エッセイ *恋愛
鉛筆とあの子
[21/24]


*白の温度差は


大嫌いな冬が好きになれたのは、きっと貴方のお陰なんだよ。






仕事が終わって更衣室の椅子にだらしなく浅く掛けて、体を後ろに倒す。
そして机に一旦置いた携帯を手に取りメールチェックし、適当に返信した。

帰ろうかと思ったが、何となく動くのが面倒だった。なので数ヶ月振りに友人に電話を掛けてみる。
運良くすんなり繋がり、出てくれた。



「もしもし、私やけど」
「久し振り」

「おお」
「ん、どしたん」

「否、何となくやけどっ」
「ふーん」


左耳に当てた携帯からは、聞き慣れていた柔らかな声が響いた。


「最近どうよ?」
「えー、」

「寒い?」
「そりゃ、まぁ」


どうだっていい質問に、微かに笑った様な声で彼女は返す。それに対し、まぁ東北やもんなぁ、と変に私は感心した。


「うん、そっちはどうなん」
「え。寒くもない…あ、否寒い」

「天気はどうなん?」
「ん、朝方雪降ってたらしいけど今は雨降ってる」


天気を聞く理由は分からなかったけど答えてみた。適当に私も、そっちはどう、やっぱ雪なん?と聞いてみる。


「それがな、今日は温かかったでっ」


嬉しそうな返答に気が緩んだ。ほんまと相槌を打つと、彼女は今日向こうでの様子を説明してくれた。

屋根に積もった雪が太陽で溶けて、ドサドサと落ちていくらしい。なので窓からその様子を見る度に驚いてしまうんだとか。
これには慣れんわ、と残念そうに喋る彼女が微笑ましいと同時に可愛らしいと感じた。


それと向こうではそんなに積もってるのか、と想像して羨ましくなる。




初めて見た、1メートル以上積もった白。それは別世界だった。
結晶の形が崩れることのなく舞い落ち、外へ出た私の頭や肩、鼻先に自然とかかった。

その情景が実は今も脳裏の奥底から離れたりはしない。


雪を見たり、外で降っていたと話を聞くだけで幸せな気分になるのは多分、それを思い浮かべてしまうから。

しかしそう思うと同時に、いつも心臓が軋むのは何故だろう。




「ああ、雪見たいな」
「うん、また見に来なよ」

「でも遠いな、行きたいんやけどな」
「そんなに遠くもないって」

「そうかなぁ、まぁ貯金はたけば余裕で行けるでっ。来年辺りに行こうかなぁ」
「うん」



そして電話を4分程で切り上げた。伸びを一回して、すくっと立ち上がる。そのまま外へ出ると未だに雨がしとしとと降り続いている。

「気温がもっと低かったら、雪になるんだけどね」
「そうなんですか」

玄関の戸締まりの為、先輩が私を見送る。

「気をつけてね」
「はい、先輩も夜勤頑張って下さい」



軽く会釈をし、借りた傘を差しながら早足で帰る。もしかしたら雪だったんだと考えると少し残念な気持ちになった。

向こうでは山ほど積もってるのに、と心の中で呟いた。



H19'1.29 am1:38



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