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緑に囲まれた空間、白磁のティーセットに、ケーキスタンドに乗せられた色とりどりのケーキたち。ジャムやジュースの空瓶に、摘んで来た草花(雑草といえばそれまでだけど、こうして飾ると中々良い)を生けてバランスよくテーブルに配置した。机も椅子も教室から持ち出したものだけど、そこは白い布を掛けてしまえば、立派なお茶会用のテーブルになる。机を長くくっつくけて、お誕生日席には先生たちが使っているオフィスチェアを置いた。椅子にも白い布を掛けて統一感を出す。いや、もうこれは完全に。
「イングリッシュガーデンみたいだねー!」
「マジでアリスの世界観じゃん……テンション、アガる」
ダーホンと七ツ森くんの言葉にふふんと胸を張った、のは私でなく風間くんだ。
「監修、俺」
ここぞとばかり得意げな顔をした風間くんの周りで同級生の面々から拍手がおこり、その横で手柄を独り占めされたダーホンと七ツ森くんがじっとりとした視線を送った。






 

 



「今週御影先生のお誕生日でしょ?園芸部と参加したい人たちで、サプライズお誕生日パーティー企画しようと思ってるんだけど、どう?」
「え、急にどうしたんですか?」
満面の笑みを浮かべた園芸部部長に怪訝な顔をすると、企むような表情に変わった。
「いやさ、文化祭の予行練習したくて」
部長の言葉に、なるほどそういうこと、と納得する。
毎年文化祭準備は当日の2週間前から始めるのだが、昨年散々時間が足りないとボヤきながら準備したことはまだ記憶に新しい。今年、部長になった先輩としては、昨年の経験を活かして早めに準備したいと思ったのだろう。
「今年もカフェ出店でいくとして、去年から少しはグレードアップしたいと思って。商品は園芸部の畑で採れるものとして、お店自体を何かこういい感じにしたいんだよね」
「確かに去年はほぼ装飾なしの、ただ教室でお茶を出しただけって感じでしたもんね」
「う……めっちゃはっきり言うじゃん……まぁだから今年はなんかもうちょっとお洒落にいきたいなと思ってるのよ」
腕を組んで考える素振りの先輩に同調して、私もうーんと頭を捻って、あっと思いついて手を打った。
「強力な助っ人を頼めそうですけど、声かけてみます?」
「誰?」
不思議そうな表情を浮かべた先輩の顔を見て。にやりと笑った私の頭に浮かんでいたのは、昨年同じクラスだった幼馴染コンビと友人たちだ。

こうしてアンティークに詳しい風間くん、色使いや小物使いのセンスに長けたマリィと七ツ森くん、物語や本に詳しい設定担当のダーホン、という心強い助っ人によって、御影先生のお誕生日会という名のお茶会に漕ぎ着けたのだった。
テーマは不思議の国のアリス風のお茶会。お菓子やケーキ、ティーセットも持ち寄りだ。あえてバラバラの統一感がないティーセットが並ぶのも、アリスの作中の雰囲気が出ていて面白い。
「来た来た!御影先生だ!」
職員室を見張っていた生徒が走り込んで来て、全員がそわそわとし出す。
去年は先生と2人でのお茶会をプレゼントにしたが、今年はいろんな人たちと一緒のお茶会だ。もう個人で何かをするつもりはなかったから、正直こういう機会をもらってありがたいなと思う。辿るべきルートを辿り始めているのだとしたら、私が何かすることは邪魔でしかないだろうから。今日は目一杯、御影先生のお誕生日を祝って楽しもう。
「はい、じゃあ、牧。先生をエスコートしてきてね」
「え、私ですか?」
「そこはお茶部の出番でしょ」
不意に背中をとん、と押される。いやいやそこはマリィの役目ではとチラと振り返ると、両拳を顔の横で握り『頑張って』と言わんばかりに笑うマリィと目が合って溜息をついた。



 





