銀河鉄道の夜
09

急いで走って汽車へ戻って、車窓から走ってきた道を眺めていた。
ゆっくりと列車は走り出す。
アキラくんをちらりと見ると、遠い目をして正面の時計を見ていた。
その表情から心情は読み取れない。

「ここ、いいかな?」

軽やかでどこか楽しげな声が後ろから聞こえて、ボクらは振り向いた。

くたびれた茶色の外套に、白い布で包んだ荷物を二つに分けて肩に掛けた若い男が笑っている。
透き通る蒼い髪が時折車窓から差し込む星灯りに、きらりきらりと光った。
その瞳は明け方の沈んでいく夜空のように、しっとりと濡れている。

「どうぞ」

その不思議な青年をぽかんと見つめるボクの横で、苗字サンが微笑んでアキラくんの隣の席へ促した。
やぁどうも、と軽い調子で言うと青年は荷物をゆっくりと網棚に乗せて、アキラくんの隣に腰掛けた。
蒼い髪のその青年は窓の外を見ているアキラくんにチラリと視線をやると、どこか懐かしそうにくすくすと笑った。

「オレね、真波山岳。皆マナミって呼ぶ。キミたち名前は?」

マナミ サンガクがにこりと笑う。

「ボクは、御堂筋翔」
「私、苗字名前」

おかしな距離感のマナミに、ボクは緊張しながら答えた。
苗字サンは特に違和感を感じていないようだ。

「キミは?」
「…」

隣に座るアキラくんにマナミが声を掛けるが無視すると決めたのか、アキラくんは頑なに窓の外から視線を逸らさない。
マナミは諦めたのか、それ以上何も言わずボクらに向き合った。

「キミたちはどこまで行くの?」

マナミは楽しそうに笑いながら首を傾げた。

「どこ…だろう?」
「…行けるところまで?」

ボクと苗字サンは顔を見合わせる。

「ハハハ!それはいいね。実際、この列車はどこまでも行くと思うから」

マナミはひとしきり笑ったあと、ね、燈台守さん、といつの間にか通路を挟んで隣に座っていた船長制帽を被った男の人に声を掛けた。

「そう呼ぶなと言っているだろう、真波!
呼ぶなら海神と呼べ、海神と!」

やたらと騒がしいその男は、大きな鍵の束をまとめている輪っかをクルクルと回した。

「えーだから嫌ですよ、海神なんて仰々しい。
この人はね、燈台守の東堂さん」
「むぅ。よろしくな」

東堂サンは制帽を上げてゆったりと微笑む。
燈台守なんていうと孤独にくたびれ果てた冴えない男を想像するが、彼は違った。
身なりからして船長のようで何よりもそこはかとない自信が漲っているが、涼しげな目元が時折いたずらっぽく歪む様子が、不思議な幼さを醸し出している。

「東堂さんはね、今から赴任先の燈台へ行くんだよ。
小熊座の停車場で降りるんでしたっけ?」
「あぁ。停車場から数マイル行くと燈台があるんだ。
本数の多い航路があるからな。腕が鳴る」

迷わず行けるように導いてやるんだよ、と言って静かに東堂さんが笑う。
その顔はどこか厳かな雰囲気があって、ボクの頭は混乱する。
この人は大人なのか、子供なのか、よく分からない。
おずおずとその横顔を盗み見るようにして眺めていると、視線だけでこちらを見た東堂さんと視線が合ってボクは慌てて目を逸らした。

fin
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