09:答えを急かした

2021/02/22

#1


@家族に捨てられたから。

Aダンガンロンパのキャストになりたいから。

Bそもそも楽器職人なんて職業無い。

C指名手配されたから。

D元々ゲームに参加するはずだったのに逃げ出し、連れ戻された。

E愛のパワーでコロシアイを終わらせるため。

Fそもそも楽器なんて物無い。

G借金の担保にされたから。

H本当は世界的に有名な楽器職人なのに、それを忘れている。

I希望は前へ進むから。

J模擬刀の先制攻撃だから。

Kドビュッシーの『月の光』とか、ああいうキレイな曲がぴったりだと思うんだ。

L私は信じてるから! だから、キミも自分を信じてあげ


「やめてっ!!」

喉がじんと痛んだ事で、それが自分の叫び声だったのだと自覚した。
何を思って叫んだのか、叫ぶまで自分でも分からなかった。けれど、混乱でいっぱいの頭の中に最原さんの顔が浮かんで、それから赤松楓さんの優しい笑顔も浮かんだ。

私は視聴者と同じく、このコロシアイゲームの参加者たちがどういう経緯で、あの人格を手に入れたか知っていて。彼らと人間同士のように関わりながらも、どこか"作り物"だと距離を取っていた。

だけど、バカにされて悔しい、という気持ちが、その距離を覆していく。

彼らは、居る。ここに居る。

自分の夢の為に、ちょっとアングラなコンテンツに踏み込んで、それを横目に自分は自分の事を頑張る。それくらいの事だと思っていた。
そうしていれば、コロシアイの中でも自分の魂は汚れないのだと信じていたのだ。
だってこれは娯楽。エンターテインメント。反戦争だとか遠い国の食料問題だとか、そういう道徳とは地続きじゃないんだよ。

なのに、もう、冷めた目で見られないのはどうして?
卒業と共に途切れちゃう友人と同じように、忘れていってしまえばいいのに。どうして。

「どうして……"作り物"なのに、こんなに報われてほしいと、思っちゃうの……?」

カメラの存在も忘れて、そう声に出していた。
俯いた視界の隅で、モノクマが可笑しそうに私たちの動向を見守っている。
クイズなんてどうでもいい。そもそも13択ってなんだ。トトカルチョのつもりだろうか。いやそれならば13は選択する数であって、選択肢の数じゃない。
……あーもう、本当の役目って何なの?
どうして、自分自身の事なのに分からないの?
どうして、私の心の中までコンテンツにされなくちゃいけないの?
……思い浮かんだ怒りは全て、最原さん達が感じている物と同じかもしれなかった。

「作り物だからこそ、じゃないかな」

琴都の言葉に、私は顔を上げる。何故だか溜まっていた涙が、その拍子にこぼれた。

「わたしたちは、美しく作られた楽器に憧れてきた。だからこそ、本気の想いで作り上げられた彼らの心に、恋をしちゃうんだよ」

……あの記憶を設定した、大元の発案者の事など知る由もない。
が、作り手の情熱を想像する事は、同じく作り手である私たちにとっては、日々の営みと言えた。

だからもう、この気持ちが恋であると分別するのは簡単なんだ。
だけど、そうだとしたら、私はもっと辛くなる。

「紗如、コメントはわたしが止めるから。好きなものを諦めないで」

「そんなの、出来ない! 出来たって意味無い……! だってコメントが無くなったって、想いは消えないもん。私は、みんなが好きになるものを、好きになりたくない。わざと人気の無いものを選んで、それを好きになりたいのに……」

どうして、最原さんなの。
そう、頭の中で名前を呼ぶ。
それだけで、息が詰まるほど胸が苦しくて、嫌だ、と首を振る。

意を決して、私は出口の方へ走り出した。

「やっぱり、もう、外に帰ります! だって、私なんて可愛くないし、代わりなんていくらでも居るし、腕だってもう無いし、だから帰ってもいいんでしょ……? なら今すぐ、外へ帰してくださいっ」

