エッセイ *恋愛
鉛筆とあの子
[12/24]


*私を一番側に


彼女の左手を引っ張って、特に意味もなくちょっかいをかけた。


「ねぇ、ねぇ、ねぇーっ」

「…もぉ、何?」

「いやぁ、初音がこっち向くかなぁと思って」

「それだけ!?」


眉を吊り上げた初音に睨まれる。

ただ構って欲しいだけなんだけど、最近下らない事をやり過ぎなのは自覚している。それに初音がうんざりしてきているのも分かってはいる。
ちょっとした事で彼女の機嫌を損ねやすくなった。あまり私の話も聞こうとしなくなってきている。正直この状況は辛い。

だから初音が答えてくれるような意味がある話をしなければならないと思って少し考えて、前から気になっていた話題を振ることにした。


「初音……好きな人って居る?」

「え…?」

「前、智子が言ってたよねぇ。居るんでしょ?」

「もう……」


小さい声だった。俯いた頬に段々と赤みが差してきている。色が白いから、ちょっとの変化も直ぐ分かってしまう。


「初音ー、顔赤いよーっ」


俯いたままの頬に手を当てた。私の冷えた手は彼女の熱を吸い取っていく。


「赤くないって、そんなことどうだっていいやん」

「や、赤いー。照れてる。初音の親友としては気になるとこだよ」


表面では茶化しているが、内心悔しくて仕方ない。直ぐに顔を赤らめてしまう程、初音はその人の事が好きなんだ。


「そんな気になる? どうだっていい事だよ…」


私の手を上から掴んで、静かに頬から外した。動揺した視線、それだけで落ち着いてない様子が伝わってくる。


「いいから話し聞かせてよ、どんな人?」


嫌な好奇心がどんどん話を促していく。本当は聞きたくなんかないのに。


「えー……」

「気になるなぁ、教えてよ」


少しして初音はポツリポツリと、短くその好きな人の特徴を話してくれた。


「部活が同じ演劇部なん」
「部活内の意見まとめるのも上手くて、凄いなぁって思った」
「見た目は普通なんやけどね」


それらに控え目に相槌を打った。この短い話しをするだけで、相手は私だというのに初音は緊張していっぱいいっぱいになっていた。


「充分やん…て、初音の顔ほんと真っ赤やで?」


頭の上を子どもを可愛がるみたいに、そっと撫でた。サラサラと艶やかな黒髪から温かさを感じる。
この頭の中は、その今話してくれてる好きな人で占められていて、私はちっともそういった対象ではないんだと考えると寂しくて切なくなった。


いつもならこんな風に顔を赤くする初音を見て愛しくなって、そのまま可愛いと連呼してるだろうけど全くそんな気になれない。

悔しい、私だって。
初音のことで頭がいっぱいで溢れそうなくらいなのに。


「うーん…、自分で恥ずかしいわぁ。こういう話しするの慣れてないから」

「ふふ、とってもうぶなのねぇ」

「もー、知らんよ」


いつの間に、私は平気なフリをするようになったんだろう。本心を誤魔化すために楽しそうに振舞おうとする。まるでピエロみたいだ。


「ヒロちゃん…?」

「ん」

「いや、どうでもいい事話しちゃったなぁって」


なんとなく、ぎこちない空気を察知する。初音は視線を外していた。
さっきまでの頬の赤みが引いてきている。


「私が聞きたがってた事なんだから、どうでもよくなんてないよー」


作り笑顔も嫉妬心で沈む気持ちも、実は見透かされていたんだろうなと気がつく。
今までずっと一緒に時間を過ごしてきた初音だからこそ、誤魔化し通すことが出来なかったのかもしれない。


「ただ、ちょっと焼きもち焼いちゃった。こんなにも可愛がってる初音にも好きな人が出来たんだなぁって」


私は努めて明るく話す。


「焼きもち…?」

「そう、私も初音が大好きだからね」

「うーん」


よく分からない、そういう意味合いで彼女は唸った。
理解しなくていいよ。自分でさえ、もうよく分からない。


「広ちゃんには彼氏居るのに、変な事ばっかり言うね」

「それとこれとは別なのーっ」

「親友なんだから、変な事言わないで応援してくれたらいいやんか」

「えー、初音を独り占めしてたいのに」

「広ちゃんには困ったなぁ」


ふくれっ面の私と、それに手を焼く彼女。
私はただ、側に居たくて。少しでも触れていたいだけで。

今日も放課後が過ぎて行く。


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