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やれやれと、朝、つなぎのポケットに入れっぱなしにしていた軍手を取り出しながら溜息をつく。
大人は会議が好きだ。特に教職員という人種は集まって話をしたがる。決めるべきことだけ決めるのであれば15分内で終わるような話を、無意味な雑談を挟みながら1時間も2時間もする。氷室教頭が出席するような大きな会議であれば、彼の采配で効率的に話が纏まるのだが今日は職員同士のミーティング程度の会議。案の定無駄な時間をジリジリとやり過ごす羽目になった。
誕生日だっていうのになぁ。いや、寧ろ誕生日だからか。
パッとしない気分なのは苦手な職員会議のせいだけではないことは分かっている。今日は俺の誕生日。また一つ歳をとるというだけでも気後れするというのに、昨年の嬉しかった思い出と今日というこの日の落差にがっかりしている自分がいる。
今日、牧一度も顔見せなかったな。
夕方の校庭を眺めながら、女々しく彼女のことを思う。
俺が彼女のクラス担任を外れてからは、授業か放課後のクラブでしか顔を見ることは無くなっていた。もしくは、牧の方から会いにきてくれるか。今のクラスが楽しいのか、そんなことは滅多になかったが。それでも、今日という日には期待してしまった。御影学級の奴らも、他クラスの奴らも結構な人数が顔を出してくれたが、その中に牧の姿を終ぞ見つけることは無かった。結局こんな時間になり、1日が終わろうとしている。
沈みかける気持ちを植物の世話をして引き上げるためにいつものように畑に行こうとしている。今日はお茶部の日ではないので、きっと牧はいないだろう。もし園芸部員がいてくれたら、少しは気が紛れそうだと思いながら渡り廊下をぼんやりと歩く。
「うわっ!っぶねぇ……!」
「み……!御影、先生!」
ちょうど曲がり角を曲がろうとした時だった。飛び出してきた女子生徒に目を丸くして、ぶつからないように体を仰け反らせる。それから、
「お、おぉ、なんだ牧じゃねぇか」
飛び出してきた生徒の顔を見て、驚きと若干浮き足だった心で、さっきまで考えていた彼女の名前を呼んだ。
「すいません、飛び出して」
「おー。廊下は走るなよ〜。こういうことがあるからな」
おずおずと顔を見上げてくる牧にいつもの調子で、というよりいつもの調子になるように細心の注意を払って応じる。そうしながら、頭の片隅では次の会話の糸口を探している。ただでさえ有り難くない誕生日なのだ。少しくらい楽しい思いをしたってバチは当たらないんじゃないか。そんなことを思った時だった。
「御影先生、今から園芸部に行くんですか?」
なんと、牧の方から質問をしてくれたではないか。
「ん。ちょっと会議で疲れちまって、畑仕事して気分転換して帰ろうかなと」
「そうですか」
どこかほっとしたような声音で、良かった、と零すのを俺は聞き逃さない。
おいおい、なんだよ。
「どうした?なんか話でもあるのか?」
「あ、いえ!そうではなくて……その、私も今から畑行くんで一緒に行きましょう!」
どこか意味深な態度に若干の違和感を感じるが、それがネガティブな類のものなのか、そうでないものなのか測りかねる。それでも、目の前で元気の良い声を出した彼女に、俺も頷いて横を歩き出した。




 


 

