対人戦闘訓練・緑谷vs爆豪


殺那のコスチュームは弔がよくやっているゲームのキャラクターデザインを模していて、よくある勇者や魔法使いが出てくるファンタジーもののRPGに出てくるアサシンをモチーフにしている。
入学前、被服控除でコスチュームの申請をするときにどうせ一時のヒーロー候補生なのだから適当でいいと言った殺那に、弔が面白がって「ならこういうので良いんじゃね?」と指さしたのが件のアサシンだった。チョイスがアサシンなのも殺那の"死神ディミオス"という敵名にかけた弔の皮肉なのは、兄のニヤついた顔を見れば明らかだ。殺那のこの状況を完全に面白がっていた。
デザインとしては、胸元と両腕のフレア袖に黒いレースがあしらってあるレオタードのようなインナーの上から膝上丈のスカートのようにふわっと広がる腰巻を巻いて、その上からサポートアイテムでもあるたくさんの投げナイフがつけられたベルトを巻き、頭には腰巻と同じ素材のフードを被るというものだった。
手には格闘を想定してナックル部分が鉄で補強されたグローブをつけ、足元はニーハイとつま先に鉄板を仕込んで打撃強化をした編み上げのロングブーツ。
殺那が事前に申請した機能性の要望は全て取り入れてくれていたが、アサシンというには少々可愛らしすぎるデザインはどうやらサポート会社の趣味らしく「音羽様の容姿にはこちらのデザインの方が似合うと思い、勝手ながら手を加えさせて頂いています!」と自己主張の強い手紙が同封されていた。どうせ期間限定のヒーロー志望だ。機能性が要望通りであればデザインなんて対して気にすることでは無い。
着替え終わって更衣室から出ると待ってくれていた女子たちが「音羽さん可愛い!ファンタジー!」「こういうキャラ、ゲームに出てきそう!」と目をキラキラさせながら殺那を口々に褒める。次々と投げかけられる言葉に、待っていてくれたお礼と共に当たり障りなく褒め返しながら全員で演習場へと向かった。
演習場ではもう既に着替え終わった者から待っていて、待ってもらっていた分殺那達は最後の方だった。芦戸や葉隠が男子の輪の中にコスチュームをはしゃぎながら見せに行く中で、殺那は睨むように見つめてくる爆豪とばちりと目が合ってしまった。

──なんでずっと睨まれてんの、私。困るなぁ、
「ねえ、爆豪くん」
「あぁ!?気安く話しかけてんじゃねえわ殺すぞ」

喋った事すらないのだから、気に障るようなことをした覚えなど全くないのだが、ずっと睨まれるのではたまったものではない。意を決して睨むのをやめて欲しいと伝えようと思っただけなのだか、酷い言われ様である。

「私も話しかけたくなかったんだけどね、睨むのやめて欲しい。私何かしたかな?」

とりあえず、何が気に障っていて睨んでるのかは分からないが理由を聞いて適当に謝って終わらせよう──殺那はそう考えていた。
その考えを見透かされていたのか、ドスを効かせた爆豪の声が殺那を威圧した。

「はっ、実技入試のときこの俺を出し抜きやがったのなんか覚えてねぇってか!舐めやがって──ぶっ殺す」
「待って待って何の話、本当に分かんない」

きちんと説明してくれないのでイマイチ全容が掴めないが、どうやら実技入試のときに何か彼の琴線に触れてしまったらしいことだけは分かった。とはいえたった10分間の演習でのことでしょう、根に持つなんてみみっちいな、この人──殺那は最早呆れていた。
そうこうしていたら全員揃ったようで、オールマイトの意気揚々とした声が演習場へと響いた。

「さあ!始めようか有精卵共!戦闘訓練のお時間だ!」

オールマイトの今回の訓練の説明はこうだ。
敵犯罪の統計から見るに凶悪な敵は屋外よりも屋内の方が事件発生率は高い。真に賢しい敵は闇に潜む──よって今回の訓練は2対2の"敵側"とヒーロー側"に別れての対人戦闘訓練。"敵側"であれば敵の思考を、"ヒーロー側"になれば屋内での捕物のアプローチ方法について学べるという訳だ。
核兵器など設定がいやにアメリカンなのはオールマイトの趣味だろうか。

