受付の苗字といいます」

名刺を交換して、お互いに頭を下げる。

「おひとりで居られたので、気になって声を掛けてしまいました。
ご迷惑でしたか?」

とても丁寧な子だ。
この子はモテるだろうなぁと、受付嬢の勘が言う。

「いえ…。ありがとうございます。
少し、場の空気に当てられてしまって」
「そうなんですか?
とても落ち着いていらっしゃるように見えましたが」

場の空気に当てられるというのは、気後れしてるという意味ではなかったが、彼はそう解釈したのだろう。
実際は、この男女の濃厚な空気感に辟易していることを言っているのだが、返された言葉がやっぱり想像した通りの初心で、可愛いなぁと思う。

「あの…凄く不躾なことをお聞きしてもいいですか?」
「許可とって不躾なこと聞くんですね。どうぞ」

くすくすと笑って先を促すと、少し緊張した顔になった三島くんが口を開いた。

「今日は、どなたのお誘いで来られたのですか?」

あぁそういえば、どなたなんだろう?と、三島くんの言葉を更に自問自答する。
有坂さんは、私目当ての人がいるからと言っていたけれど、幸いまだそのような人に声を掛けられていない。

「同僚です。同じ受付の」

結局よく分からないし、色々説明するのも面倒なので、客観的事実だけを述べた。

「そうですか」

ほっとしたような顔で、ふわっと笑う三島くんの顔を見る。

例えばこのまま、彼が私に「2人で飲み直しませんか」なんて言ったとして、ついていくだろうか。

ないな。

私は心の中で即断する。
その一瞬は良くても、その後が本当に面倒なことは、もう分かりきっている。
日々の約束、男のための努力、相手のことを思いやること。
面倒くさいことこの上ない。

「あの、私今日そろそろ帰らないといけなくて…お話できて嬉しかったです」

早々にこの空気から抜け出そうと、では、と言って出口に向かおうとする。

「あっ…待って」

三島くんが案外強い力で、私の手をとって引き止めた。

「あの、良かったら」

引き止める為に握られたその手に、小さな包みが置かれる。

「チョコです。
今日確か、皆持ってくることになってたと思うのですが」

俺のは貴方にあげます、と照れ臭そうに三島くんが笑った。

すっかり忘れていたが、そういう企画だった。
1人1つチョコを持ってきて、渡したい人に渡すらしい。

手の中の包みを見ると付箋がついていて、恐らく彼の連絡先が書いてある。
連絡先を渡してくるちゃっかりさと、そのくせに付箋という、アンバランスさについ笑ってしまった。

「ありがとうございます。じゃあ、私も」

自分のチョコも彼に渡してしまおう、と鞄を開いたら、三島くんの期待のこもった眼差しが飛んでくる。
私の手がチョコの箱を掴んだ。



「三島、ちょっと」
「あ、野間さん。…すいません、失礼します」

先輩に呼ばれ、名残惜しそうに三島くんはその場を去っていく。

渡し損ねたチョコは鞄の中に行儀よく収まっていて、自分で食べればいいかと思い、次に捕まる前に退散することにした。



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