となりの、荒北くん



また寝てる…。

荒北くんと隣の席になるのはこれで何度目だろうか。
隣の席の荒北くんは授業中いつも寝ている。
特にこの席に移ってから彼が起きているところをほぼ見た事がない。
一番うしろの窓際の席。
確かに寝てしまいたくなる気持ちもわかるけど。
こっそり教科書の隅に寝ている荒北くんと、起きている時の無愛想な荒北くんの顔を落書きしてみる。
お、我ながら似ている。


「おーい、苗字。荒北起こしてくれ」


もはや先生もいちいち自分で起こさなくなってしまった。
やだなぁ荒北くん顔が怖いから苦手だ、と思いながらも先生に言われたので渋々声をかける。

「荒北くん…」

小声で呼びかけるがピクリともせず、すやすやと健やかな寝息をたてて寝ている。
数回呼びかけても効果がないので、ちょんちょんとつついてみる。
このやりとりも何度しただろうか。

「うぅ…ん…?」

伏せていた腕から、目だけを覗かせて荒北くんが不機嫌そうな声を出した。

「先生が、起きろって言ってるよ」
「あァー…ゴメンネ」

のそのそと起き上がって大きく伸びしながら、くあっと欠伸をする。

「やべ、教科書がねェ」

ワリィ見してくんね、と頭を下げて机を近づけてくる。
仕方ないなと思いながら、2人の間に教科書を広げて見せた。

「おまえ、コレ…」
「ん?」

荒北くんがじっと1箇所を見ているのを見て、全てを悟る。

「ご、ごめ…!これは、その…」

しどろもどろになりながら、慌てて落書きを手で押さえた。
ポカンとした顔から、ニヤけた顔に変わっていく。

「もっかい見せてヨ」
「やだ、ダメ」
「いいからァ」
「イヤだってば」

荒北くんから教科書を引ったくって慌てて消しゴムで乱暴に消す。

「あ!てめ、消しやがったな…!」

再度教科書をひろげると、覗き込んだ荒北くんから文句が飛んでくるが知らないフリをした。

「さっきのアレ、俺?」
「違うよ」
「いや、俺だヨ、ぜってぇそう」
「違うってば」

「コラ!うるさいぞ、そこ2人!!」

ずっと小声でやりとりをしていたが、教室には結構その話し声は響く。
業を煮やした先生から怒鳴られて肩を竦める。

「さぁせん」「すいません…」

しれっと窓の外を見ながら言葉だけで謝る荒北くんを私は睨むが、なんの効果もない。





隣の席の苗字さんは、荒北と仲が良い。
今だって2人でコソコソと仲良さそうに話しているところを先生に注意されていた。

実は俺は苗字さんのことが気になっている。

席が隣になって、やった、なんて喜んでいたら、その隣の席の荒北に全部もっていかれてしまった。

そして多分苗字さんは荒北のことが好きだ。
なんでなんだ、あんな元ヤンのどこがいいんだ、苗字さん。

荒北もそれを分かっているんだと思う。
満更でもないのは、荒北も少なからず彼女に想いがあるということなのだろう。
席が毎度隣になるのだって、あれは絶対確信犯だ。
じゃなきゃ高確率で何度も苗字さんの隣になんてなるわけない。

でも俺にもまだのぞみはある。
あんなに距離感近い2人もまだ付き合っていないらしい。
人の彼女でもなんでもないんだ、俺だって何をしたっていいはず。

「ねぇ、苗字さ「苗字、消しゴム貸して」

荒北が苗字さんの制服の袖を引っ張って、苗字さんの身体が傾いた。
なんでそんな忘れ物多いの?と言いながら消しゴムを探す苗字さん越しに目が合う。

めちゃめちゃガン飛ばしてきてるんですけど、こわっ!

「はい、ちゃんと返してね」
「おー、あんがとネ」

苗字さんの視線が戻ってくると、いつも彼女へ向ける柔らかい眼差しにサッと切り替わる。


くっそ。
勝てる気がしない。
でも俺は諦めない!
荒北なんかに負けてたまるものか!




だァれが渡すか、バァカ。

苗字の向こう側の席の、あまり仲良くないクラスメイトの男を睨めつける。
すぐに怯んで視線を逸らすあたり大した相手じゃないということは明白だ。
アイツが今回の席替で苗字の隣になれて浮かれていたことを俺は知っている。

チィッ…チョロチョロしやがって…。

隙きあらば苗字に話しかけようとするのを、阻止するのが最近の俺の日課になりつつある。

いい加減諦めろっつーの、と再度舌打ちをすると、荒北くん問題ちゃんと問いてる?と苗字が声を掛けてきた。
んァどこだっけ?と聞くと、もーちゃんと授業聞かないと、と言いながら渋々今やっているところを指差して教えてくれるあたり、苗字は優しい。

さっきの落書きの後を眺めて、口元が緩む。

絶対アレ、俺だったよネ。可愛いことするじゃナァイ。

「消しゴム、あんがと。名前チャン」
「なっ…!なに、急に、名前…!」

机をくっつけた距離だから、近づけばすぐそこに体温がある。
その距離でこっそり話しかければ、みるみる彼女の顔が上気していく。
もう、からかって!バカ!、と苦しい悪態をついて、彼女が再度ノートに向き合うのを見て俺はクツクツと喉を鳴らして笑った。
ついでに、羨ましそうにこちらをみている苗字の隣の席の男にも、笑みを飛ばしてやる。
まぁ、俺が優位に立てるなら、こういう状況も悪くねェな、なんて意地の悪いことを思いながら。

fin
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