07
「こらー!歩けっつってんでしょうが!」
「ごめんなさぁい」
「分かればよぉし!
さっさと続きやっちゃいな。分かんないとこは言って」
「はぁい」
小さな机に幾人のかの子どもたちが、それぞれの学習道具を広げている。
「名前」
「おっ一護じゃん。いらっしゃい」
「氷1つ」
「味はー?」
「苺」
「はーい」
客に呼ばれて店先にでる名前の額にうっすらと汗が滲む。
今年もまた暑い夏がおとずれて、蝉の声がうるさい。
「はい、お待たせ」
「お、サンキュ」
美味しそうに口元に氷を運ぶ、オレンジ頭の高校生の顔を見る。
「一護が苺味の氷…」
「うるせぇよ」
クックと笑う名前にすかさず文句を言う一護は、妹経由で松屋に来るようになった新しいお客さん。
「妹達は?」
「今日は親父とプールに行った」
「へぇ。いいね、プール」
私も行きたいな。
顎に垂れる汗を手の甲で拭って、眩しい笑顔を作る名前を一護が見上げる。
「お前、大学生なんだろ」
「そうよ。だから、家庭教師もできるってわけ」
名前が後ろを親指で指す。
「大変だな、夏休みも遊ばずに…。
ていうか、大学行きながらどうやって店できんだよ」
「そりゃあ…」
「努力・友情・愛っスかね」
緩い声が名前の言葉の後を継いだ。
「う、浦原さん!」
「…なんでアンタがここにいんだよ」
驚いて目を見開く名前と、訝しげな一護の視線が喜助に集まる。
「アレ、アタシここで黒崎サンに会ったことなかったでしたっけ」
「ねぇよ」
今にも舌打ちしそうな一護の不機嫌そうな声の横で、今度は名前が訝しげな顔をする。
「ていうか、待って、2人は知り合いなの?」
「ウチの店の常連さんなんスよぉ、ね、黒崎さん?」
一護がなにか言う前に、喜助が答える。
「あ、あぁ、まぁそんなとこだ」
「へぇ」
同意する一護を見て、名前は物珍しそうに2人を見比べた。
「なんだよ」
「いや、なんか、合わない2人だなって」
名前が一護の顔を見てニヤニヤと笑う。
「やだなぁ、名前サン。こう見えてアタシたち仲良しなんスよ」
「仲良し…んなんじゃねぇよ」
「えぇ!ひどい、黒崎さん!深い仲だと思ってたのは、アタシだけなんスか?!」
「うるせぇよ」
変なこと言うな!
厳しめのツッコミをいれる一護を見て、名前が声を上げて笑う。
「名前ねぇちゃーん、わかんないよぉ」
「はいはーい、今行くよ。
じゃ、ごめんね、ちょっと奥に入るから、喜助さん店少しお願いできる?」
「ハイハイ、いってらっしゃい」
パタパタと子ども達の元へ行く名前の後ろ姿を、喜助と一護が見送る。
「…で?」
「へ?」
「へ、じゃねぇ。名前とはどういう関係なんだよ」
「どうって…」
喜助は扇子で思わず口元を隠す。
関わった人間全てを抱え込もうとする一護のこういう所を、喜助自身頼りにしているところもあるが、正直面倒に感じることもある。
自分にも知りえないことがあると気づけばいいのに、と。
「…秘密の関係?」
「なんだそりゃ。意味わかんねぇ」
ちょっと意地悪な返答だと分かっているが、喜助としてはそれ以上言うつもりはない。
「俺が聞きてぇのは」
「危ないことに関わってるのかってことでしょう。
それはないっスよ。あの子はなにも知らない」
一護の言葉を遮って喜助が立ち上がった。
「オイ、浦原さ」
「それより、黒崎サン」
尚も追求しようとする一護を遮って、喜助の目が一護を捉える。
「アタシの名前サンといつの間に呼び捨てで呼ぶような仲になったんスか!
油断も隙もあったもんじゃないっスね!」
「アタシのってなんだよ!アンタのもんじゃねぇだろ!」
「アタシの名前サンに変な虫がついた!」
「だぁから、アンタのじゃねぇだろ!あいつ彼氏いねぇって」
「そんなことまでリサーチ済っスか!おーこわっ!」
「…っつ…!う、るせぇ!」
言葉に詰まった一護は、溶け出しているかき氷をかき込んで帰って行ってしまった。
喜助は勝ったといわんばかりの顔で扇子で自分を煽いで、すだれの日陰にある椅子に腰掛ける。
チラッと後ろを見て、忙しなく動く名前の動きを目で追った。
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