 
「御影先生、ちょっと目を瞑ってください」
「え?」
作業予定の植物の前で、急に牧から出された指示に俺は間抜けにもポカンと口を開けた。そんな俺に構うことなく、ほら早くお願いします、と急かしてくる。
「なんでだよ?」
「いいから」
理由を聞こうと何度か尋ねたが、いいから、の一点張りでそれ以上の答えが返ってこない。仕方ないと諦めて素直に従ってみることにした。
「これでいいか?」
「はい、ありがとうございます。じゃあ、失礼しますね」
牧の淡々とした言葉に続いて両手首に熱が触れ、はっとする。
ちょっと待て、手ぇ握られてる!
「ちょ、ちょっ?!牧?!」
吃驚して目を開けかけた俺に、目は閉じといてください!と牧のぴしゃりとした声が飛んでくるので、はい、と思わず姿勢を正した。一体何が始まるんだとしどろもどろになる。そんな俺のことなど無視をして、じゃ行きますよ〜という牧の言葉と共に手首が引っ張られて、導かれるがままに歩を進めた。牧の手の温もりだけが頼りで、俺は一体素直に何をやっているんだという気持ちになってくる。
もうそろそろいいか、と声を掛けかけた時だった。牧の手がゆっくりと離れた代わりに、背中に手が添えられる。
「先生、私が目を開けてくださいって言ったら、開けてくださいね?」
「お、おう」
ドキドキしながらその時を待つ。
「開けてください」
ぽん、と牧の手が俺の背中を優しく叩いた。ゆっくりと目を開けるとそこにはー。
「「御影先生ー!お誕生日おめでとうー!」」
 ガーデンカフェ風に綺麗に飾り付けられたテーブルと、見慣れた面々の笑顔があった。皆嬉しそうに笑いながら、どこか悪戯が成功したかのような満足気な笑みを浮かべている。
「これ……すげぇな、お前ら!」
「皆で準備したんですよ」
園芸部部長の言葉に、その場にいた生徒たちが頷いた。
「ちょ……お前らマジで……やべ、泣けてきた」
「また御影っちが泣こうとしてる〜!」
「うるせぇ。歳取るとなぁ、涙脆くなんだよ!あー!ほんと、サンキュな!」
サプライズで用意されたパーティーの席に、思わず緩む涙腺を堪えるので必死になった俺を可愛い教え子たちが笑った。これが泣かずにいられるかってんだ。
「さぁさぁ、主役はこちらへ」
驚きやら感動やらで、情緒がぶれぶれに揺らいでいる俺を、にっこりと微笑んだ牧が所謂お誕生日席へ案内する。
「どうぞ」
「あ、あぁ。ありがとな」
 引かれた椅子に腰掛ける動作をすると、すっとエスコートされる。
「本日はお誕生日ということで、特別にアフタヌーンティーセットを用意させて頂きました」
「え、あ、はい。ありがとうございます……」
 さすが元一流ホテルマン。洗練された所作と言葉遣いに、思わず馬鹿丁寧に返してしまった。そんな俺に、ふふふ、と牧が笑って、失礼します、という言葉と共にケーキスタンドが置かれる。
「おお!本格的だなぁ!」
「全て生徒から先生へプレゼントです。喫茶アルカードの期間限定スイーツに、アナスタシアのケーキアソート、ひめ椿屋の季節の生菓子……それから、こちらは」
 順に上段から説明していき1番下の段を示して、牧が微笑む。
「園芸部で育てたハーブや野菜を使ったお菓子とサンドイッチです。みんなで愛情を込めて素材から作ったものですので、美味しいと思いますよ」
「お、おう……みんな、本当にありがとう。有り難く頂くよ」
 込み上げてくるものをなんとか堪えて礼を言えば、揶揄うような笑いと、おめでとう!という言葉が口々に返ってきた。こんなに嬉しいことがあるなんて、思ってもみなかった。同時に、御影先生、と慕ってくれる生徒たちに申し訳なく思う。こんな未熟で大人になりきれてない俺なんかのために、こんなにも時間をかけて祝ってくれて。俺はお前らが思っているような立派な大人じゃない。ここ最近の自分を思うと、更にそんな感情が強くなる。
「御影先生?」
「あぁ……すまん。ちょっと感極まってた」
 お茶を淹れようとして、ぼんやりしていた俺に気がついた牧が怪訝そうな顔で声を掛けてきた。返した言葉にもあまり納得しなかったようで暫くじっと俺の顔を見たが、何も言わずにティーカップにお茶を注いでくれた。そして、そっと口を開いた。
「去年の今日、先生にお茶を淹れたのは私だけでしたけど、今年はこんなに盛況になりました」
 他の奴らの思い思いの会話の声に混ざった、俺にだけ聞こえるくらいの声。どうぞ、とカップを俺の前に置いて、牧は続ける。
 「あの頃はまだ、私は1人でいることも多くて、友達の作り方もピンときてなかった。でも、見てください。
 一年経って、友達ができて楽しく高校生活を送らせてもらってます。先生がいてくれたからです。私、今凄く楽しいです」
 ああ、どうして。
「……お前はいつも、欲しい言葉をくれるんだろうな」
 誰かの役に立つなんていう烏滸がましいことはいわなくても、少しでも生徒たちに何かを返せたらと思う。自信が無くなった時、そういう事実があるということを言ってもらえることに、どれだけ勇気づけられることか。
「また泣こうとしてます?」
「ハハハ。そうかもな」
「え、大丈夫ですか」
 揶揄っておいて心配そうな顔をするこの子が、俺はやっぱり。
「いいんだよ、嬉し涙はいくらでも。ありがとうな」
 言葉とは裏腹に笑って見せれば一瞬きょとんとした後、牧もまた笑った。充分だ。俺はこれで、充分。
「御影先生〜!おめでとうございます」
「おお、お前ら!ありがとうな!」
 気がつけば真面目ちゃんを筆頭に、本多、風真、七ツ森が席を移動してきて、空いた席に座った。
「先生、今日の功労者の4人ですよ。テーブルセットや場所の設定を手伝ってくれたんです」
 牧がにこにこと笑って説明してくれる。その向かいで真面目ちゃんもまたにこにこと笑っている。
「そうか。俺のために、本当にありがとうな」
 目を細めて男子たちを見ると、風真と七ツ森は照れたのかふいと視線を逸らした。
「うんうん!すっごく楽しかった!自分の知識を使って誰かに喜んで貰うのって新鮮!俺も嬉しいよ!」
 本多だけはいつもと違わぬテンションだ。全く可愛い奴らめ。
 功労者の面々にどうやって場所を確保したのか、物の調達をどうしたのかといった話を聞いていく中で、これが園芸部とお茶部の文化祭の予行演習でもあったことを知った。場所の許可をとるのにそういう方便を使ったと牧は言っていたが、恐らく園芸部部長の発案だろう。何せ去年の文化祭が終わった直後から、来年はと意気込んでいたから。それがあったから、こんなに良い時間をプレゼントして貰えたと思うと感謝だなと思う。
「牧、ちょっとこれ見て」
「ん、おお!いいじゃん。やっぱ頼んで正解だった。もしお客さん入れるとしたら」
「あぁ、こっち側にテーブル持ってきて……」
 ちゃっかり牧の隣を陣取った七ツ森が、皆との会話の隙間で彼女に話しかけているのが目に入った。スマホを一緒に覗き込んで穏やかに会話している。飲み会とかでよく見るやつ。2人の世界ってやつだ。
「御影先生?」
「ん、あぁ悪い」
 隣に座る真面目ちゃんに声を掛けられてはっとして、なんだっけ、と返すと楽しいお喋りが再開される。意識は牧に向けたまま、俺は生徒たちの言葉に耳を傾ける。
 気持ちはどうしても彼女に向いてしまうけれど、大丈夫だちゃんとコントロールできる。今ある幸せで満足すること。もう充分過ぎるほど、俺はこの子らから貰っている。何より牧が笑って、楽しいと言えているのなら、そこにそれ以上俺の介入する余地はない。例え自分から遠ざかっていって、違う誰かと近づいたとしても。

