球技大会@


稲荷崎は部活や学校行事が盛んな高校である。
関西人らしくノリがいいから──かどうかは分からないが、文化祭、体育祭、球技大会、どんな行事でも、いつでも生徒たちは全力である。そんな稲高生が大好きな行事である球技大会の開催が今月の中頃に迫っていた。
種目は男女で2種目ずつ、毎年くじ引きで決まるのが通例であり、今年は男子はサッカーとバスケ、女子はバドミントンとバレーに決まった。必ずどちらかにはでなければならない決まりだ。となると、経験者であるまつりは当然──。

「まつりちゃんバレーに出るやんな!?」
「うん、出るよ」
「はぁぁ、まつりちゃんのプレーが生で見れる…当日はビデオカメラ持参せな」
「侑、昼休み終わるでー。そろそろ教室戻れや」

女子の種目にバレーが含まれていることを知るや否や、昼休みにすっ飛んできた侑にかなり食い気味で種目を訊ねられる。というか、ほぼ断定形である。
たかだか高校の球技大会でビデオカメラ持参するやつがどこにおるんや、運動会の保護者か、と尾白は心の中でツッコミを入れながら、覇気のないトーンで侑の後頭部に話しかけた。

というやり取りをしたのが半月前。そうして迎えた球技大会当日、まつりは気合十分で長い髪を邪魔にならないようにまとめていた。
今回優勝したクラスの打ち上げ費用は教師達がお金を出し合って負担をしてくれるらしい。(ちなみに上限はある)そんな気前のいい計らいに生徒達が沸かないはずがなく、どのクラスも熟考に熟考を重ねたメンバー選出となっている。
まつりのクラスでバレーの経験があるのはまつりも含めて3名、その中でも高校でも選手をしているのは凛子のみである。攻撃の要であるセッターに現役の凛子がいてくれるのは最大の幸運だった。凛子を軸にメインの得点をまつりが、それ以外でレシーブを確実に上げていくというのが今回の作戦だった。

「やっぱ一番の強敵は3-5やなぁ…バレー部の先輩3人おんねん」

3-5が勝ち上がってくるという凛子の読みは恐らく的中するだろう。「でも、まずは目の前の試合に勝たないと」まつりの真剣な声に凛子が「そやね」と歯を見せて笑った。優勝を狙うならどのみち目の前の相手とは試合をすることになる。今後のことなどどうでもいい、いつだって目の前の一勝の先にしか目指すものはないのである。

「まつりっ!」
「うん!」

そう意気込んで始まった試合。
現役の頃ほど全力では打てないが、しっかりと威力を持ったスパイクがブロックを弾いてアウトになった。「まつりナイスキー!」「凛子もナイストス!」チームメイトたちとハイタッチを交わす。

「ナイスキー!!さすが俺のまつりちゃんや!角名、見たか!?今狙ってブロックアウトしとったで!」
「はいはい見てる見てる」

ビデオカメラ片手に角名の肩をぐわんぐわんと揺らして興奮している侑の存在感が強すぎて若干集中を乱されるが、このくらいは大した問題ではないしなんだか喜んでくれているようなのでそのままにしておくことにした。というのも、侑はワンプレー終わるごとに興奮してはいるようだが、プレー中の彼は驚くほどに静かなのである。その様相は完全に調教されているファンだ──調教した覚えは全くないが。

「あっ、ごめん!」

未経験者のチームメイトは相手からの緩いスパイクでも簡単にレシーブは乱れる。「はい!」自分が取ることを声を上げて主張し、少し逸れてしまったボールを追いかけ、繋ぐ。オーバーでオープントスを上げると、走り込んできた凛子が1枚ブロック綺麗によけてスパイクを決めた、今のがセットポイントだ。

