エッセイ *恋愛
鉛筆とあの子
[10/24]


*速まった鼓動


気付けば初音を目で追いかけてた。変に意識してしまって、授業中斜め前に座る彼女をちらちらと見てしまう。
初音はいつもと変わらない風に居眠りも殆どせずに、真面目にしていた。

感心、感心。

私はというとたまにうつらうつらしながら、彼女をぼんやり観察するばかりで授業など頭に入ってこなかった。

でも、そろそろノートくらい取らないと黒板が消されてしまう。分かっていながらシャーペンを動かすのが面倒というか、この頭が半分以上寝ている状態で頑張ったところで酷いことになってしまうので半分諦めていた。
いんだ。また初音のを休み時間でも放課後でもいいから写せば済む話しだし。

そう自分に言い訳をして、ノートを取る振りをしつつ眠りに落ちていった。




「広ちゃんー」


呼ばれたと同時に揺さぶられる。私の肩を掴んでいる手は温かくて、柔らかい。


「んあ…休み時間か」


涎が垂れてないか口を拭ってから、しょぼしょぼした目を擦った。


「ねぇ、今回全然ノート取れてないね」


初音はノートを眺めながら呆れていた。えへへ、とか適当に笑って誤魔化す。それからノート写させてよーと、ちらっと視線を送り訴えた。


「えー、また?」

「うん」


ノート頂戴という感じで両手を前に広げて見せると更に初音は呆れてしまったけど、なくさないでよねっとぼやきながら自分のノートを取りに行ってくれた。


「今写すからなくさないもん!」

「でも今回量多くて大変だったから、休み時間中に写すのは無理と思うんだけど」


変に得意気になっていたのに初音はあっさりと突っ込む。だがそれに怯んだりしない。


「次の授業中も写すもんっ」


真剣に答えると、はぁー…と深いため息が吐き出されていった。まぁ予想通りの反応なんだけど、そんなもの求めてなかったから面白くはない。
胸のどこかがチクチクとする。だから敢えて私は、気の抜けたように笑って初音を見つめた。


「ねぇ、何で私がわざわざ授業中にこうやってノート取らないと思う?」

「眠いから」


低い声での即答、間違いなく正解だ。だがそれにこじつけた理由を付け加えてやった。


「それもそうだけどね、こうやって初音のノートを写したいからわざとやってるんだから」

「どこの少女漫画の主人公なん」


初音は笑ってくれた。そう、これなんだ。このしょうがないな、ってくだらないことに付き合って笑ってくれるいつもの感じを求めてたんだと思う。


「ふふ」


私もにやけてる。


「あ、そういえばうちのスケッチブックに変な落書きしたやろー」


相変わらず初音は笑っていて、落書きに対して怒ったりしていない。落書きしたのは覚えていたけど、何を書いたかとっさに思い出せなかった。だから、えっなんて書いてた? と聞く。
初音は微笑んでいた。


「好きですって」


その一言で瞬時にいつかの放課後の事が思い浮かんできた。初音、気付くの早いなと考えながら心臓の動きが異様に速くなっていく。


「そんなん私書いたっけ?」


形では初音に尋ねていたが、自分への問い掛けでもあった。きっとこれはちょっとした現実逃避かもしれない。


「あれは広ちゃんの字やもん」


でもすぐ私が書いたという現実を突き付けられてしまう。あっさりと、バレた?と身をすくめて認めた。
うん、と初音は笑う。


「そうや、私は初音が好きなんやもん」


開き直って、私は堂々と告白した。この好きが友達としての物か、それ以上の物かもしれないのか分からないまま。


「もー、何言ってんの」


告白への反応は、声の様子や目をそらされる所からどう見ても照れていて可愛い。


「初音は私のこと好きじゃないん?」


余計に困らせたくなって、尋ねる。
もー、それだけ初音は言って眉をひそめた。


「正直に言ってや」


意地悪にも目を真っ直ぐ見ながら、答えを待つ。初音のほっぺがどんどん赤くなっていった。


「そんなん好きに決まっとるやんっ」


勢いよく口にされた言葉に呆気に取られてしまう。適当に誤魔化されてしまうと思ったのに、こんな風に答えてくれるなんて。
不覚にも私の顔の方が初音以上に赤なっていそうで焦る。


「うわー、嬉しいなーっ。初音に好きって言われたっ。智子に言いふらさななー」


心臓が自分で分かる程に強く脈打って、ただただ煩い。


「あほ、もう取り消すよ」

「えー、でもちゃんと言ったもんねー」

「もー好きにしい」


初音は離れていく。


暫く好きに決まっとるやん、それが何度も脳内でリピートされる。
間違いなく友達としての好きという意味でだけど、あの時の初音の顔を紅くした様子のせいで告白されたような錯覚に陥ってしまう。あんなに一生懸命に好きだなんて言われたら、本当の告白だったとしても断れないや。

変に胸が何度も締め付けられて、ニヤニヤが止まらない。今の私のだらしのない顔、気持ち悪いだろうな。でも嬉し過ぎるのはしょうがないか。

だって不意打ち過ぎる。私にとって、あの『好き』は卑怯過ぎるって。


遠くへ逃げた初音と、ニヤニヤを隠すために突っ伏す私。とうにノートを写さなければならないことなど忘れてしまったまま、暫く思いに耽っていた。


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