エッセイ *恋愛
鉛筆とあの子
[14/24]


*電車と平行線


下校のため私は電車に乗っていた。真っ直ぐな動線でもやたらガタガタ揺れる年期の入った車両に、田舎に流れる空気と同じようにゆっくりと進む鈍行の電車。

この私鉄は田舎だから鈍行しかない。
線路が一本なので仕方ないんだけど。

これでも我が県では『一番利用客が多くて、県の広範囲をカバーする電鉄』の『一番のメインとなる筋』だ。南北へ伸びるこの路線の南の終点は有名な観光地で、この電鉄の名前の由来ともなっている金毘羅山のふもとの「琴平駅」まで続く。

確か始発のある市街地方面の駅から終点までは1時間強。
うちの高校は市街地寄りで、県の中心部に位置している。


因みに今は通勤通学時間帯のため、電車は4両編成だ。

人の多さは、イス取りゲーム感覚で素早く場所取りすれば座れるくらい。
今回のイス取りゲームで私は無事場所を確保したものの、一緒に連れ立って乗った修二は立つ羽目になった。

まぁ、これもいつものこと。

彼は吊り革を持って若干ダルそうにしていて、喋るときは吊り革を持ったまま前のめりになって体を倒してくる。

ピンと張り詰めて軋んだ音を立てながら頑張っている吊り革を見ていると、いつか千切れないか耐久性を心配してしまう。


「はぁ、今思い出してもあのバイトのおっさんムカつくわ」

「あ、そうなん?」

「俺を目の敵にして。仕事はちゃんとしてるっつーに」


彼も私と同じように学校には内緒でバイトをしている。
部活も引退したので、最近掛け持ちで新たに中華屋のバイトを始めたらしいのだが、いつも一緒になるおっちゃんが気に食わないみたいだ。ここ最近同じような文句をよく聞くような気がする。


「大変やなぁ」

「そうやで、あのおっさんマジブッ殺してやりたいくらいやわ」

「あははっ、ヤバイな!」


暴言混じりの愚痴を吐き捨てている修二は、おっさんに対してかなり苛々が募っている様子だった。元々、彫りが深くコワモテ? 系の顔をしている修二だが、眉間に刻まれたくっきりと深いシワのせいで、怖いおっさんの顔になってしまっている。


「それでも修二頑張ってるんやね、凄いやんっ」


私は修二のお腹の辺りを軽く叩いて、励ました。そのままちょっとだけ彼のお腹辺りをわしゃわしゃとくすぐってやる。

私の軽いくすぐりに動じず、修二はさっきと同じように変なバランスで吊り革に体重を預けて前のめりになって揺れている。


「まぁな、厨房は元々得意やし」

「修二は料理の手際ええもんなぁ」

「炒飯作るんももう覚えたで。中華鍋めっちゃ重くて熱いから、いっぺんに10人前とか作ってたら俺でも手が千切れそうやわ」

「流石修二やなぁ、めっちゃ暑そう!」


にぃっと笑いかけると、彼はあったり前やろぉと少し表情を和らげた。


「お金ちょっとは貯めなやし、俺も大阪行くしな」

「うん」

「来年の今頃は二人とも大阪かぁ」

「そうやでぇ」


そう、私は未だに修二と付き合っていてこうして時々一緒に帰ったりする。
付き合っているから、そりゃ一緒に帰るだけじゃなくてキスもするしそれ以上も求められればする…。

未来の話しだって、今まで積み重ねてきた約束だってそのままだ。

私が一人暮らしがしたいからと、就職先は寮つきで月給がまだ田舎に比べて高かった大阪を選ぶと、彼は両親の反対を押し切って同じ大阪の専門学校への進学を決めた。
話を聞く限りでは両親を熱心に説得し、親の方が根負けしたみたいだった。

大阪に一緒に行こう。そしてゆくゆくは一緒に住もう。
話の流れとしてはそんなもの。


けど、そんな幻想…。私だって一緒に夢見てたけど。なんだか今はどうでもいい。


はぁ…。心の中でため息をつく。


初音は今日もデッサンしてるのかな、とふとよぎる。修二と一緒に帰るから今日はあの教室には行けなかった。
初音に、会いたい…。いつだって初音と居る方が、楽しいのに。


―――私は修二と付き合っている。



「なんか腹減って来たな」

「そうやね、空いた空いたっ」

「また駅着いたらコンビニでも寄ろー」

「しゃーなしなっ」

「しゃーなしって、お前も腹減ってるやろが」

「あ、バレた?」

「もろバレやしっ」


いつまで、こんなバカみたいなやり取りを修二と続けていくんだろうか。


楽しいフリをしてても、心臓の奥はどこか後ろめたさがあって苦しくなった。

ダメだ、修二と居ても一度考え始めると初音の事が気になってしまう。
やっぱり、どうしても考えてしまうのは初音の事ばかり。


やっぱり初音に会いたい。

側にいて、声を聞いて、ちょっとでいいから触りたい。初音の事を考え出すと胸がぎゅう…っと潰れそうになる。

切ない、さみしい…。やっぱり苦しい……。

このさみしさや苦しさは、修二との会話では紛らわすことも、満たすこともできないものだ。


どうしようもないな。最低な私。

目の前の彼氏は、そんな私の心の奥底など知りもせずヘラヘラ笑っていた。


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