ダンスの隙間で(3/4)


いつからだったか。
行き詰まりを感じ始めたのは。

「1度しかやんないからね」

男性特有のゴツゴツとした身体を、私の華奢な腕が支える。

一気に滑り出して導いていく。
まずは基本のステップから。
徐々に変則的に、少しずつつトップへ向けて加速していく。


「…もっ…!やめてくれ!」

支えていた腕が解けて、私と弟との間に距離ができる。

わかったから…!

弟が歯を食いしばる音が聞こえた。


私と弟の実力は明らかに釣り合っていない。
この子のリードじゃ、今の私にはもう。
でも、この子をこんなふうにしてしまったのは、他でもない私なんだ。

置いて、行けるわけないじゃん。





「…ケンカァ?」
「やだ、見てた?」

足音荒く去っていった弟と入れ替わりで、いつもの荒北くんがひょっこりと顔を見せた。
片頬を掌で覆って首を傾げて見せると、キモチ悪ィ、と冷たい一言が飛んでくる。

「女の子にキモチワリィとは何事よ」

タタンといつものお遊びのステップを踏む。
私は目が良い。
幼い頃から片っ端から見たミュージカル映画のそのリズムは、もはや私の一部だ。
今日はあの、どんよりとした曇り空の下でバレエを踊る男の子が素敵な映画の、力強いタップ。

「アイツさァ、お前の弟だろ」
「んー、」

そだよっ、と区切りの良いところで足を止める。

この空気感好きだったんだけどな。

多分、誰かが彼に言ったんだろう。
ダンサーなのかと聞かれた時点で、そろそろかなとは思っていた。
きっと荒北くんも、私の間に距離を置くだろう。
皆そうだ。
勝手に私を特別に仕立てて、離れていく。
実の弟でさえそうなのだから。

「…見た。お前と弟のダンス。あの何とか杯っての」

一時期クラスで出回っていた動画だ。
思えばあの大会だ。
限界を迎えて、私があの子を傷つけてしまったのは。

嫌な話題だな、と思う。
正直あまり話したくない。

「あー…イヤ、見たこと黙っとくのも、なンかヤな感じかと思って言っただけだからァ」

私の表情を下からみて、ガシガシと頭を掻きながら言いにくそうにしている。
次に続く言葉はなんだろう。
称賛か、畏怖の言葉か、比較して卑屈になった末の自己卑下か。
そのどれもが、私を拒絶する言葉だ。
私は身構える。
やっと人として好きな人間に出会えたというのに。

一生懸命言葉を探しているような素振りの後、諦めたのかハッ!と大きく息をついた。

「お前は俺にとって、ただの映画とダンス好きな変な女以外の何でもねェ!
だから、俺はお前をトクベツ扱いしねェ!わァったなァ!」

こちらに向けられた焼きそばパンの先端をただ眺める。

まさかそんな言葉がくるとは。
やっぱりキミは、私の想像の上をいく男だ、荒北くんよ。


「てめっ!ボケっとしてんじゃねェよ!なんとか言えっ…ダァ?!」

思いっきりその手を握って、焼きそばパンに齧り付いてやる。

「おまッ!ナニしてくれてんだァ!!」

こンのボケナスがァ!離せッ、オイッ!と、小さな目を見開いて必死な形相で私から焼きそばパンを奪い返そうとしてくる荒北くんが私は大好きだ。

キミがどれだけ私を勇気付けているのか、キミをはきっと少しも知らない。


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