「ただいま帰りましたー…ん…お母さん?…お買い物かにゃ…」
大学から帰宅した僕はいつものようにお母さんに顔を見せようとリビングに行ったが、僕の発した声のみで部屋の中では音がしない。
夕飯の為に買い出しだろうか、と首を傾げてソファに腰掛けようとした所に、微かに唸り声のようなものが聞こえた気がして。両親が居なければ声を上げるのは恐らく主人だろう…機嫌が悪いのだろうか両親が居ないうちに殴らせて機嫌を取ろう、2人に危害が及んでは大変だと主人への部屋の前に行けば、トントンとノックをする、返事がないのはいつもの事なので気にせずに邪魔にならぬよう静かに扉を開いた。
いつもならば彼は机に向かって薬を作ったりしていたのだが…今日の彼は腹部から溢れる赤い液体を必死に抑えて床に横たわっていた。
カーペットにも赤い液は染み込み、傍らには何者かが持ってきたのだろうかこの家では見た事のないポケットナイフが転がっていて、そんな光景をきょとんと見ている僕を睨みつけながら彼は力強く声を発した。
「何、やってんだ…っゔ…ぐ…さ、っさと!救急車ぁ…呼べよ…!」
痛みからか威勢はいいものの、途切れ途切れに掠れた声で命令を受けた
誰がこんな事をしたんだろう、どうでもいいけど。
不思議と急いで従おうと思わない、殴る事など今の彼には出来ないだろうからか。
救急車…と少し考えた僕は
「はぁ…づっ…っ!…お前ふざけ、っ…あ゙ぁぁっ!!ぐ…ぁ…は、っ…」
傍らにあったナイフをなんとなく拾って、なんとなく、誰かに刺された腹をもう1回もう1回もう1回もう1回
「ふ…ぅ…っ…づ…う…奴隷、のくせにっ…ク、ソ猫ッ…がっ…俺に逆ら…図に乗る、なァッ…!!」
「ご主人様が…辛そう、だったから。」
まぁ、嘘だけど
「もう見てられにゃかったん、です」
嘘だけど
「僕に出来るのは…ご主人様を楽にしてあげる事、だけ…ごめんにゃさい…」
嘘
「ご主人様……にゃぐられたりもしたけど…大切な人だったんだよ、お母さん達は大切にゃ人だから…僕、守りたいの。」
あぁ…これは………
嘘じゃないかもなぁ
「お帰りにゃさい。」
「スール…?貴方…その血どうしたの?何が…!」
玄関の扉が開くと同時に聞こえた母の声に男の部屋を出ては迎える、真っ赤に染まった僕を見ては目を見開いて、母は慌てて駆け寄り腕を優しく掴んだけど僕の片手に握られた輝くものを見降ろしては慌てて男の部屋に入る。
ぼんやりとその様子を見ていれば、振り返った母の目には涙が浮かんでいて、瞳がキラキラと光っていた。
「出て、行って。」
息苦しげに絞り出すように、母はそう告げた。
「出て行って!私達は貴方に…操偶の猫として、操偶のストレス発散の為に私達が苦しまなくて済むように、買ったのよ。貴方にもそうするように命令をした筈よね?息子を殺して欲しいなんて頼んでないわよ!!」
「…でも、これで…」
「貴方なんかより、よっぽど!よっぽど!息子がどんな子であれ生きてる方が幸せよ!!」
あぁ…
僕ってもしかして、…
この女にとって大切なのはあの男で…僕は結局、あの女が息子を好きでいる為の盾でしかなくて。
この家に来てすぐ言われた言葉…、息子に逆らわなければ、人として家族の1人として扱う。
その言葉通りだった、彼に逆らった僕はもう要らない。
ならば、前言撤回だ。
やっぱり嘘。
こんな女大切なんかじゃない、あの男もだ。
僕が生きていく上で邪魔なだけ。
そうだ、あの男はもう死んだ。
この女ももう不必要だ。
捨てるものをまとめておこう。
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父の帰りを待ちつつ袋の封をしながら色んな事を考えていた。
改めて考えても僕は人と同じなのだと自惚れていた。
結局誰からも愛される事などないのだろう。
…僕は思っていた以上に孤独なんだなぁ
そんな事考えていると瞳が熱くなるのを感じる、そっか…もう誰も居なくなるんだからいつでも泣けるね。
泣こうかな、と考えていたが、ふいっと熱は余韻を残しながらもすぐに消え去った
そういえば
ゴミ出しの日いつだったっけ?
END