「はい、オールマイト先生!人数が奇数なのはどのように割り振るのでしょうか?」
「うむ、いい質問だ飯田少年!今回1チームだけは3人になるようにしてある!そしてそれは"敵側"だ!」

ヒーローは時として数的不利の中、作戦を続けなければならない時もある。それを再現しているとの事だ。「3人チームと当たった子達は人数差をどう切り抜けるかも考えるんだぞ!」と最後にアドバイスをして、オールマイトはくじ引きの箱を掲げた。
出勤番号順に組み分けのくじを引いていく。

「…Iチーム」
「音羽さん!私もIチームだよ!よろしくね!」
「あ、俺もIチーム」
「葉隠さんと…えーっと?尾白君だっけ?ここが3人チームで自動的に敵側だね」

個性把握テストで声をかけてくれた透明人間の葉隠透、そして大きな尻尾が特徴的な尾白猿尾。葉隠は隠密性に優れていて待ち伏せに強いだろうし、尾白は近接戦闘が得意だろう、そして自分も葉隠と同じで隠密からの奇襲が得意な個性だ。チームのバランス的には近接型になるか。範囲攻撃が得意な個性持ちと当たったら少し厳しいかもしれないな、殺那は思案した。

「みんなチーム分けのくじは引いたね!
では、早速第1試合目は──Aコンビが『ヒーロー』!Dコンビが『敵』だ!」

第1試合の4人を残し、観覧組はオールマイトと共にモニタールームへと移動する。横を歩く赤髪を逆立てた男子、切島が「どっちが勝つかな」と誰に向けるでもなく、訊ねる。
ヒーロー側が緑谷・麗日ペア、敵側が飯田・爆豪ペアか。個性把握テストを見た感じだと4名とも強い個性を持っているけれど、緑谷・麗日ペアの方が機動力に欠ける。

「普通にやれば敵側が優勢だと思いますわ。
ヒーロー側は個性自体は強いですが、機動力で劣る分は相当作戦を練らないと少し厳しいのではないかと」
「やっぱ機動力ある個性はそれだけでも強いよなぁ」

八百万、上鳴が言う。

「八百万少女はいい分析力をしているね!
試合毎に講評をしていくから、他の者も試合を見てどこが良いかまたは悪いかしっかり学ぶんだぞ!」
「「はい!」」
「では、第1試合──スタート!」





第1試合の運びはとてもじゃないが生徒たちの目から見ても褒められたものではなかった。
音声が聞こえないのでどんなやり取りをしているかは不明だが、ヒーローチーム──というより緑谷に向かって特攻していく爆豪と核兵器が置いてある部屋で狼狽えている飯田。その様子は明らかに連携が取れていなかった。
対してのヒーローチームは作戦は練っているのだろう動きだ。麗日など眼中に無い爆豪を緑谷は予測していたのだろう、上手く攻撃の軌道を読みながら相手をしている隙に麗日は別行動に移っていた。
モニター越しに目を血走らせながら手のひらを爆破している爆豪の様子が映し出される。すごくイラついているが、一体何を喋っているのだろう。
身を潜めた緑谷を見つけた爆豪が右腕を前に構える。爆豪が手榴弾型の小手のピンを引き抜くと今までとは比べ物にならない威力の爆破が壁を床を破壊し、ビルを半壊させていた。

「わっ!授業だぞこれ!
先生!これ止めた方がいいって!爆豪あいつ相当クレイジーだぜ!?殺しちまう!!」
──いや、あの感じは多分わざと外してる。
「……いや…。爆豪少年、次それを撃ったら強制終了で君らの負けとする」

オールマイトも当てるつもりで撃ってないことには気付いている。だがしかし、さすがに建物を半壊させる規模の攻撃は敵側だとしても愚策、注意対象となった。爆豪は癇癪を起こすように緑谷に飛びかかった。
爆破での慣性を利用して緑谷に攻撃を加えていく。

「目眩しをかねた爆破で軌道変更、そして即座にもう1回…考えるタイプには見えねえが意外と繊細だな」
「慣性を殺しつつ有効打を加えるためには左右の爆発力を微調整しなければなりませんしね」
「才能マンだ才能マン」

