エッセイ *恋愛
鉛筆とあの子
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*情報の授業中


朝から3限続けてだらだら進む絵画の授業の次は昼休みを挟んで数学があり、今の5・6限目は情報技術だ。


授業ではパソコンのCADを用いて、図形を描く作業を行う。
配られたプリントにはCAD起動時のパソコン画面が並んでいて、それに操作方法を書き込みながら授業は進んでいく。

プリントには、図の下に『支点、Lドラッグ→R』と捕捉があった。

これはつまり、カーソルを左ドラッグした後に右クリックすることなのだが、このような操作方を順番にひたすら丁寧に先生が説明する。
どうも授業のテンポが悪く、この退屈さは毎度眠気との戦いでしかない。


いつの間にか目を開けていてもパソコンの画面がズレてきて、視界が傾いたまま戻らない。
ここまで来ると、眠りの世界には抗えそうにない。諦めて瞼を閉じることにした。


するとコツン。私をわざわざ起こすために、何か固いものが腕に当たるのを感じた。



「………なに。修二」

「おはよー、お前寝んなや」


肘でまた小突きながら話す。


「あー? 寝かしてーな、ええやん」

「授業やし寝たらいかんの」


そんなキャラでもないのに真面目を気取って彼は言う。


「他の授業は堂々と寝とるくせに、よー言うわ」


皮肉を込めて言い返した。


「広奈の隣で授業受けれるときくらいは俺起きるし」


へな、と私に対し特別な笑顔を見せる。可愛い奴と思ったけど、でもその言葉は甘過ぎる気がした。


「何やそれっ」


「アイスティーいる? 広奈」


返されたのは繋がりなんてない、おふざけな返答だった。

『アイスティーいる』は、やや早口に外人風に言うのが味噌なのだが、何となく「愛している」と似ている響きのフレーズになる、ただそれだけの意味しかない。修二が周りに勝手に流行らせているネタ的な奴だ。

思わぬパスに吹き出し、返事をする。


「アイスティーいる。修二」


とても馬鹿げた、甘い響きを繰り返した。

修二とは去年の春から告白され、付き合っている。今は一緒に居て飽きない友達のような恋人で、自他共に認めるありふれたバカップルだ。


「二人とも静かにしいっ。アイスティー、アイスティー煩い」


修二の隣の智子が椅子のゴマを後ろに転がし、背もたれに体を預けて顔をこちらに覗かせ、注意する。

因みに彼女は実習の授業中も、いつもうちらバカップルに挟まれ突っ込みばかり入れる苦労人だ。


「はーい、すみません」


馬鹿みたいな笑顔で私は答えた。


「よろしい!」


智子も笑みで返した。





そして授業と授業の間の10分休みになって、私は友達の席を転々として話しをする。
パソコンの画面を見て自分との進み具合を比べてみたり、授業中にCADの線画の機能を器用に駆使して美少女を描いた翔子をからかったり。


初音の席にも私は立ち寄った。文庫本をひたすら読んでいる隣に座り、邪魔をしてみる。


「何の本?」

「友達が貸してくれたん」


「へぇー」


そう言いながら、彼女がプリントに書き加えた文字を見詰める。今どきの女の子には珍しい、角張ってちゃんと右上がりになった文字。

初音にノートを借りて写させてもらう度に、何でこんな大人びた文字を書くのか不思議になる。
履歴書なんかを書くときは便利なんだろうなぁと思った。


「ようプリントとっとるねぇ、眠くなかった?」


先生がホワイトボードに書いた文字以外にも、口頭のみで説明されたことが細かくメモされていて分かり易い。


「ちょっと眠かったわぁ」

「やんなぁ」


笑いながら何気なく初音にもたれかかる。女の子特有の柔らかい感触が心地良い。


「もー、うちなんかに甘えて。彼氏にしてきなよ」

「まぁたまにはええやん」


寄り掛かった時のふわりとした感じが病みつきとなり、暫くそのまま彼女の書きかけのモニターに映る図面を見ていた。


初音は始業のチャイムが鳴るまで、また文庫を読み始めた。


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