エッセイ *恋愛
鉛筆とあの子
[13/24]


*後姿に私の気持ち


どうやったら、振り向いてくれる?

ぼーっと黒板を見る振りをしていつものように、彼女を見ていた。


そうしながら考える。


嫌でも頭から離れなくなってきた。
自分では誤魔化しきれない情にすっかり飲まれている。


顔を見ない時ですら、ずっと頭からついて離れない。むしろ余計に考えてしまう。気がついたら、初音の事を気にしてしまう。

一人で居たら、居もしないのに名前を呼んでしまいそうになるくらい私は変になってしまった。

こちらに向く人懐っこい笑顔や、広ちゃんと私を呼ぶ声の調子。触れた時の肌ざわりが脳内で繰り返し再生されて、愛しさが勝手に溢れてきて名前を呼びたくなってしまう。


初音、初音。……初音。




初音に対する好き、という感情に呑まれコントロールが不能になりつつある。

やってしまったなぁ。不毛と分かっているのに深みにハマってしまっただなんて。
しかも彼氏が居るのに他の人を好いてしまうだなんて、ほんと最低な奴。



だけど今は、初音の後ろ姿をぼんやりと眺めているだけで幸せなのは確かだ。
ある意味、そんな能天気野郎で居れるなんて、得かもしれない。

そういえば眺めるだけでこんなに幸せになれるって、今まで経験してこなかったな。
私こそ、うぶかもしれない。

単純にこのまっすぐな気持ちを持てた事が、嬉しかったりする。
まだ私しか知らない秘密の気持ち。



今日観察していて思う事は、初音は眠そうだなという事。小さなあくびをしたり目を擦っている。
そんな猫みたいな仕草も可愛いんだけど、眠かったら寝たらいいのにと思ってしまう。

もしも初音が寝てしまってノートが取れなくなった時のために、今日くらいは私が真面目にノートを取ろうか。
けど私のノートはそんなに綺麗じゃないしなぁ。智子の見た方がわかりやすいしなぁ。

まぁいっか、頑張って寝ないかもしれないし。初音の事だからうつらうつらになっても、黒板が消される合間に起きて何とかしそうだし。


休み時間も眠そうだったら、私の肩に寄り掛かって休んで欲しい。それか膝枕して頭を撫でてあげたい。

そんな風に寄り添えたら、私はバカみたいに幸せなのに。

所詮、ただの妄想でしかないけど。


初音は恥ずかしがりだからそんな事自分から言わないし、第一落ち着かないと行って一人机に突っ伏すのを選ぶだろうというのは分かり切ってることだけど。


授業終わったら、そのまま一人で寝ちゃうかもしれない。
もしそうだったら、やっぱりそっとしておこう。
初音も疲れる事だってあるだろうし。最近いつもに増してデッサンのために遅くまで残ってたし。



それにしても、この先生の声は優しくて子守唄みたいだなぁ。


あ……。ペンを持ったまま、初音が小さくコックリコックリ揺れ始めた。





おやすみ。

たまに授業寝るくらいどうって事ないさ。
あの先生は優しそうだから、多分この程度大目にみてくれるから。

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