轟と八百万の解説は確かにその通りで、見た目以上に繊細な扱い方をしている。とてもまだ学生とは思えない程に使いこなしていると思う。きっとああ見えて頭脳派なのだろう──でも。

「なーんだ…がっかり」

ぽそり、と誰にも聞こえないボリュームで呟く。
最初に宣戦布告されたので、自分よりも実技入試で勝っていたので、どれ程強いのかと思いきや──なんてくだらない。殺那が感じたのは明らかな失望だった。
緑谷と爆豪、二人にどんな事情があるのかは分からないし、殺那には興味もない。だがそれはこの連携を怠り、捕獲テープを巻けば勝ちなのにリンチまがいの戦闘行為に走る体たらくの理由にはならない。例えば爆豪と対戦するとしても、殺那は彼に負ける気は1%だってしない。

そこから決着まではもうめちゃくちゃだった。
爆豪の攻撃を腕で受けながら、天井を個性把握テストで見せた以上の超パワーで全てぶち抜いた緑谷と、その大規模攻撃で生じた隙を利用して核兵器を回収した麗日。
最後の最後でいささか乱暴ではあるが連携を見せたヒーローチームの勝利となった。

「なんだこれ…負けた方がほぼ無傷で、勝った方が倒れてら」
「勝負に負けて、試合に勝ったというところか」
「訓練だけど」
「いやー!でもあの状況から巻き返すのはヒーローチーム凄かったな!」

ああだ、こうだと生徒同士で感想を述べている間にオールマイトが緑谷を除いた3名を連れて戻ってくる。何を思っているのか、俯いたまま表情の見えない爆豪を殺那は冷めた目で一瞥した。

「じゃあ講評のお時間だ!つっても、今回のベストは飯田少年だけどな!」

なぜだかわかる人!と挙手を促すオールマイトに間髪入れず手を挙げたのは八百万だった。
爆豪と緑谷の屋内での大規模攻撃、麗日の気の緩みと最後の攻撃の乱暴さなどなどを反省点として上げ、逆に飯田が状況に適応した行動を取れていたことを述べた。





「じゃあ次のバトル行ってみよう!!
お次は──ヒーローチーム・B!敵チーム・I!」

先程の建物は半壊状態なので、場所を移し2試合目。ヒーローチームは轟・障子ペア。敵チームは殺那達3人チームだ。「では5人は移動して準備を!」というオールマイトの指示にそれぞれが動き出す。
あぁそうだ、これだけは言っておきたい。モニタールームを出て行く前に、殺那は一人後ろで俯いたままの爆豪に近づき冷ややかな声で言う。

「誰を殺すって?──人のこと舐めてるのはどっちよ」

1試合目の結果を全て見ていて、入試で一瞬でも自分の先を行った目の前の女は自分をライバルとすら認識しなかった。いっそ凍えそうな程に温度のないその声は爆豪の自尊心を更に傷付けるには十分だった。

葉隠・尾白と共にビルの中に移動した殺那はまず最初に核兵器に触れた。これでもし核兵器に接近されても逃げることが出来る。

「第1試合凄かったね!私達もがんばろ!」
「そういえば音羽さん、最後爆豪と何話してたの?」
「え?あぁ──授業前にちょっと絡まれたから仕返し?みたいな??」
「へぇ〜、意外と強気なんだね」

尾白の感嘆の声にはは、と乾いた笑いで返す。一部始終を見ていて殺那はとても腹が立っていたのだ。
この訓練、敵側の捕獲テープはヒーロー殺害と同義だ。自分たちヴィランはさっきの爆豪のような生易しい思考回路はしていない。ヒーローなんて何かする前にすぐに殺してやるし、あの小手での大規模攻撃だって必要な局面ならば平気で使うし当てる。訓練ということを差し引いても、爆豪の行動は殺那にとってほとんど侮辱に近いものだった。

「二人とも!私ちょっと本気出すわ!手袋もブーツも脱ぐわ!」
「う、うん…」

ということは彼女は今全裸ということか──尾白がドギマギしていた。

「うん、じゃあ作戦は葉隠さんの奇襲からの防衛戦だね。ちなみに轟くんは多分一人で入ってくると思うよ」
「え?なんで?」
「だってね──」

さぁ、頑張ろうか──。