エッセイ *恋愛
鉛筆とあの子
[7/24]


*図書室で勉強


「あぁ、気持ちええな」


図書室の窓から差し込む光が、柔らかい日だまりを作っていた。私は目を細める。


「ほんま。……てかかなり眠くなんなー、これ」

「まぁね」

「こんなとこで勉強しよう思っても無理やわっ、やる気出ん」


そう不貞腐れて言いながら、課題のプリントの上にシャーペンを走らた。

あっという間に仕上がった適当な落書きを指差して、うさぎさん出来たっと得意になって報告する。


「でも、図書室でテスト勉しよう言い出したんは広ちゃんやけど」


初音は冷やかな目で、私とプリントのうさぎさんを交互に見た。


「あれ、そうやったぁ?」


当初はその気があったのかもしれないが、今では勉強しようという気も失せ、集中力が切れてしまっているのは確かだ。
もう、しょうがなく笑って見せるしかない。


「まぁいいわ、勉強するから邪魔せんとってな」


初音はこちらを一瞥した後そう釘を刺し、家で自習してきたと思われるノートを広げて生物の勉強を始めた。花の断面の図などをやたらきれいに描いている所が、彼女らしい。

こちらはというと、テスト勉よりも先に提出期限が今日に迫る現国のプリントを仕上げなければならない。
内容は、授業まとめの感想文だ。

ちなみに作文は苦手過ぎるので、今も書き出しすら分からず途方に暮れてそのままだ…。

誰か変わりに書いてくれればいいのに……と、この手の課題が出る度に何度逃げ出したくなったことか。


「はーつーねー…」

「んー?」


「出だしだけでも書いてよ」


下から伺うようにして少し甘えた声を出してみたが即座に嫌、と言われた。


「お願いします!」

「自分で書きなよ」


怪訝そうに低い声になる初音に、だって……と語尾を濁してうなだれる。


「見直しくらいやったら出来るけど、書いてもないのにそんなん言わんのっ」


それが正しいことだとは、分かってはいるんだけど。


「うー……。そんなん言ったらエヴァンゲリオンのW使徒Wについての感想文書いてやる」

「あほなこと言うて」


感想文の話しが突拍子もない所に飛ぶせいで、また初音は困って半分呆れている。


「じゃー書き終わったらなんかご褒美」


懲りずにしょうもない事をねだる私に、初音は我が儘やなぁと溜め息を付いた。

そんな彼女を少しの間、静かに眺めていた。


「何がええん、言うてみな」


どこか諦めたような顔をして、笑っていた。


それは少し予想外で、言葉がすぐに思い付かなかった。
えー……と声を出しながら、頭の中をぐるりと廻らせる。

それで暫くして、いい答えが閃いた。
意地悪な笑みを浮かべて、初音を見据える。


「初音をギュッとする、んで眠いから肩枕なっ」

「もう」


照れながら反応に苦しんでいる様子で、どこかソワソワした雰囲気が伝わってくる。わぁ、これだけでも充分可愛らしいんだけど。


「別にええやろ? な」


そう無邪気な子供の眼差しで、畳み掛けた。初音は耐えかねて視線を逸らす。


「あー、はいはい。図書室閉まるまでに書けたらな」

「やったっ、頑張る」


なかなかの妙案を思いついて浮かれた私は、やっとやる気になり始めた。
鼻唄でも出そうなくらいな勢いのままに、プリントと対峙した。






しかしそのやる気も儚いもので、ものの数分でしぼんでいた。結局数行しか進まず、その後唸っていただけで途中から記憶がない。






「広ちゃん、いい加減起きたら」



「…ぁ?」


プリントに涎が僅かに染みていることに気付いた。口元を指で拭う。


「もう図書室閉まっちゃうよ」

「嘘……私寝過ぎやん、起こしてよ」


重い体をゆっくり起こして目を合わす。寝起きの悪さも手伝って、多分私は初音を睨んでいた。


「あんまり気持ち良さそうに寝てる広ちゃんが悪い」


クスクスと笑いながら話す彼女に、すぐ気がほころぶ。


「それに、起こしてやる気出されてたらろくでもないことになってたから」


いかがわしいものを見る風に私をちら、と見る。


「ろくでもないとは何よ!」


夢心地だった自分を奮い立たせる程の、少し大きい声を出していた。だが初音は全く動じていない。そして控えめに喋り始める。


「うち抱き締められるん苦手なん、てかこんなとこで肩枕とか怪しいやん」


少し目を伏せる彼女の頬は、ほんの僅かに赤みが差していた。


「なんか可愛いなっ」


素直な感想が溢れる。恥ずかしがって頬の色を変える初音が可愛くてしょうがない。


「そ?」


可愛い、という単語にピンと来ない様子で初音は首を傾げた。


「うん、可愛いよ」


自信満々に繰り返す。正反対に彼女は困り果ている。
私だけ妙にニヤついていた。

そんな様子を見て広ちゃん怪しいよと苦笑する初音に、ごめんついと謝った。けど、暫くするとさっきの顔を紅くする初音がしきりに頭に浮かんできて、思い出し笑いをしてしまうのであった。


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