 

 














「春乃〜!行こっ」
「あ、うん」
 あと2週間ほどで体育祭がやってくる。体育祭は文化祭ほど学校としては大々的なイベントではない。それでも、生徒たちが自主的に集まって当日の練習をすることは自由にさせてくれている。特に2年生が中心になって構成される応援団になったりすると、当日の演舞もあり体育の授業内だけでは準備が足りないというのもある。
「七ツ森くんも、ほら行くよ」
「マジで、いまだに納得いってねー……」
 げんなりした表情の七ツ森くんがノロノロと立ち上がった。
「いい加減諦めなよ」
 そうは言いながらもちょっと気の毒で背中をポンポンと叩いてやる。私の気遣いは、だけどちっとも役に立たなくて、全く気の晴れた様子がない七ツ森くんの口からため息が漏れ出た。
 私と七ツ森くんはひかるに巻き込まれた形で応援団にエントリーしたのだ。お陰でここのところの放課後はずっと練習に駆り出されている。ひかるの主張曰く「絶対楽しいって!思い出になるって!」ということで、私は半ば押し切られる形で、七ツ森くんはもはや強引に名前を入れられていた。
「俺、帰ってやりたいこと色々あるんスけど」
「まぁだ言ってんの、実クン?!しつこ〜い!くら〜い!」
 ひかるのド直球ストレートが七ツ森くんにヒットして、若干のダメージを受けている。面白い。
「まぁまぁ。七ツ森くんの気持ちも分からんでもないけど、今しかできないことじゃん?私も最初はちょっと気後れしたけど、今は参加して良かったと思ってるよ。ていうかそういうマインドに持っていったモン勝ちじゃない?」
「そうだよ〜!楽しいことが目の前にあるのに、やらないの意味わかんない!」
「ひかるさんの楽しいと、俺の楽しいがイコールじゃないってこともあるでしょ……」
 ぶつぶつとボヤく七ツ森くんを見ながら、やり方はどうあれ、きっとひかるは七ツ森クラスの中で外れていく存在にならないように、彼女なりに気を遣っているのだろうなと思う。何せこのクラスときたら。
「お〜い、おっせーぞー!」
「練習始めるよ!」
「今日は途中経過トキスタにアップするんだから、ある程度仕上げないと」
「よっしゃー!はじめんぞー!」
 学年随一のお祭りクラスで、クラスの半数以上が応援団に参加しているのだから。




 *



 

