銀河鉄道の夜
08

誰もいない不思議な駅舎を出る。
この駅には駅員さんが誰もいないらしかった。

それだけじゃない。

先程そろそろと降りていった沢山の乗客たちも、どこへ消えてしまったのか姿が見当たらなかった。

辺りはほのかに紫色の電燈に照られて、しゅーっという汽車の吐息のような音だけが聞こえる。

駅舎を出てみると、大きな広場があった。
大きな銀杏の木にくるりと囲まれている。
白い一本道が真っ直ぐに青くぼんやりと光っている銀河の中に、一本の架け橋のようにすぅっと伸びて遠くその先は溶けたように曖昧だ。

ボクらはその真っ直ぐに続く白い道を、吸い込まれるように歩いて行った。

「あ、見て」

苗字サンが小さく叫んで指を指して、ボクもその方向を見る。
そこには列車から見えていたものと同じ、水なのか銀河の星屑なのか分からない、不思議な液体が流れる川が銀色にチカチカと輝いていた。
近寄ってみると河原が見えてきて、散らばった小石もそれぞれがピカピカキラキラと輝いて主張している。

ボクらは河原に降り立ち、それぞれに小石を手に取って眺めた。
自分の掌で不思議な輝きを放つ石をじぃっと見ると、透き通る綺麗な石の中に陽炎のように青い霧がゆらりゆらりと揺らめいている。
もうひとつ別の石を拾えば、一見黄色に輝いていたように見えたその石は、まるでスノードームの中を粉が舞うように、散り散りになった黄金の星屑がふわふわと漂っているのだった。

「御堂筋くん、これね、水晶だよ」

見て、中で小さな火が燃えているから、と苗字サンがいい、ボクは差し出されたその手の中を覗き込んだ。
確かにその小さな炎はほのかに輝いて、彼女の掌に小さいけれど、立派な影を落としていた。

「こっちは黄玉トパーズやわ」

どないなっとんねん、と言いながら、アキラくんが黄色くぼんやり光るその玉を持ち上げた。
ぱきん、と音がしたかと思うと、それは黄色い粒になってキラキラとアキラくんの指から落ちていった。
ボクと苗字サンはその粒がどこからか吹いてくる風に流れて、不思議な川へそっと落ちて沈んでいくのを見つめた。
ボクはなぜだが気持ちが良くなって、苗字サンも同じだったのか、もう一回もう一回とアキラくんにせがんでいる。
アキラくんは面倒そうに辺りからまたあの黄色い玉を拾って、自分でしィ、と苗字サンに投げてよこした。
ボクも慌てて辺りを見渡すが、最も簡単にアキラくんが見つける黄色いその素敵な石を、ボクは見つけることができない。

「ひゃー!それは珍しいねぇ!」

突然の高い声にびっくりしてボクは尻餅をついてしまった。
そんなボクに見向きもせず、声の主はズンズンとアキラくんと苗字サンの方へ歩いて行った。
長靴がぼふぼふと力の抜ける音を出している。
彼は軍手を外すとメガネの縁を持って、さらによく見ようと苗字サンの掌を覗き込んだ。
突然の人物の登場に、アキラくんも苗字サンも驚いて固まっている。

「お、お前…」

アキラくんがやっと言葉を発して、止まっていた時間が流れ出した。

「どっひゃー!これは、すみません!
只今、この辺りの地質調査をしているところでして!」

急に現れたかと思いきや、何度も何度もアキラくんに向かって勢いよく頭を下げ始めた。
まだ誰かが何かをいう前にその人物が、あ!、と大きな声をあげる。

「まずは名を名乗れってことですよね!
ボク、小野田と言います。小野田坂道」

彼は聞いてもいないのに、自分がやっていることについて瞳を輝かせて話し始めた。
この場所がいつからあるのかを証明するために発掘調査をしていること、牛の化石や胡桃の殻なんかがその証明となること、河原に散らばる様々な鉱石の種類も大事な資料になること。

「貴方は鉱石研究家なんだす…ですか?!」
「ハァ?」

勢いのまま小野田坂道が放った素っ頓狂な質問は、アキラくんの訝しげな表情に阻まれる。

「あれ?違いましたか?実に見事な手際で珍しい黄玉トパーズを見つけていたのでてっきり研究者仲間かと…。
実は最近鉱石の魅力にボクもハマりましてですね、あの儚げな輝き、ひとつの石が持つ歴史、いやぁ奥深いですよねぇ!」

一体いつ息を吸っているんだろうというくらい、早口に捲し立てる彼をボクと苗字サンは唖然と見つめる。

「サカミチィ、キミィはどこにおってもそうなん?」
「ひゃい?」

じっとりと目を細めたアキラくんの視線に怯むこともなく、小野田坂道は首を傾げた。

「小野田さーん!」

遠くから彼の名を呼ぶ声が聞こえ、その方向を見ると5、6人の人影が見えた。
これどうしますー?捨てていいっすかー?、と続き、彼が、いやいやいや!待って!今行くからそっとしておいてね!と、また甲高い声を張り上げる。

「それでは!お会いできて嬉しかったです!」

にっこりと最後に微笑むと、小野田坂道は慌てて走って行ってしまった。

「ボクゥらも行こか」

そろそろ時間や、と上品な懐中時計をパチンと閉じてアキラくんが言う。

ボクらは元来た道を辿って、あの美しい列車へ再度戻ることにした。

fin
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