「やったー!初戦勝った!」
「まつりすごい!ブランクとか嘘やん!」

揉みくちゃにされながらチームメイトと喜びを分かち合う。
それ以降の試合もまつりと凛子の2人を主軸にして攻撃に繋げ、クラスは順調に勝ち進んでいった。


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他クラスが試合をしているためつかの間の休憩中、まつりは北と尾白が出るバスケを見に来ていた。その後は侑と治が出るサッカーにも行く予定だ。
2人とも長身、高さ勝負のバスケでは有利に立てると踏んでの抜擢である。しかし、どのクラスも考えることは一緒なようで、相手は190cmオーバーの大耳を擁していた。
ちなみにこれは余談だが、大耳と同クラスの赤木はサッカーになったらしい。バレー部のほとんどがバスケへと割り振られる中、一人サッカーになった赤木は解せぬと騒いでいたとか何とか。

「チームメイトでも容赦せんぞ」
「当たり前や、勝負事は本気でやらんと相手にも失礼やからな」

普段はクールな北も年頃の男子高校生、球技大会という行事に全く表情には出ていないがしっかりとテンションが上がっていたようである。
スタートのジャンプボールは体格で勝る大耳が獲得し、試合が始まった。バスケ部を中心に点を取って取られての応酬が繰り広げられる。

「尾白ーっ!見た目完全に外人なんやからもっといけるやろー!」
「大耳に負けんなーっ!」
「誰がNBA選手やねん!!見た目で人を判断すんなや!」

応援とも野次ともつかないような声援にもしっかりツッコミを入れてくれる尾白は、関西人の鑑である。
試合中口々に声援が送られるため、もはや誰に向けたものか判別などできないし、耳に届くとも思えないが、まつりも男子で一番仲良くさせてもらっている北と尾白へ力いっぱい声援を送った。

常に膠着状態の白熱した試合もタイムアップを示すブザーの音で終わりを告げた。結果は惜敗である。汗を袖や服の裾で拭いながら戻ってきた尾白と北に「お疲れさま、」とまつりは労いの言葉をかけた。

「負けたわー!バレー頑張りや」
「もちろん!打ち上げ費用ゲット頑張るね」

ケラケラ笑いながら尾白とハイタッチを交わす。
「九条さんも応援ありがとうな」横で水を飲みながら、ゆるりと微笑む北。めったに見れない北の笑顔と必死の応援がちゃんと聞こえていたという気恥しさに、まつりの顔には自然と熱が集まる。

「あれだけ騒がしかったのによく聞こえてたね」
「友達の応援や。ちゃんと聞いとるで」

北のストレートな物言いがやっぱり気恥ずかしくて。完全に照れてなんと返していいか分からなくなってしまったまつりの気持ちなど、きっと北はお見通しなのだろう。

その後、敗退してしまったために試合のない尾白と一緒に、侑と治のサッカーを見るためにグラウンドへとやってきた。聞くところによると、侑と治も例に漏れずバスケのメンバーになりそうだったらしいが、手を使うのを嫌がった侑によりサッカーになったらしい。

「あっ、まつりちゃーーん!アランくーーん!」

ちょうど試合が始まるのか、グラウンドから両手をブンブン降って侑が自分の存在をアピールしてくる。隣にいる治もこちらに手を振っているが、侑よりかは控えめだ。結構な距離があるのに速攻でまつりを見つけるのはもはやさすがとしか言いようがない。

「まつりちゃーん!俺の活躍見とってなー!」

侑の言葉に、まつりが返事の意味も込めて手を振ると、どうやら伝わったらしい。スキップをしながら配置に着いていた。
そうして始まったサッカーの試合。見ていろ、と言うだけあって侑も治もサッカーが上手だった。さすがに凡ミスはあれど、元々の運動神経が良いのだろう。素人とは思えないほど上手だ──上手なのだがしかし──。

「っあだっ!」
「あ、すまん」
「〜〜〜っ!クソサム!このノーコン!どこ蹴ってんねん!」
「はぁ!?すまん言うたやろうが!」

「あの双子は、どこにおっても何やっても騒がしいなぁ…」
「いつも元気だよね」

コントロールをミスってボールがぶつかっただけで毎回乱闘に発展しそうになるのは、試合が一向に進まないのでやめて頂きたい。
一触即発のあのやり取りですら兄弟仲がいいと思ってニコニコしているまつりに、こいつのマイペースも筋金入りやなぁ、と尾白は遠い目でチームメイトに止められる双子を眺めるのだった。