鉛筆とあの子
[9/24]
*一人の放課後
最近毎日の様に放課後、初音のデッサン様子を伺いに行く。
大体二人きりになるこの時間が好きで、放課後はいつも楽しみにしている。
そうしている一番の理由は、初音の側に居ると落ち着くからかもしれない。
別に会話がなくても、目の届く所で彼女がデッサンしているだけで私は満足する。
私は私で、側で化粧を直していようが、宿題をしていようが、初音が居さえすればいい。
だけど最近、自分が少しおかしいように感じてしまう。その理由は、今私の中で一番側に居て欲しい人が初音と感じているから。
そして自分を彼女の一番に近くに置いて欲しいと思っているから。ちょっとした独占欲みたいなもんかもしれない。
仮にも彼氏が居る身なのに、最近は初音と過ごす時間の方が好きだったりする。
まぁ、彼女と過ごす方が楽だからかもしれないけど。
そして今日も初音が居残りをしているデザイン技術の教室へ向かった。
しかし中には誰も居なくてガランとしていた。
そういえば今日は水曜日で初音は数学の補修の日。期待が外れて少し寂しさを感じてしまう。
だが何もしないで帰るのも嫌なので、少し教室に残った。初音がいつも座ってる場所に座って外を眺めたり、携帯を無意味にいじったりする。
何となく過ごしていると、初音はスケッチブックを大抵この教室に置きっぱなしにしている事を思い出した。
いけない事と思いつつも探り当てて盗み見る。
最初数ページは見たことのない絵が続いていて、先生からのアドバイスが時折図を交えて、ちょこまかとメモされている。
それからちらほらと私が見たことのあるページ。一冊目は既に使い切ってあり、スケッチブックの二冊目も開いた。
新しい方は5ページ程しか進んでいなくて、最後の絵は昨日私も眺めていた書きかけのロープだった。初期より影の減り張りが上手く、絵のバランスも良くなっている。
その後に続く白いページを見ていると、自然と落書きしたくなった。
その辺に転がっていた鉛筆を拾い、何を書こうか考え始める。私は一人でニヤついて、初音が後でこれに気付く事を想像した。
笑うか、怒るか両方か。
直ぐにバレないように、最後から3ページ目を選んで開いた。
[好きです]
少し大きめの字で右隅にゆっくりと書いた。我ながら、何とも恥ずかしいメッセージだろう。
こんなとこで告白してどうする、と自分に突っ込んでしまう。何となく書いた文字を何度か見た。何故か変に心臓が高鳴っていく。
[好きです]
それはいったいどんな意味で。ふとした疑問を確かめる。
友達として。もしくはそれ以上の感情は在るのか。
[好きです]
側に居たいのは間違いなくて。
初音が可愛くて仕方ないのも確かで。
この気持ちは恋心に似ていると考えたら、直ぐに頭が痛くなった。心臓が先を考えるのを拒否するかの様に縮む。
[好きです]
もしもそうだったら。否、違う。厭、だ。仮にもそう考えてしまった事に悪寒が走り、鼓動が鳴り止まない。この私が初音に特別な感情を持ち始める?
有り得ない、どうして。どうすれば。
ただ側に居たいだけ。
だから私は初音が。
『好きだよ』
心の中で力なく零した途端に、体の力が抜けていった。
もしかしたら本当に恋をしているのか、ただの勘違いなのか。
分かりかねないまま、私は冷静になる為に俯せて目を閉じる。何となく暫く初音に会いたくないなと思った。
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