「お疲れ〜」 
「うぃ〜!」
「花椿さん、動画よろしく!」
 こちらに向かって手を振ってくるクラスメイトに、ひかるが親指を立てて応える。そんな様子を横目に七ツ森くんと地べたに座り込んで足を放り出した。
「あー疲れた」
「いやぁでも、楽しいね?」
 七ツ森くんのを見て同意を求めれば、まぁ、とそっぽを向いてしまったが、途中から結構楽しんでいたことを私は知っている。
「ひかるを差し置いて、イイ感じになってる〜!」
 私の横に座って抱きついてきたひかるに、ちょっと汗かいてるから!と返すと、気にしないもーん、と更にくっついてきた。まったくこの子は。
「それよりさ、ちょっと見て。動画編集したんだけど」
「はやっ!さすが、インフルエンサー」
「まぁ簡単にだけどね。クラスの記録用アカだしさ」
 私を挟んだ2人の会話を聞きながら、今時の高校生ってすごいなぁと感じ入る。私が10代の頃なんて、フィルム写真だった。まぁこんな思い出はないわけだけれど。
「これこれ」
 私の前にひかるがスマホの画面をだして、七ツ森くんが横から画面を覗き込んだ。スマホから音楽が流れ出して、動画内では入れ替わり立ち替わりクラスメイトが踊っていく。
 演舞とはいってもダンスの組み合わせを上手くまとめた感じだ。曲を持ち寄って各々が踊りたい曲ごとに集まってグループを編成している。クラスメイトでそういうことが得意な子が、曲の山場を上手く繋げてダンス用に作ってくれた。振り付けは勿論ひかるだ。そのグループのメンバーと曲の雰囲気に合った振りを考えてくれた。ひかるが考えた振り付けは踊りやすく、指示も的確て、正直振り付け師として食べていけるのではと思うくらいの腕前だった。これを残さないなんて勿体なさ過ぎるからSNSに記録を残すのは大賛成だ。
「え、すげーいいじゃん……」
「でっしょ〜?」
「歌ってみたはSNS上げたことあったけど、ダンスは新鮮。表現として」
「実クン、手足長いからダンス映えするし、踊らないなんて勿体ないよ!」
「確かに。俺、振り覚えんのも割と早いっぽいし」
 繰り広げられる“今時の若者トーク”をぼんやり聞いていたら、ねぇ、と七ツ森くんから肩を小突かれた。
「アンタはどう思う?」
 七ツ森くんが顔を覗き込むようにして笑って、俺のダンス、と付け加えた。おい、顔面が凶器なんだが。
「格好いいと……思い、マス」
「ハハ、なんで敬語?おもしろーい」
 明らかに揶揄われていることを理解して肩を小突き返したら、いって、と言って笑って更に小突き返してきた。
「ねぇねぇ、あのさぁ、ずっと気になってたんだけどぉ」
 ひかるの声に横を向くと、ニマニマと笑った顔と目が合った。
「2人ってさぁ、付き合ってるの?」
 その言葉に吃驚して固まる。
「……は?」
 遅れて七ツ森くんが反応して、私も我にかえった。
「ないない、ねぇ七ツ森くん」
「うん、ないない」
 冷静な私たちの返しに、ひかるが顔をくしゃっと歪ませる。
「えー!つまんなぁい!付き合えばいいじゃん、仲良いんだからさぁ!お似合いだよ、実クンと春乃!」
「ちょっ……!声でかい!」
「ひかる!」
 ひかるの大きな声に焦って、七ツ森くんと私が慌てて制止する。私にとっても七ツ森くんにとっても、要らぬ噂でも立てられたら困ってしまう。そうなっても、ひかるはまだ引き下がるつもりはないらしく、「じゃあなんでそんなに仲良いの」と食い下がってきた。
「なんでって……七ツ森くんは、なんていうか……弟みがあるというか……上手く言えないんだけど……」
 確かにそう言われてみれば、今や一番よく話す男の子といえば七ツ森くんだ。自分の中にある感情を探り探り口にしてみれば、横で七ツ森くんもポンと手を打った。
「あ、でも分かるわ、それ。俺はアンタに姉貴みを感じる」
 納得したように頷く七ツ森くんに、そりゃそうだ、君のお姉さんと精神年齢は多分同じくらいだからね、とは口が裂けても言えない。
「え〜?分かんない、どういうこと?」
「どういうことだろう?私もよく分かんない」
「ま、そういうこともあるってことで。ひかるさんは邪推しないでね」
 最後に七ツ森くんに釘を刺されたひかるは、はぁい、とつまらなさそうに口を尖らせた。
 
 
 
  
 


 続