そう言って手を掛けた引き戸は、ビクともしなかった。

「だから言ってるじゃん〜。オマエラの本当の役目はなんだろな??????ってさぁ。うぷぷ。因みに、視聴者のみなさまが正解してくれるまで、その扉が開くことはありませーん!」

「なんで……っ、だってこの前、私に、外に帰っていいって言ったじゃないですか」

「アッハハハ! あんな10代のかまちょ自己陶酔破滅願望ムーブなんて上手く行くワケないじゃん! ……え? ホントに帰りたかったの? そんなワケ無いよね? 腕を失ったという不幸を乗り越える努力がめんどくさかったから、"可哀想な紗如ちゃん"として破滅したかったんでしょ? 誰かが止めに来てくれるのを待ってたんでしょ? え? 違うの? まさかね?」

「うっ、うぅぅっ、うぅぅぅぁぁ……!!」

うるさい、とただ一言が言葉に出来なくて、私は頭をぐしゃぐしゃと掻きむしる。
合歓が私を庇おうと何か怒鳴るが、それは誰にも届かずにただ残響として消えた。

……努力出来ない自分のための、破滅。
モノクマに言われた言葉が、個人の悪意を超えて、世界からの苛みのように襲って来た。

「はいは〜い! では1回目の回答の集計が終わりましたので、発表します! さて、視聴者のみなさまはどの回答を選択したのでしょうか!? 答えをオープン!!」

ルトラが手にしたままのタブレット端末から、デデンッと仰々しい効果音が聞こえる。

「うぷぷぷぷ……! なんと、79.9%の視聴者の方が、Bの、そもそも楽器職人なんて職業無い。を選択なさいました! いや〜、みなさま人が悪いですねぇ。外の世界のみなさまには、こんな真偽簡単に確かめられるのに……あー、ほらほら、譜字平さんがとっても不安そうな顔になっちゃいましたよ〜」

うっ、と吐き気を堪える。
記憶が薬で消えたのなら、それは効果時間中の記憶だけではないのだろうか。
過去に遡って記憶を植え付けるなど、錠剤でも可能な事なのか、私には分からない。
少なくとも、私の常識では、記憶を消したり植え付けたり出来るのは、ライトだけだ。
けれど、そもそも、世の中の便利な道具のほとんどは、仕組みを知らないまま使われている。
私には、当たり前に使っているライトの機能ですら、うまく説明できない。

もし、私の記憶がまるっと書き換えられているとしたら、楽器職人とは……? 私の夢とは……?
ううん。そもそも私は、本当に私?
もしかして最原さん達と同じく、全てがフィクションの存在なの?
こんなにはっきりと、幼少からの記憶があるのに、足元が崩れそうに感じられる。

「答えは…………ざんねーん! 不正解です! 意外や意外! 楽器職人は存在したんですね〜。うぷ、うぷぷぷぷ」

そう宣言されようとも、私たちは一息だってつけない。
ひとまず、楽器職人という職業は存在する。そんな常識を取り戻したところで、残る選択肢の中に救いなど無いではないか。

「ではでは、また2時間後の回答チャンスで頑張ってくださーい! それじゃあおまけコーナーは一旦これくらいにして、メインのコロシアイゲームに戻りましょう! ……おやおや、モノクマーズがプレゼントした"動機ビデオ"について、みんなで話し合うみたいですね〜。うぷぷ、ドキドキワクワク会議中の食堂に注目でーす!」

そう言ってモノクマは、ルトラの持つタブレット端末を引っ手繰って去って行った。

「……何だったんだよ、クソ」

合歓は腰が抜けたように座り込む。
それに返事をしたのは私だけだった。

「わかん、ない……」

そして、13個の選択肢に対して、回答権が12回、という馬鹿げたルールに意味があると察するのに、時間は掛からなかった。


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