エッセイ *恋愛
鉛筆とあの子
[8/24]


*体育の時間


季節が春から夏に移り変わる時期、体育館は異様に蒸し暑い。

今日は体育担当の先生が出張で居ないので、自由にボールなどを出して過ごしていいそうだが智子、初音、私を含む3人にはそんな気力もなくだらけていた。


「あ、修二おるよ」

「ほんとや」


智子が顔を向けた、緑の網で仕切られた向こう側で男子が群れている。その中に彼も居てバレーをしているのだが、時々男子達から聞こえる奇声が鬱陶しくて見るのを止めた。


「なんであんな元気なん」


そうむさ苦しい集団を見続けながら智子が零す。


「さぁー…見てるだけで熱い」

「確かに」


「てか、暇ぁ」


眠そうに私と智子の脱力な会話のキャッチボールがされていく。


「やったらボールでも出して遊んだらええやん」


それに初音が少し冷たく、真面目な発言をした。


「めんど、暑いし」

「汗かくんイヤやわ」

「やる気ないなぁ」


相変わらずの私達に呆れて、初音も先程より姿勢を崩した。反対に何かを思い出した様に智子は倒していた体を起こして初音を見た。


「そういや初音って好きな人おるやろ」

「えー、いきなり何言うん」


普段と変わらない様子で初音は答える。


「いいやん、初音見てたら分かるもん。あの人やろ、絶対」


部活での話しなのか、私にはよく分からなかったのでただ聞いていた。


「うーん、あんま恋したことないからわからんけど。尊敬はするなぁ」


少し遠くを見ていると、ぼんやりとした声がする。


「恋や、いいなぁー初音にもついに春が…」


ふと見ると智子がやたらニヤついていた。

恋、あの初音が。他の男子を好きになるあの子を想像しようとしても無理だった。どうせ智子のつまらない思い込みだろうけど。


「ん、初音は私の物やのにどうゆうこと」


恋をしていると噂された彼女の片腕を引き寄せ、おもむろに後ろから包み込む。


「わ…っちょ」

「お、広奈暑苦しいっ」


妙に笑顔な私と、はにかむ初音。それに智子はすっかりウケていた。


「初音やからいいの」

「離して、やっ」


体を縮こませて嫌がる仕草が面白いと同時に、初音の肌の感触が心地よい。
離す事などできる訳もなく、逆に手に込める力を強めた。


「もう、怒るよ!」


そう言いつつ既に初音は低い声で怒りを露わにしていた。腕を振り切っり、こちらを睨んだ。


「あ、顔赤いっ、初音照れてるー」


それに智子が指を指して笑った。


「本当や、可愛いっ」

「煩い、可愛くない!」


初音は眉間に皺を寄せ、体育座りのままじりじりと距離を取った。


「逃げんといて、もう」

「こっちがもうって言いたいわ」

「まぁいいやん、私の隣来なよ」


声掛けにより初音は渋々という感じで、先程の位置に戻った。その体に横からもたれて体重を掛ける。調子に乗って肩にも頭を乗せた。

少し経って、初音も私の方へ頭を軽く傾けてきた。彼女の髪が私に触れてくすぐったい。少しの気恥ずかしさを覚えた。


「初音、気持ちいいわぁ」

「ほんまぁ」


このまま眠れたらどれだけ心地よいか。そうは言っても落ち着くことはなく、少しずつ鼓動の刻みを短くしていく自分に違和感を覚えた。


「恋、したいなぁ」


智子が何気なく呟いた。


「恋ねぇ…」


単語を聞いたとき、初音の柔らかい感触のせいで恋をしてしまいそうになってるのかもしれないと思った。だから心臓が速いのだろうと。

そんな考えを思い付いた事に対して少し笑えた。脈を落ち着かせるために目を閉じる。


自然とボールをつく音や男子や女子が騒ぐ声が耳につく。

だが初音が肩を貸してしてくれれば、いつまでもこうしていたいと素直に感じていた。


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